商売の枠をはるかに越えて。魅力を語り続ける「ベルギービールJapan」のオフライン活動●特集「EC再強化」

ベルギービールに魅入られ踏み込んだ先

ベルギービールを専門的に販売するECサイト「ベルギービールジャパン」。店主の三輪一記さんは、ベルギービールがほとんど知られていない時期からその商品性に注目し、販売を手掛けてきた人だ。

「今回、取材のお話しをいただいたので、当時の帳簿を見てみたんです。そうしたら1999年の、月あたりのベルギービールの売上がだいたい5万から10万円でした。これでは商売にはなりませんよね(笑)」

ベルギービールジャパンは、愛知県名古屋市の中心街、官公庁の集まる丸の内に店舗を構える酒販店「木屋」が運営するECサイトだ。こぢんまりとした店だが、並んでいるベルギービールのラインナップは、珍しいものばかり。好きな人にはたまらない店だろう。

三輪さんは木屋の4代目として、1993年から店に携わるようになったというが、時代はポストバブル。店は苦境に陥っていた。

「何かしなくちゃという危機感の中で、考えたのが専門店化なんです。地酒の会に入ってみたり、ワインの勉強を始めたり。ただ、実は私がお酒にそんなに強くないもので、もうちょっと軽く飲めるものはないかなと探していたところ、ベルギービールを知りまして」

実際にベルギーを訪れて、その豊かな世界に引き込まれた。

「小さな国なのに、ビールが1,000種類以上もあるんですね。日本でビールというと金色が普通ですが、黒に白、赤や茶色もある。甘いものや苦いもの、酸っぱいもの、さらには香りがフルーティーなものやスパイシーなものまであるんです。アルコール度数も、高いものでは12~3%までと幅がある。自分が好きな銘柄を見つける、そんな楽しみがあるんですね。これはいいなと思ってさっそく仕入れて、当時運営していた木屋のECサイトで販売を始めたんです」

しかし結果は散々。「ほとんど売れなかった」というわけだ。三輪さんは、当時の心境をこう振り返る。

「開き直って趣味のつもりで扱っていました」

実はこの“趣味”という言葉が、ブレイクの鍵となる。

ベルギービールJapan

明治時代に、当時手掛けていた醤油醸造業の小売部門として出店した木屋。現在も名古屋市で酒類の小売店を営むかたわら、ECショップベルギービールジャパンを運営。豊富な品揃えと圧倒的な情報量で現在のベルギービールブームの礎を築く。店主の三輪さんは、各種のイベントを主催したり、個人サイト「kazunorimiwa.net」(http://www.kazunorimiwa.net/)などを通じた普及活動も熱心に行っている。

商品としての「ベルギービールJapan」とは?

ベルギーでは、自然発酵のランビックをはじめ多種多様なビールが800種類以上も造られている。味はもちろん、素材や色、香りなどさまざまな違いがあり、まるでワインのような広がりがある。顧客はそれぞれの味の理由や、文化的背景まで知りたいと考える人が多く、なかにはマニアックにそれを追究する人もいる。

 

毎晩夜中にコツコツとその努力が花開く

三輪さんは、ベルギービールの世界に、いっそうのめり込んでいった。

「珍しいビールを少しずつ仕入れては、このビールがどんな素材を使って、どんな製法で作られているのか、といったことをコツコツ調べましてね。時には醸造所を訪れたりしまして。それを夜中に文章にして、サイトにコツコツとアップする。夜中に作業したのは、仕事が終わった後という意味です。相変わらず、仕事になるほど売れませんでしたから(笑)」

転機は2001年頃。この頃、サイトを見たという人が店舗を訪れるようになっていた。驚くべきことに、東京から来る人もいたという。

「今思うと汗が出ますが、当時は“ベルギービールの聖地”なんて言っていただいて。でもそう言っていただく割には普通の酒屋でしたから、何とかしないとと思いまして。せめて、この店を使ってイベントをやってみたらどうかと考えたんです。日本酒やワインで行われている試飲会を参考にしたんです」

当初集まったのは20人ほど。しかし回を重ねるごとに、“同志の輪”は広がっていった。ただし、三輪さんは変わらずこんな感じ。

「商品を買っていただけるのはもちろんありがたかったのですが、それよりも、多くの方々とベルギービールについて話ができる嬉しさのほうが大きかったですね」

ECにおける「オフライン」は、重要な戦略の一つだ。顔と顔をつきあわせて話をすることで、顧客との距離はグッと縮まる。彼らコアなユーザーとの絆を深めれば、ブログやSNSを使って、情報の発信元にもなってくれる。

地道な取り組みが功を奏し、現在につながる「ベルギービールJapan」のECサイトを立ち上げた2004年頃には、引き切りなしに注文が入るようになっていた。採算を度外視するほどの取り組みが、強い求心力を発揮した結果と言えよう。

「趣味だからできたのかもしれませんね」

仕事じゃきっと、できなかったに違いない。

 

お話を伺った人:三輪一記さん

「ベルギービールJapan」主宰。26歳のときにベルギービールと出会い、以来ベルギービールを愛し、ライフワークとしてその普及に情熱を傾ける。「ベルギービールを通じて日本とベルギーの架け橋に」というコンセプトのもと、講演やセミナーにも積極的に取り組んでいる。

 

ベルギービールの魅力をていねいに語り続けていくために

ベルギービールが一般化するにつれ、売上は大きく伸びていった、というが、2009年を境に、横ばいに転じたという。大手ECサイトが本格的にベルギービールを扱うようになったことや、サイトが古くなってしまったこと、さらにはスマホ対応の遅れなどがその理由とのことだが、これを機に、ECのオペレーション全体を見直すことにした。

「ベルギービールも裾野が広がり、女性もそうですし、20代を中心とした若い層のような新しいお客様も増えているんです。そういった方々にも、ベルギービールの深い魅力が伝わるようにしたい、と。そこで、昔のやり方に戻すことにしたんです。効率化を求めて外注していた流通作業をできるだけ自分たちでやるようにして、お客様の要望にフレキシブルに対応できるようにしたりとか、ひと頃は手が回らなかった電話での応対も積極的にするようにしたり。そのためのスタッフ、体制をようやく整えたところなんです」

その仕上げとして、近々、ECサイトのリニューアルを予定している。資産であるコンテンツをより届きやすくすると同時に、いっそうの充実をはかりたいと考えている。

そんな三輪さんだが、実は今も、日本ベルギービール・プロフェッショナル協会の代表理事として講演やセミナーを開催したり、雑誌記事の執筆を手掛けたりと、仕事の枠をちょっとはみ出した活動を、相変わらず精力的に続けている。まさにライフワーク。その本気度が人を引きつける。

 

 

 

「ベルギービールJapan」が売れてる理由

●ほかにはない商品をコツコツと育てたこと

●実際に現地を訪れるなどして得た一次情報の充実

●「オフライン」イベントでユーザーと交流を図る

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