
効果を上げる動画広告3つのポイント
POINT[1]クリエイティブ設計の基本は目的ありき
動画広告の目的を明確にする
動画広告の成果が出なかったという経験をお持ちの方は、もしかしたらその目的と動画のクリエイティブが一致していないのかもしれません。実際に弊社にいただく相談でも、理解・促進が目的なのに認知目的のテレビCMをそのまま流用していたり、認知が目的なのに商品スペック説明動画を流していたりと、広告の目的とクリエイティブが食い違っている場合が少なくありません。
一般的によく言われることではありますが、動画広告ではまずファネルのどのフェーズを狙うのかを明確にすることが必要です(?)。デジタル広告ではリターゲティングやリスティングなど「獲得」目的が多い反面、動画広告は「認知」を目的に使われることが多くなっていますが、その間の「興味・関心」「比較・検討」フェーズにももちろん有用です。むしろ情報量の多い動画は、それらのフェーズにこそ適していると言えます。
また、Googleが提唱する動画制作の考え方、「3H戦略」(Hero=人間の普遍的な欲求を刺激、Hub=生活者の興味関心に沿う、Help=具体化したニーズへの回答)というものがあります。Hero動画で興味を引き付け、一定時間視聴した人にHub動画を見せ、反応を確かめてから一歩踏み込んだHelp動画を流すというように、どんな目的の動画をどんな順番で見せていくかという流れも設計したうえで、それぞれの目的にかなったクリエイティブを考えていくようにしましょう。

目的を起点にクリエイティブを考案する
ファネルの中のどのフェーズを狙うか決まったら、次はそのためには何を訴求するクリエイティブにするかを考えます。例えば、どのような人たちがターゲットとなり、それぞれ商材に関連したどのような課題を持ち、何をアプローチすると動画広告の目的が叶えられるかというように「ロジックシート」にまとめ、組み立てていきます(?)。このようにクリエイティブは、目的起点で制作するべきです。目的が理解・促進ならばそのためのクリエイティブが、購買であればそのためのクリエイティブが必要となります。動画広告の成果は、クリエイティブの良し悪しが一番大きく影響します。目的にマッチしていれば、既存の動画を活用するのもよいでしょう。
また、動画広告では複数パターンを用意して効果測定をし、PDCAサイクルを回して広告効果を上げていくことも重要です。そのため、可能であれば制作の段階からあらかじめ複数パターンの動画クリエイティブを並行して企画・制作しておくようにします。

動画のクオリティは担保すべき
動画のクオリティが担保できているということも重要です。ギャップを狙いわざとチープにしていて、それが良い効果をもたらすという場合は別ですが、クオリティの低い動画を使うと企業や商品・サービス自体に「ダサい」「きちんとしていない」という印象を持たれ、ブランドイメージを毀損してしまうことになってしまいます。わざわざお金を払い、マイナスの効果を与えてしまうのは本末転倒です。そうならないためにも、クリエイティブ制作の予算を必要以上に削減することはリスクだと考えています。
また、大前提として“広告“は視聴者から歓迎されるものではありません。そのため、視聴者に少しでも楽しく感じてもらえるものにすることで、より興味を喚起しやすくなると考えています。弊社ではクライアントの担当者の方と一緒に企画を考えることが多いのですが、考えていて自分たちが楽しいと感じる企画のほうが視聴者にも受けているように思います。ただ、悪い意味でクリエイター気質を発揮し、消費者に理解・共感されないものにならないように気をつける必要はあると思います。
POINT[2]デジタルマーケティング全体を絡めた配信設計
配信先との相性を考える
動画広告の目的によって、どの配信先や配信サービスがマッチするかも変わってきます。例えばSNSやYouTubeはユーザーが多く、動画広告が受けた場合は拡散も期待できますが、その企業や商材がユーザー層とマッチしていない場合は当然、適切とは言えません。
また、同じ商材でも、「コストパフォーマンスの良さ」と「大企業による安心安全というロイヤリティ」といった特長を持つ場合、前者は一般層の集まるメディアに、後者は高収入者層のユーザーが多いメディアに訴求するといったような使い分けも考えられます。
動画マーケティングにおいては、「配信する媒体や面においてどのような視聴がされるのか?」といった要素も予め念頭においておく必要があります。
他の広告との連携でさらに効果を上げる
動画広告とその他のネット広告は、同じ会社でも別の部署や別の担当者となっていて、連携していない場合も多いです。しかし、動画に投資した資産をうまくデジタルマーケティング全体に組み込んで使わないのは損だと言えます。
例えば、この動画を一定秒数以上見た人に対して、リターゲティング広告を表示するCookieを付与し、獲得目的のバナーを当てるというような連携ができます(?)。動画広告を一定秒数以上見たユーザーは多少なりとも興味を持ってくれた可能性が高いわけですから、動画広告で単発の接触だけではもったいないです。そのユーザーを囲い込むのに動画広告よりも圧倒的に安いディスプレイ広告を組み合わせることで、効率的なエコサイクルを築くことができます。そうした連携は、購入や申し込みといった最終的な目的から逆算していくと設計しやすいです。
先述した3H戦略のように、動画広告も段階に応じて出し分けるような設計にしていくとさらに効果的でしょう。企業では認知や獲得といったファネル別にも予算やKPIが分かれていることが多いです。そうした背景により施策が単発で終わってしまい、次に繋がりづらいという場合もあります。せっかく良い動画クリエイティブをつくっても、それでは効果が最大化できません。
もちろん、無条件にユーザーとの接点を増やせばいいわけではありません。一度クリックしたら延々と同じ企業のバナーに追われては不快に思われてしまいます。そこはユーザーも気にしているところなので、接触する頻度などのバランスにも配慮しましょう。企業のブランディングに関わるところなので、広告を見せる一方ではなく、きちんと気を配るべきです。その代わり、数カ月後に新商品が出たときに、コミュニケーションするというように繋げていくなどの活用は十分効果的だと思います。

