コンテンツマーケティングと広告の関係●特集「コンテンツマーケティング」

器が変わればコンテンツも変わる

「モバイルファーストからコンテンツファーストへ」。

そんな文脈で語られることの多い昨今だが、モバイルファーストもコンテンツファーストも元を辿れば、すべてユーザーファーストに立ち返る。つまり、ユーザーから求められたり、ユーザーにとって有益であったりするコンテンツを作りましょうということだ。

この先、テクノロジーの進歩によって、どのようなデバイスが現れるかを予想することは難しいだろう。ただ、どのようなデバイスが現れようとも、「ユーザーが本当に求める情報や機能は何か?」「それをどのデバイスで利用するのか?」と常にユーザー視点で考えながら、コンテンツの設計をすることこそが、ユーザーファーストの本来の意味なのだ。

そしてユーザーファーストを考えるときに、避けて通れないのが広告のあり方だ。現在、広告市場はモバイルの普及に牽引されて成長を遂げているが、ユーザーがコンテンツを探したり入手するときに、広告はもっとも邪魔者扱いされるからだ。

 

スマートフォン広告市場

スマホの普及率に比例して伸びてきた広告市場。昨年のスマートフォン広告市場規模は、3,008億円で前年比162%と高成長。そのうち、ディスプレイ広告市場規模は1,648億円。前年比193%とさらに急成長を遂げている。ユーザーファーストのコンテンツ作りが進めば、広告の形が変わるだろう

※CyberZ/シード・プランニング共同調べによる「2015年 スマートフォン広告市場動向調査」と総務省発表の調査結果を基に作成

 

これまでマスメディアにおける広告は、「AIDMA(Attention/Interest/Desire/Memory/Action)」という消費者の購買行動パターンに従って考えられてきた。しかし、ユーザーが情報を取捨選択できるWebメディアでは、従来の広告手法は通用しなくなってきている。マーケティング業界のカリスマ、セス・ ゴーディンは著書『パーミッション・マーケティング』で、これまでの広告を土足マーケティング(インタラプションマーケティング)と呼び、日常生活に侵入するマーケティングの効率の悪さについて警鐘を鳴らす。

また、海外ではアドブロック(広告を自動的に非表示にする)も普及しはじめ、インプレッションで勝負する広告主は窮地に追い込まれつつある。9月にリリースされたiOS9でも「コンテンツブロッカー」が導入され、広告が排除される動きに拍車がかかるだろう。

 

ネイティブアドによって、広告が“コンテンツ化”する

そこで解決策として注目を集めているのがネイティブアドだ。ネイティブアドは、第三者(メディア)視点で作られるコンテンツのため信頼性が高い、ユーザーが楽しめる(役に立つ)コンテンツが作りやすい、といったメリットがある。すでにユーザーと高いエンゲージメントを持つメディアの力を借りてストーリーを届けるため、より共感が得やすいという特長がある。そのためネイティブアドは、ユーザーに態度変容を促す、効率的で有効な手法として注目を浴びているのだ。

 

ネイティブアドを導入して、成長を続けるメディアも登場

Upworthy

米国で人気の新興メディア。通常コンテンツよりネイティブアドのほうが約3倍読まれているという結果に。スポンサードされている記事やプロモーション記事が一目でわかるようにアイコンがついているが、記事そのものには“広告っぽさ”が感じられないのが特徴

 

今日、いまだにステマの横行が後を絶たないが、これは広告=土足マーケティング(邪魔者)という前提があるから、広告主は広告を広告に見えないように偽装する誘惑に駆られてしまうのだろう。一方で、9月に掲載された「DIGIDAY日本版」の記事によると、米国で人気の新興メディア「Upworthy」がネイティブアドと通常コンテンツを比較したところ、ネイティブアドのほうが閲覧、アテンション時間ともに約3倍を獲得したというデータも発表されている。

 

スマートフォンネイティブ広告市場予測

昨年あたりから耳にすることが増えたネイティブアド。市場は2014年の38億円規模から2015年は4倍近くの150億円という予測で、全体の広告市場から見ればわずかだが、その存在感は今後、増していきそうだ。一方で、まだ「ネイティブアド」は定義づけされているとは言えず、メディア側も広告主側も、読者に誤解を与えないように注意する必要がある。 ※CyberZ/シード・プランニング共同調べ「スマートフォンネイティブ広告市場予測」を基に作成

 

ネイティブアドの定義やその是非、使い方にはまだ議論の余地が多く残されているが、企業がそのメディアに“適切で価値あるコンテンツ”を提供する限り、ネイティブアドを受け入れる土壌がユーザーにできているとも言える。また、ネイティブアドに限らず、広告自体が「広告=土足マーケティング」の図式から脱却し、むしろ「Upworthy」が実証したようにユーザーファーストの広告が多く生まれるようになれば、邪魔者扱いだった広告の形態が変わる可能性も十分にあり得るだろう。

冒頭でも述べたように、モバイルファースト、コンテンツファーストよりもユーザーファースト。今後、通常コンテンツよりおもしろい、役に立つような広告コンテンツが出てくれば、ステマが横行することもなくなるのではないだろうか。

 

Text:成田幸久 ナイル(株)(旧:ヴォラーレ(株))
コンテンツディレクター/メディアプロデューサー。企業PR誌の編集、ブランド企業のオウンドメディアを中心に数多くのWebメディアの企画・制作・運用を手がける。2015年よりナイル(株)でコンテンツマーケティング支援やセミナー講師として活動中。 http://nyle.co.jp/
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