
コンバージョンを達成するための全体戦略と手法●特集「コンテンツマーケティング」
目標設定の有無が成否を分ける
「流行っているからやってみよう」「SEOに有効らしいからやってみよう」といった動機だけでコンテンツマーケティングを始めると、必ず失敗する。コンテンツを作ることが目的化しないように、最初にビジネスゴールを設定することが重要となる。
ゴールを設定する上では、売り上げ向上や顧客数増加、購買や契約などのコンバージョンアップを狙うのは当然として、どういう顧客に対して、どんな関わり合い方をすべきなのかを決めることが大切だ。
次に挙げる四つの方向性を参考に、コンテンツマーケティングを継続しながら、顧客にとってどんな存在になりたいのかを決める必要がある。

1. ブランド認知(名前を覚えてもらう)
ブランド認知が商品の購入決定要因の大部分を占める商品やサービスの場合の目標として適している。
2. ブランドロイヤルティ(ファンになってもらう)
趣味性の高い商品やサービスなどにおいては、既存顧客は最大のセールスマンになる。既存顧客からのクチコミを重視した場合の目標として適している。
3. カスタマーエデュケーション(正しい知識を持ってもらう)
購入前の検討期間が比較的長い商品やサービスの場合に有効な目標設定となる。売り上げ向上だけでなく、例えばお客さま相談室への問い合わせ削減などのコストの目標にも使える。
4. カスタマーエンゲージメント(日常的な関わりを持ってもらう)
生活者と常に関わりあうことが重要な商品やサービスでは、愛着を持ってもらうことが大事である。そういった場合に適している。
コンテンツマーケティングの具体的手順
ビジネスゴールが設定できたら、いよいよその実現のためのコンテンツマーケティング戦略を立てることになる。認知からコンバージョン(購買)につながるように、誰に、何を、どういう順番で伝えるかを決め、コンテンツを作成し、それを見込み顧客に知ってもらうための施策を考えるという手順になる。

この作業を繰り返すことで、コンテンツを充実させていく
※1 「Call To Action」の略で、顧客にとってもらいたい行動を誘導すること
※2 「Key Performance Indicators」の略で、目標の達成度合いを計る定量的な指標のこと
1. 誰に伝えるのか
コミュニケーションでもっとも重要なのは、誰に伝えるのかを明確にすることだ。伝える相手が違えば、伝える内容も伝え方も異なるからである。コンテンツマーケティングにおいては、誰に伝えるのかを明確にするために、まず「ペルソナ」を設定する。
2. 何を伝えるのか
伝える相手が明確になれば、伝える内容も明らかになってくる。設定したペルソナ別に、どんなコンテンツがあれば惹きつけることができるのかを検討する。ただし、見込み顧客視点だけでは、コンバージョン(購買)につながらない可能性がある。したがって、企業として伝えたいことが表現できているかも確認しなければならない。つまり、ペルソナ視点と企業視点の二つの側面から何を伝えるのかを決めていく必要があるということだ。
3. どういう順番で伝えるのか
「誰に」「何を」が明確になったら、必要な情報を漏れなく伝えるために、どういう順番で伝えるのかを設計する必要がある。また、伝える相手によって適切な媒体を選ぶことも重要となってくる。
STEP01 ペルソナ設定

ペルソナとは、属性や特徴、嗜好や習性などで分類したグループ(セグメント)を代表する一人の人物像を詳細に記述したものだ。見込み顧客を群で捉えるのではなく、特定の一人にまで人物像を絞り込んで考えることで、ユーザーが抱えている困りごとや問題がイメージしやすくなり、それを解決するためのメッセージ戦略やアプローチ方法が設計しやすくなる。基本的なプロフィール情報と購買プロセスに関する情報で構成される(03)。
STEP02 カスタマージャーニーマップの作成

ペルソナ設定を行うと、「誰に」「何を」までが明確になるが、時間軸のない静的な情報であるため、どういう順番で情報を提供したらよいかが見えてこない。これを検討するために利用するのが「カスタマージャーニーマップ」だ。カスタマージャーニーマップを作成すると、認知から購入にいたるまでに、見込み顧客がどんな情報を欲しているかを時間軸で確認できるようになる(04)。
必要なコンテンツを見いだすのが目的であるため、UXデザインの世界で使われているような複雑なジャーニーマップを作る必要はない。商品やサービスによって購買プロセスを何段階にするかは異なるが、基本的には次のような要素を整理しながらマッピングを行う。
・状況
ペルソナが各段階で置かれている状況を記述する。
・マインド
購買プロセスの各段階における、ペルソナの心理を記述する。
・情報ニーズ
まずペルソナ設定時に確認できている情報ニーズをマッピングしていく。空欄があるようであれば、再度ユーザー調査を行うか、それが困難な場合は仮説を記載してもよい。
・行動
必要な情報を得るために、ペルソナがどういう行動を取るのかを記述する。
STEP03 コンテンツマップの作成

カスタマージャーニーマップに「コンテンツ」の項目が追加されている
カスタマージャーニーマップで、「どういう情報を」「どういう順番で」伝えるべきかが明らかになったら、その情報ニーズに答えるコンテンツをカスタマージャーニーマップに追加していく(05)。ただし、カスタマージャーニーマップでまとめた情報ニーズの弱点は、完全に見込み顧客視点であることだ。情報ニーズに答えるだけで企業として伝えたいことが伝達できるのであれば問題ないが、見込み顧客視点だけでは、なかなかうまくいかない。
見込み顧客視点でだけコンテンツを作成すると、感謝はされるが購入につながらないということが起こりうる。商品やサービスを買うという行為には「自分の判断が正しい」という決心が必要だ。つまり、最終的に「買ってね」と見込み顧客の肩を押す情報も必要なのだ。これは「By the Wayコンテンツ」(ところでそろそろコンテンツ)とも呼ばれる。企業として伝えたいことがどれくらい網羅できているかを確認し、どうしても伝えたいメッセージをコンテンツマップに追記していく。この情報を知らずに他社に流れるのだけは防ぎたいというポイントが訴求できているかを確認しよう。
STEP04 適切なメディアの選定