潜在層にまでアプローチする
リターゲティング広告やサーチで取れるユーザーは、顕在層でしかありません(?)。そうした広告だけを続けていても、競合他社とのシェアの奪い合いになってしまいます。また、社内での目標値が年々上がってきて、費用対効果も上げなければいけないという状況になり、もう打ち手がないという壁にぶつかってしまうという悩みを、特に近年デジタル広告のご担当者から聞くことが増えています。動画広告は他のデジタル広告と比較し、メッセージを強く伝えることができるので、潜在層にアプローチして認知や興味・関心を持たせ、その後リターゲティングなどでサイトへ誘導できるという点もこの連携の強みになります。
このように動画広告とリターゲティング広告などを連携させ、ストーリー立てて追えるとユーザーとの接点が増えるので、動画広告の成果もリターゲティング広告の成果も上がります。その結果、企業のデジタルマーケティング全体におけるパフォーマンスの拡張に繋がっていきます。
こうして連携させた際の効果検証は、動画広告は動画広告のKPI、リターゲンティング広告はリターゲティング広告のKPIで別々に追うべきです。それぞれ目的が違っているものを連携させることで相乗効果生み、お互いのKPIを助け合うという関係性になっているからです。

POINT[3]効果検証は“定性”と“定量”の2軸で行う
確度の高い定性調査にするために
動画広告の効果検証は、「定性調査」と「定量調査」の2軸で行う必要があると考えています。動画はクリエイティブによって与える広告効果が違ってくるため、定量的な指標だけでは評価ができないからです。
何を評価指標とするかは、目的に応じて違ってくるため、適切なKPIや指標を立てることも大切です。例えば、Web 上で動画広告を見た人に実店舗へ来店してもらうことが目的の場合は、来店計測をするのがよいでしょう。
動画広告の効果検証のためによく行われる定性調査が、ブランドリフトに関するアンケートです。広告に接触していないユーザーと比較して、認知や購買意欲などが向上しているかを調査します。ただし、認知に関しては、広告を出せば絶対に上がるものですが、ユーザーが認知した際に、ポジティブな感情を持ったのか、ネガティブな感情を持ったのかを分析する必要はあります。例えば、長時間消せないなど見たいコンテンツを阻害する広告フォーマットの場合は、ユーザーにネガティブな印象で記憶されることもあります。
また、ブランドリフトの数値は、アンケートの設問のつくり方一つでも大きく変わってしまうものなので、それだけで効果検証をするのは危険だと言えます(?)。細かい評価軸でアンケートを取るようにし、PDCAに還元できるようにするのがよいでしょう(?)。例えば複数パターン用意した動画のうちでどのクリエイティブが一番覚えられていたかを調査し、それぞれの属性とクロス集計し、女性には受けが良いけれど男性には響いていないクリエイティブがあったとしたら、新たに男性にも響くクリエイティブを考えていくというように改善に繋げていくことができます。また、ブランドに興味が無いと答えた人に対して、なぜ興味がないかを調査することで、そのポイントをカバーするクリエイティブをつくるという対処もできます。
定性調査をするにあたり、もう一つ重要な点がサンプル数です。弊社では自前のサーベイツールを用いて1,000人以上に、最低でも10問程度の質問数で調査を行っています。あまりにもサンプル数が少ないと、サンプルをさらに区分し集計した際に数件の意見の差異で数値が大きく変わってしまうため、信頼性の高い数値になりません。また、アンケート調査を、通常では動画広告の配信終了から7~10日後に行うようにしています。時間が経っても印象に残っているものがわかるので、信頼性のある結果になりやすいと考えています。


クリックを基準に定性調査を判断してはいけない
もちろん動画広告といえど、デジタル広告は精緻な数値も取れるので、定量調査もあわせて行います。弊社では、パフォーマンスへの寄与やアトリビューション(コンバージョンまでの経路)にどう効果をおよぼしたかを見える化していて、主に見る指標は、ビュースルーコンバージョンやビュースルーCPA、ビュースルーサーチなどです(?)。
バナー広告ではクリックが指標となることが多いですが、動画広告は動画を視聴させるためのフォーマットであり、クリックに特化したフォーマットではないため、基本的にはクリックを指標とするのに適していないと考えています。例えばバナー広告と比べてCPC(クリック単価)が数倍も悪いことから動画広告は費用対効果が低いとやめてしまう企業さんもいます。しかし、CPCは悪くとも、動画広告によって指名検索が30%も増えていて、実はデジタル全体の効果改善やスケールに繋がっていたという事例もありました。それも踏まえてROI(投資対効果)を考えると、むしろものすごく効果の高いポテンシャルを秘めた広告だともいえます。また、例えばYouTubeのTrueView広告を使っている場合は、視聴に強いフォーマットなので視聴完了で見るというように、その媒体でユーザーが動画にどのように接しているかも踏まえてKPIを設定し効果検証をしていくとよいでしょう。
うまくいっている動画広告は、定量的な数値も定性的な数値も、どちらも良くなるものです。どちらか一方だけ良くても、もう一方が悪い場合は、目的とクリエイティブのマッチングができていない可能性があります。両方バランスよく成果が出ていることが重要です。


- 教えてくれたのは…伊藤展人さん
- アルファアーキテクト(株) 執行役員 CMO/Video Consulting Div. 2016年10月より動画広告事業のVeleTを担当し、動画広告の開発などのディレクションをメインに手がける。また、2018年11月より執行役員としてプロダクト開発、メディアマネジメント、プロモーション運用体制などの構築、スケールも担う。