「つくるだけ」にしない動画施策

1本の高価な動画よりも10本で安価な動画づくり

私たちは動画だけを単体で制作するわけでなく、クライアントのデジタルソリューションとして動画を絡めた施策を、2000年初頭から数多く手がけてきました。当時と現在を比べて強く感じる違いは、動画コンテンツのニーズが一般化したことです。動画をユーザーに提供したい企業担当者側、コンテンツを視聴するユーザー側、動画をつくるプロダクション側、異なる立場を問わず共通することでしょう。その上で、「なるべく合理的・効率的に提供したい」という要望に、私たちはよく直面しています。

デジタル施策で動画を考える場合、常に私たちは、動画を取り巻く3者の立場(提供したい側、受け取る側、つくる側)を時代の潮流や変化にあわせて捉えなおして、適切なアプローチで施策化できるように心がけています(01)。

動画を発信したい側、つまり、企業のデジタル担当者の立場を考えると、数年前までのテレビCM並みの品質を求めることが少なくなっています。動画を手軽に撮影できる環境が揃い、すでにPCでもスマートフォンでもストレスなく動画が視聴できる現在では、動画を「効率的かつ効果的に利用したい」のが本音です。例えるなら、高価格の1本の動画ではなく、安価で引きが強い10本の動画を求めている、と言えます。

01_3者の立場から動画を捉える

動画は、各立場(提供、視聴、制作)の置かれた現状を踏まえると、的確な施策の一歩が踏み出しやすくなるでしょう

 

ユーザーや制作側の変化にも敏感に反応できるか?

動画コンテンツの魅力は、被写体を立体的に見せられることや、時間軸の中で表現できることです。商品理解を促したり、サービスの使い方を訴求するコンテンツには、動画が適していることも多く、「つくりたいけれど高価で手間がかかる」から「工夫次第で安価で効果的なコンテンツがつくれる」認識が、企業担当者のみなさんの中で強く広がっています。YouTubeだと、各企業がチャンネルを設けて、独自コンテンツを掲載していますが、そこに求められるのは、映像美などの高品質でなく、コンテンツとしてのリアル感です。

ユーザー目線だと、最近はYouTubeやInstagram、Twitterなどは、検索ツールとして利用されています。よく目にするわかりやすい一例が料理です。つくり方をYouTubeで検索して、映像で確認しています。YouTube用のSEO対策など、各種プラットフォームも検索エンジンだと捉え対策する時代なのです。

制作側の視点で言えば、映像プロダクションのような専門業者に頼らず、Web制作会社が内製し、費用を抑えた制作が可能になってきています。実際に私たちは、2000年代から内製の可能性を模索し、実行してきました。企業側のニーズを察知しながら、編集や制作環境に敏感に対応すべきと考えてきたからです。私たちは最新機器がリリースされれば、いち早く入手して即試してきました。例えば、一昔前なら考えられなかった、デジタル一眼レフカメラを用いた動画撮影を、キヤノンが「EOS 5D Mark II」をリリースしたと同時に入手し、現場の施策で導入しました。ドローンも各種を海外から取り寄せて、自前で検証を重ね、撮影方法の幅を広げてきました。ドリー(水平移動)撮影用のスライド機材も、Edelkrone(エーデルクローン)社からコンパクトで現実的な価格で発売されています。「内製でも一定の品質を担保できる」動画を生み出せる環境が揃ってきています。

内製の可能性は、クライアントにとっても有力な選択肢となるはずです(02)。

「提供」×「ユーザー」×「制作」=「最適解としての動画」

動画が身近になった背景を、異なる立場の観点でもう少し細かく見てみましょう。これらを踏まえながら、限られた予算内で一定の品質を保ち、ユーザーに伝わる動画を提供できるか。3者それぞれの立場で問われる腕の見せどころ、知恵の出しどころだと思います

 

目的や条件をきちんと整理逆算して動画企画を設計する

実際に私たちが動画施策を手がける場合、具体的に心がけていることを説明します。もっとも意識するのが、目的に適った動画を緻密に企画した上で、逆算しながら設計していきます。「誰が」「いつ」「どこで(どういった状況で)」「どのような目的で」視聴する動画であるかを導き、それぞれで割り出した要素を動画として構成します。