カスタマージャーニーマップに、さらに「媒体・フォーマット」の項目が追加されている
コンテンツ、つまり伝える内容が決まったら、それをどんな媒体あるいはフォーマットに載せたらよいのかを考えよう。材料がそろったので、どんな風に調理し、どんな盛り付けで提供しようかと考える作業に似ているかもしれない。同じ内容であっても、ペルソナによってテキストで提供したほうがよいのか、動画で提供したほうがよいのかは異なる。ペルソナに合わせて適切なメディアを選定しよう(06)。
・ブログ
トピックに基づいた記事を配信する。
・動画
自社サイトやYouTubeなどの動画サイトに掲載して認知を図る。
・ガイド
買い方ガイド、選び方ガイドとなどの案内や解説を用意して認知を図る。
・インフォグラフィク
複雑な情報を一目でわかるビジュアルで表現する。
・トレンド情報
業界動向、流行の兆しなど、今後のトレンドについての情報をまとめて認知を図る。
・メール
商品や業界の最新ニュースを登録ユーザーに配信する。
・レビュー
ユーザーあるいは専門家に、商品を使用した感想などを評価記事として書いてもらったり星の数などでランク付けしてもらったりする。
・ケーススタディ
導入事例、納入事例などを提供する。
STEP05 CTAとKPIの設定

CTA(Call to Action:行動喚起)とは、お客さまにとってもらいたい行動を呼びかけることだ。例えば、「メルマガを購読する」「カタログPDFをダウンロードする」というような行動喚起を意味する。Webサイト上では、ダウンロードボタンや次のページへ遷移するためのリンクなどによって設定されるが、各段階のCTAをつなげてみて、最終的にうまく購買にまで結びつくのかどうかを考えながら設計する必要がある。CTAの連鎖が途切れていては、見込み顧客が購買プロセス上で道に迷う可能性が高くなる。
KPIは、基本的には、購買プロセス間に設定されるCTAを計測可能な指標にしたものだ。KPIとしては、例えばアクセス数、ダウンロード数、滞在時間、検索による流入数などがあるが、コンテンツマーケティングにおいては、これ一つで大丈夫というKPIは存在しない。また、始めた直後と、ある程度時間が経った後でKPIを変える必要もある(07)。
最終的なビジネスゴールが達成できているかどうかを見ながら、CTAを改良し、そのパフォーマンスをKPIで計測し続けることで、ビジネスゴールと因果関係がある指標を見つけることが重要である。
STEP06 エディトリアルカレンダーの作成

エディトリアルカレンダーとは、ペルソナ別に用意すべきコンテンツの掲載あるいは配信時期を記したスケジュール表のことだ。長期視点で確認するための年間エディトリアルカレンダーと、1カ月あるいは3カ月ごとの短期視点で管理するための月間エディトリアルカレンダーを用意する。
年間エディトリアルカレンダーは、まずペルソナ別コンテンツマップに記載されたコンテンツをエディトリアルカレンダーにマッピングして作成する(08)。もし複数のペルソナ向けのコンテンツを同時に作成および配信することが難しければ、どのペルソナを優先するのかを決めて、優先順位の高いペルソナ順にスケジュールをずらしながら配信するなどの調整もこの段階で行なうとよい。
年間エディトリアルカレンダーが完成したら、1カ月あるいは3カ月にブレイクダウンした月間エディトリアルカレンダーを作成する(09)。どんなコンテンツがどんなスケジュールで制作されているのかを確認することが目的だ。年間カレンダーの役割は全体像の把握にあるが、月間カレンダーの役割は運用スケジュールの把握になる。
STEP07 コンテンツ化する

ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、コンテンツマップなど、コンテンツマーケティング戦略の手順に従って必要なコンテンツが把握できたからといって、自動的にコンテンツが生まれるわけではない。また、いくら戦略が優れていても、コンテンツの質が低ければ成果を上げることができない。質の高いコンテンツを作るには編集の技術が必要になる。表現の切り口を変えたりバリエーションを増やしたりして、質の高いコンテンツを作成しよう。代表的な切り口として、話者は誰なのかで分けた三つの型を紹介しよう。
1. ファクト型
テーマに基づいた事実をストレートに表現する手法。数字で語る、比較で語る、比喩で語るなどのバリエーションがある。
2. オーソリティ型
著名人や専門家などに商品やサービスを評価してもらう手法。第三者からファクトを語ってもらうことにより、ある程度の客観性を持たせることができる。
3. お客さまの声型
実際に商品やサービスを購入したお客さまは最大のセールスマンだ。見込み顧客が自分と似た状況のユーザーの声を知ることができれば、自分事として商品やサービスの価値を実感する可能性が高くなる。
STEP08 コンテンツプロモーション

コンテンツが完成すると満足してしまいがちだが、コンテンツを掲載したら、そのコンテンツを拡散させていく必要がある。この活動が、コンテンツプロモーションだ。コンテンツプロモーションには、トリプルメディア(オウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディア)が活用できる(10)。

- Text:渡辺一男 (株)日本SPセンター
- (株)日本SPセンター 代表取締役社長。1968年生まれ。1992年、日本SPセンターに入社。18年間にわたって海外向け家電商品のマーケティングを担当した後、2010年より現職。コンテンツマーケティングの普及活動を推進中。 http://www.nspc.jp/