
UXが組織内で“中途半端に終わる”理由とは? 成熟度を高める「UXマチュリティ」の重要性
プロダクトにはロードマップがあるように、UXにも成熟度を測る指標があります。それが「UXマチュリティ」です。UXマチュリティとは、組織がどれだけユーザー体験を重視し、それを実践し、文化として根付かせているかを示すものです。本記事では、この概念を深掘りし、組織のUXを次のステージへ進めるためのヒントを探っていきます。
UXの成熟度を測る「UXマチュリティ」
皆さんの中には、「UXが中途半端で終わってしまう」という悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。たしかに、UXデザインのスキル不足が原因で、プロジェクトが道半ばで終わってしまうケースもあります。しかし、原因はそれだけではありません。
もう一つの大きな要因は、自分が進むべき道、つまり「何を目指すべきなのか」が明確でないことです。
たとえば、プロダクトにはロードマップがあり、どのように発展していくのか、その道筋が示されています。同じように、UXにも「成熟度」を測る指標が存在します。それが、「UXマチュリティ」という考え方です。
UXマチュリティとは、組織がどの程度「ユーザー体験(UX)」を重視し、それを実践し、文化として定着させているかを示す指標です。
ここで重要なのは、UXマチュリティは単なるデザインの成果物やプロジェクトの進捗を評価するものではないということ。もっと広い視点で、組織全体がユーザー中心の考え方をどれだけ深く取り入れているかを測るものであることを認識しておきましょう。
この概念を最初に提唱したのは、ユーザビリティやUXの分野で著名な研究者、ヤコブ・ニールセンです。彼は2006年に「Corporate UX Maturity」(企業のUX成熟度)というモデルを発表し、組織のUXの成熟度を6段階で定義しました。
●ヤコブ・ニールセンのUXマチュリティモデル
ニールセンのモデルによると、組織のUX成熟度は次のように進化していきます。
1. Absent(欠如):UX(ユーザーエクスペリエンス)は無視されているか、存在していない。
2. Limited(限定的):UXの作業は稀で、場当たり的に行われ、重要性が欠けている。
3. Emergent(発展途上):UXの作業は機能的で将来性があるが、一貫性や効率性に欠けている。
4. Structured(構造化):組織には、UXに関連する半体系的な方法論が広く浸透しているが、その効果や効率にはばらつきがある。
5. Integrated(統合的):UXの作業は包括的で、効果的かつ広範囲にわたって実施されている。
6. User-driven(ユーザー主導):すべてのレベルでUXに対する献身が深い洞察を生み出し、卓越したユーザー中心設計の成果につながっている。
いかがでしょう? もしかしたら「あぁ、うちの会社はまだ『発展途上』くらいかな……」と思った方もいるかもしれません。
●ジャレッド・スプールの5段階モデル
実は、UXマチュリティを測るモデルはニールセンのものだけではありません。UXの専門家であるジャレッド・スプールも、別の視点から5段階のUXマチュリティモデルを提唱しています。彼のモデルでは、組織のUX成熟度を次のように表現しています。

1. Dark Ages(暗黒時代):UX設計が存在しない。
2. Spot UX Design(スポットUX):一部のプロジェクトでのみUXが取り入れられる。
3. UX Design as a Service(サービスとしてのUX):UXが専門チームによって提供されるが、全社的には浸透していない。
4. UX Strategy(UX戦略):UXが組織戦略に組み込まれる。
5. Full Integration(完全な統合):UXが組織文化の中心となる。
このモデルも、組織がどの段階にいるのかを考えるうえで役立つフレームワークです。
なぜUXマチュリティが重要なのか?
では、なぜこの「UXマチュリティ」が重要なのでしょうか? それは、UXマチュリティを高めることが、ユーザー満足度の向上だけでなく、ビジネス成果の向上や競争優位性の確立につながるからです。
たとえば成熟した組織では、UXが戦略の中心に位置づけられています。これにより、製品やサービスの開発プロセス全体を通じて、一貫性のあるユーザー体験を提供できるのです。これが顧客の信頼を得て、ビジネスの成功につながるわけです。
では、どうすれば組織のUXマチュリティを高めることができるのでしょうか? 具体的なステップをいくつか挙げてみましょう。
1. 基本の徹底
ユーザビリティテストやリサーチを継続的に実施し、ユーザーの課題を深く理解します。
2. 全社的な理解
経営層から現場まで、UXの重要性を共有し、共通の認識を持つことが必要です。
3. プロセスの標準化
UXを開発プロセスに組み込み、反復的な改善を行う仕組みを作ります。
4. 文化の醸成
UXを単なる手法ではなく、組織の価値観として定着させます。
「Tipping Point(転換点)」への到達
ここで、同じくスプールが提唱する「Tipping Point(転換点)」という概念をご紹介しましょう。この転換点とは、組織がユーザー中心設計を採用し、それが実際に成果を生み始める瞬間を指します。
たとえば、リサーチやプロトタイピング、反復的な改善が組織的に定着すると、チームはユーザーのニーズを深く理解できるようになります。そして、その理解がプロダクトの成功に直接結びつくのです。つまり、UXマチュリティを高めるうえで、この転換点を超えることが重要な目標となります。