私たちのグループ会社が企画、制作した動画(「CAREPRO」というトリートメント浸透促進器に関するプロモーション動画)を一例に、考えてみます。「誰が」では、年齢層や性別(男女どちらか or 問わなくていいのか)を検証します。導き出した内容によって対象のデバイスや配信元の選び方も変わってきます。「いつ」では、時間帯問わずなのか、寝る前なのか、週末だけか? 「どこで」は、自宅の休憩時間でのSNS利用時か、朝の通勤中(電車内)なのか、店頭なのか? いつ、どこでの内容によって、音声の有無や尺の長さも変える必要があります。商品認知用なのか、購買獲得用か、など目的や条件も詰めておきます。

03の場合、10~20代女性で髪の悩みを抱える人たちが対象で、商品訴求や製品理解を目的にした動画にしようと考え、最適な配信場所として、Instagram広告で展開を決めました。FacebookやInstagramは精緻なターゲティングが可能なメディアですので、ターゲット層がはっきりする場合におすすめです。SNSのタイムライン上での公開を想定するなら、肝は再生後1秒以内。ユーザーが興味を引いて見続けるかどうかの瀬戸際が1秒です。

タイムライン上の動画広告は見られない前提で、「それでも見てもらうための工夫」を考えます。例えば、3→2→1とカウントダウンを入れたり、早回しやスローモーションなどの動きを加えながら、映像に強弱や流れをつけて、つい滞在したくなるようにします。

03_逆算して中身を設計した動画の一例

トリートメント浸透促進器「CARE PRO」のプロモーション用の動画。ベースメントのグループ会社、ベースメントファクトリーデザインが企画、制作

 

ビジネスを理解できた取り組みで、動画を含むUXに磨きをかける

ソニーの「Stories」(P072~P073、以下Stories)についても、先ほど触れきれていなかった点を補足します。Storiesはグローバル対応のため、全世界のどの国や地域の人たちが見ても納得するUXとするのが必須でした。

難しかった1つが音声対応です。動画での音声の扱いはもともとセンシティブに扱うべきですが、単純に「音声なし」を用意していればいいわけではありませんでした。ソニーの事前調査で、国や地域によってはいきなり音声が聞こえて再生される状態が喜ばしい、という場合があったからです。

最終的に、企業サイトの中にある動画という位置づけも考慮して、最初の再生前の段階で「音声あり」と「音声なし」のボタンを両方用意して、ユーザーが選択できるUXとしました(04)。

さまざまな背景を踏まえた上での判断は、Storiesのゴール設定についても同じことが言えます。「ソニーが持つ多様性を感じてほしい」というブランドメッセージを念頭に置くからこそ、「1セッションで2つ以上のコンテンツの完全視聴」といった目標以上に、目標を持つその本質こそが重要です。ソニーというブランドを感じてもらい、動画での態度変容が目的だからです。

1コンテンツ目の完全視聴ユーザーが、動画の内容に興味を抱き、グループサイトで深掘りしたくなれば自然と追いかけやすい導線を用意しておくべきです。もし目標設定の本質が見えていないと、1つ目の完全視聴後の別サイトへの遷移が離脱扱いになりかねません。離脱でなく、グループ内の回遊を促す「送客」として評価できるか、なのです(05)。

目的がブランディングなのか獲得なのかでも違いは出てきますが、動画を含むサイト全体のUXや、マーケティングの観点に基づく判断も加わっていくと、最適で万全な動画施策の準備につながっていくでしょう。

04_適切な「音声」の扱い方を模索したUX

グローバル対応Webサイト、ソニーの「Stories」(P072~P073)は、世界各国/各地域における動画コンテンツの「音声あり」「音声なし」に対するユーザーのありようを調査した上で、全世界共通のUXを検討し、最終的な判断として両者を選べるUIを採用しています

05_本質を貫く目標を設定する

設定した目標を遵守することよりも、目標の本質を外さないことこそが大切です。この場合は、ユーザーにより深くソニーブランドを体験してもらうことであり、関連サイトへの遷移は同様に好評価となるべきです

 

教えてくれたのは…石谷 亮
(株)ベースメントファクトリープロダクション COO https://www.bfp.co.jp/
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