
[海外事例]ドライバー向けに特化したアプリ「Live Traffic」の“最適化”プロセス●特集「スマホ最適化」
徹底したユーザー分析
エミレーツ航空やThe Economistなどをクライアントに持ち、世界8カ国で制作を行うTigerspike社。昨年開設した東京オフィス代表の根岸慶氏は、スマホ向けアプリやサイトのポイントを次のように説明する。
「『UX』『ビジネス』『テクノロジー』のバランスが非常に重要。UXは最大化させるものではなく、この3つのバランスの中から“最適化”させることが常に求められます」
同社がオーストラリアのニューサウスウェールズ州(以下、NSW)から依頼を受けて制作したのが、iOS、Android向けアプリ「Live Traffic」。NSWの渋滞緩和を目的にローンチされたこのアプリは、道路工事や浸水など、Googleマップでは得られない道路情報がリアルタイムで表示されるのが大きな特徴だ。だが、こうした機能だけではユーザーに使い慣れたGoogleマップから乗り替えてもらうのは難しい。そこで同社がアプリ開発の際に行ったのが、徹底したユーザー分析だ。

「ユーザーは誰なのか、どんなシチュエーションで使うのか、どんな機能が必要とされていて、何に困っているのか。Googleマップの代わりに使ってもらうにはどうすればいいのか。それらをヒアリングやユーザーテストから導き出して、NSWが持っている交通情報をどう使えば、課題が解決できるのかを考えていきました」
その結果、導き出されたのが、通勤や子どもの送り迎え、買い物など、「日常的に同じルートを走るドライバー向けアプリへ最適化をする」こと。
Googleマップは徒歩や自動車、電車など幅広いルート検索ができる反面、ドライバーにとっては目的地を手入力したり、高速使用有無の切り替えに2~3の操作が介在するため、若干、手間がかかる。
そこでLive TrafficはAB地点ルート検索や、高速使用の有無、混雑状況の表示などをタッチだけで可能にするなど、Googleマップとの差別化を図っている。さらに登録したポイントの交通量がライブカメラでチェックできる機能なども付いており、毎日決まったルートを使うユーザーにとっては、Googleマップ以上に使い勝手のよいアプリを生み出した。

モバイルだからこそ機能を絞る
ユーザーのシチュエーションを徹底的に分析して制作されたLive Traffic。こうしたスマホ向けアプリやサイトの開発には、情報の取捨選択がもっとも大事だという。
「最適化に大事なのは、表示する情報の取捨選択です。小さい画面サイズで2つか3つしか情報が見られないと仮定したときに、ユーザーが何を求めるか? そこを突き詰められるかどうかがかなり重要になってきます」
それを実現するために想定ユーザーのヒアリングが欠かせないが、ここでもコツがある。
「『ユーザーは常に誘導される』が大前提。ヒントや例を渡すとそれに引っ張られます。純粋にユーザーを見られるかどうかが、本当のニーズを見極める上で大切になります」

そしてもうひとつ注意したいのが、機能の盛り込みすぎやビジネス視点の強要だと根岸氏。いつでもユーザーと繋がるツールだけに、気をつけなければならないポイントがある。
「モバイルの一番の特徴はTPOを選ばないこと。朝起きた直後から、寝る直前までスマホはユーザーとのタッチポイントになり得ます。ただ、だからこそ、本当に必要な機能を絞り込んで落とし込むことが必要。ユーザーは実はアプリやサイトに、多くの機能を求めていません。スマホはビジネス視点から見ると何でもできる魔法のツールに見えますが、実はそうではないということをきっちり認識することが大事だと思います」


- 根岸慶
- (Tigerspike(タイガースパイク)日本支社代表。 NTTコミュニケーションズ、 Individual Systems Co.,Ltd.(ベトナム)を経て、2014年に同社日本オフィス立ち上げに参画。Tigerspike