日本では、UXマチュリティが最高レベル(完全にユーザー中心の文化が組織全体に浸透)に達している企業は、まだひと握りしかありません。多くの企業は、UXを「プロジェクト単位」や「一部の部署の取り組み」として捉えており、組織全体での浸透には至っていません。
しかし、これからの10年で、より多くの企業がUXマチュリティレベル5(完全なユーザー中心の文化)に到達することが求められます。そのためには、次のような取り組みが不可欠です。
1. 基本の徹底
ユーザビリティテストを繰り返し、ユーザーの課題を発見し続ける。
2. 発見のサイクルを回す
調査やテストを単発で終わらせず、継続的に行い、学びを蓄積する。
3. 文化の熟成
UXを全社的な文化として育て、経営層の理解と支援を得る。
今後10年は「思考」や「概念」を磨く時代
みなさんは、ドラッカーをご存じでしょうか? そうです、経営学の父とも呼ばれる、あのピーター・ドラッカーです。彼の著書を手に取ったことがある方も多いかもしれませんね。
では、ここで質問です。ドラッカーの本を読んだだけで、すぐに彼と同じような成果を出せるでしょうか? おそらく、多くの方が「いいえ」と答えるのではないでしょうか。それでは、なぜ多くの経営者やリーダーが彼の本を読み、学ぼうとするのでしょうか? その理由を少し考えてみたいと思います。
それは、「抽象的で概念的なものほど柔軟性が高く、あらゆる場面で応用できるから」です。
具体的なハウツーや手順は、たしかに実行しやすい反面、状況が変わると使えなくなったり、手順を間違えると失敗したりすることがあります。言い換えると、柔軟性に欠けるとも言えます。
一方で、概念や思考は、状況に応じて形を変えながら活用することが可能です。だからこそ、多くの経営者がドラッカーの本を手に取り、その考え方を自分の仕事や組織に応用しようとするのです。
これは、UXの学び方にも通じる話です。たとえば、UXマチュリティの初期段階では、プロセスや手順を積極的に学ぶことが求められます。ユーザビリティテストのやり方や、カスタマージャーニーマップの作り方など、具体的な手法を学ぶことは、特にジュニアやアソシエイトレベルでは非常に重要です。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、プロセスを学ぶこと自体は決して悪いことではないということです。むしろ、基礎をしっかり学ぶことで、次のステップに進むための土台が築かれるのです。
しかし、プロセスを学ぶだけでは限界があります。中級者や上級者になるためには、具体的な手順を超えて、「なぜこのプロセスが必要なのか」や「その背景にある思考や概念」を理解することが求められます。これが、プロフェッショナルとしての成長において重要なポイントなのです。
思考や概念を学べるイベント「UX DAYS TOKYO 2025」
ここで一つ、注目すべきイベントをご紹介します。2025年3月28日から開催される「UX DAYS TOKYO 2025」です。このイベントでは、グローバルに活躍する超一流の講演者が登壇し、UXにおける思考や概念を直接学ぶことができます。さらに、ワークショップでは講演者から直接指導を受けられる、国内唯一の貴重な機会となっています。

たとえば、「どうすればユーザー中心の文化を組織全体に浸透させることができるのか?」といった具体的なハウツーではなく、もっと深いレベルでの思考や概念を学ぶことができます。これこそが、今後の10年で求められる学び方だと言えるでしょう。
これからの10年は、単に手順やプロセスを学ぶだけでは不十分です。それらを学ぶことももちろん重要ですが、それ以上に、思考や概念を磨くことが求められます。
なぜなら、思考や概念を理解することで、自分の置かれた状況や課題に応じて柔軟に対応できる力が身につくからです。そして、それこそがプロフェッショナルとしての真の成長につながります。
ドラッカーがそうであったように、私たちもまた、具体的な手順を超えた「考え方」や「概念」を学び、それを自分の仕事や組織に活かしていく必要があります。
みなさんも、これからの10年で「思考」や「概念」を磨くことを意識してみてはいかがでしょうか。具体的な手順やハウツーはたしかに役立ちます。しかし、それを支える「なぜ?」を理解することで、より柔軟で応用力のあるスキルが身につきます。
そのための第一歩として、「UX DAYS TOKYO 2025」のような場で、世界トップレベルの講演者から学ぶことは非常に有意義な機会となるでしょう。これを機に「思考」や「概念」を磨き、自分の可能性を広げてみてください。わずかな投資で、あなたの人生を変えるきっかけが見つかるかもしれません。
世界の最新UX動向を見逃すな! チケットの購入はお早めに
「UX DAYS TOKYO 2025」のチケットは、イベントサイトにて現在発売中です。カンファレンスとワークショップのチケットを両方購入すると、5,000円の割引、まとめて参加すると、さらに割引を受けられるとのこと。世界トップクラスのリーダーたちが集うこの貴重なカンファレンス&ワークショップに、ぜひご参加ください。
開催概要
イベント名:UX DAYS TOKYO 2025
主催:Web Directions East合同会社
■CONFERENCE
開催日:3月28日(金)
受付開始:9:45
セッション:10:30〜18:00
アフターパーティ:18:00〜19:30
開催場所:シティギャラリー五反田
最大定員:300名
■WORKSHOP
開催日:3月29日(土)〜3月30日(日)
受付開始:8:30
セッション:9:00〜17:00
開催場所:TKPホール品川
最大定員:280名
チケット情報はこちら
Text/Photo:菊池聡(Web Directions East合同会社)