
第18回「いまなん詩゛?」

永遠に残ることが本当の意味で、言葉にとって幸福かはわからない。(こんにちは、最果タヒです。詩を四苦八苦しながらハックするタイプの詩人です。大まかな活動としては本を出しています。)本に収録した瞬間、言葉に時間のタグ付けが行われるようなそんな感覚があります。いつ出版した詩なのか、初出はいつの言葉なのか。書いたまま、本にも収録しなかった詩というのは今でも、ファイル内検索をしなければ出会えず、そしていつ書いたのかもすでに忘れ去られ、曖昧な時間軸にたゆたってるというのに、本に入る言葉には書かれたその時の記憶がはっきりと残り、過去の一部として固定される。そしてだからこそ、半永久的に残り続けるのかもしれなかった。過去は、忘れられても消えることはない。過去の一部になった時点で、「今」という危うい存り方から、永遠という形を手に入れるのかもしれません。けれど私は、「今」のままであってほしかった。書かれたその時間なんて関係なく、読む人にとって「今」であってほしい。「過去の言葉」としてではなく、読む、その瞬間の、きらめき、それだけのために言葉を書いていたい。言葉が過去になることも、残り続けることも、それに比べれば大事だとは思えないのです。
だからこそ今回、時計の詩を作りました。時・分・秒それぞれに言葉が用意され、時間が過ぎるたびに文章が変わります。その瞬間にしか読めない、そして過ぎ去り消えいく言葉。読む人の「今」だけに、意味がある言葉たちです。
- Text:最果タヒ
- 詩人/小説家。第44回現代詩手帖賞、第13回中原中也賞受賞。詩集に『グッドモーニング』(思潮社)、『空が分裂する』(講談社)、『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)。小説に『星か獣になるなる季節』(筑摩書房)、『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』(講談社) http://tahi.jp/