
UXデザインにおけるAI活用の落とし穴。シンセティックユーザーの課題とUXデザイナーの役割とは?
近年、AIを活用してペルソナやカスタマージャーニーマップを作成する手法が注目を集めています。AIの力を借りれば、膨大なデータを瞬時に分析し、それらしいユーザー像を効率的に生成することが可能です。しかし、それで本当に「ユーザーを深く理解できる」のでしょうか? 本記事では、AIとUXの関係を探り、UXデザイナーが今後どのような役割を担うべきかを考えていきます。
AIが作ったペルソナは「シンセティックユーザー」
最近では、AIを活用してペルソナやカスタマージャーニーマップを作成する方法を紹介するブログや記事をよく見かけるようになりました。
たしかに、AIを使えば作業は効率的になります。たとえばペルソナを作成する際、AIが膨大なデータを分析し、それらしいユーザー像を瞬時に生成してくれる――こうした便利さに魅力を感じる人も多いでしょう。
でも、それで本当に大丈夫なのでしょうか。
AIが作ったペルソナは、実は「シンセティックユーザー」と呼ばれるものです。シンセティックユーザーとは、簡単に言えば実在しない合成されたユーザー像のこと。AIは過去のデータをもとに、平均的なユーザー像を作り出します。しかし、それが本当にあなたのプロジェクトに必要な「リアルなユーザー」を反映しているかどうかは、慎重に考える必要があります。
たとえば、AIが生成したペルソナを見て「なるほど、こんなユーザーがいるんだ」と思い込んでしまうと、実際のユーザーが抱えている課題やニーズを見逃してしまう危険があります。これでは、せっかくAIを活用しても、本来の目的である「ユーザーを深く理解すること」が達成できなくなってしまいます。
さらに、AIを活用してペルソナやカスタマージャーニーマップを作成すると、効率的であるがゆえに、チーム内での議論が省略されてしまうことも問題です。
本来、これらを作成する過程では、チームが集まり「このユーザーはこんな行動をするのではないか」「ここで困っているかもしれない」といった議論を重ねます。この対話自体が、ユーザー理解を深めるうえで非常に重要なプロセスなのです。
こうした議論を通じて、私たちはユーザーのインサイト、つまり「本当の気持ち」や「深いニーズ」を発見できます。しかし、AIが生成したペルソナやカスタマージャーニーマップをそのまま受け入れてしまうと、このプロセスが省かれ、結果としてユーザー理解が浅いままになってしまう可能性があります。
AIは“効率化”だけが目的ではない
ここでひとつ、参考になる話があります。3月28日から開催されるイベント「UX DAYS TOKYO 2025」では、Googleのケリー・ダーン氏がUX分野におけるAI活用について講演を行います。

彼女は、AIを単に「効率化のため」に使うのではなく、「多角的な視点を取り入れるためのツール」として活用することを提唱しています。
たとえば、AIは膨大なデータからユーザーの行動パターンを分析するのが得意です。これを活用すれば、議論のきっかけを作ったり、新しい視点を提供したりすることができます。しかし、最終的に「何が正しいのか」を判断するのは、あくまで人間の役割なのです。
では、AIがますます進化していく中で、UXデザイナーにはどのような役割が求められるのでしょうか?
まず、AIはデータをもとにドキュメントを作成するのが得意です。そのため、単にペルソナやカスタマージャーニーマップを作るだけの業務は、正直なところAIに取って代わられる可能性があります。でも、だからといって「UXデザイナーの仕事がなくなる」というわけではありません。むしろ、これからの時代、UXデザイナーにはより高度で本質的な役割が求められるようになるはずです。それは、たとえば以下のようなものです。
1. ユーザーインサイトの発見
AIが提供するデータを活用しながら、ユーザーの本当の気持ちやニーズを見つけ出す力。
2. チーム内での議論のリード
AIの出した結果を鵜呑みにするのではなく、それを基に「本当にこれでいいのか?」と問い直し、議論を深める力。
3. クリエイティブな問題解決
AIが提示するデータだけでは解決できない、複雑な課題に対して創造的なアイデアを提案する力。
4. AIの倫理的活用
AIの出す結果の信頼性や偏りを見極め、適切に活用する責任。
AIを使うのは「手段」であって「目的」ではない
ここまでお話ししてきたように、AIを使ってペルソナやカスタマージャーニーマップ(CJM)を作成することは、効率的で便利な手法です。しかし、それをそのまま「成果物」として扱ってしまうと、ユーザーの本当の気持ちや課題を見逃してしまう危険があります。
AIはあくまで「手段」であり、最終的にユーザーを深く理解し、より良い体験を提供するのは私たち人間の役割です。これからの時代、AIをうまく活用しながらも、人間ならではの洞察力や創造力を発揮することが、UXデザイナーにとってますます重要になっていくでしょう。
世界の最新UX動向を学べる「UX DAYS TOKYO 2025」
記事内で紹介した「UX DAYS TOKYO 2025」のチケットは、イベントサイトにて現在発売中です。カンファレンスとワークショップのチケットを両方購入すると、5,000円の割引、まとめて参加すると、さらに割引を受けられるとのこと。世界トップクラスのリーダーたちが集うこの貴重なカンファレンス&ワークショップに、ぜひご参加ください。
開催概要
イベント名:UX DAYS TOKYO 2025
主催:Web Directions East合同会社
■CONFERENCE
開催日:3月28日(金)
受付開始:9:45
セッション:10:30〜18:00
アフターパーティ:18:00〜19:30
開催場所:シティギャラリー五反田
最大定員:300名
■WORKSHOP
開催日:3月29日(土)〜3月30日(日)
受付開始:8:30
セッション:9:00〜17:00
開催場所:TKPホール品川
最大定員:280名
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Text/Photo:菊池聡(Web Directions East合同会社)