
グロース施策の実行で10~80%もの利用率改善を実現●特集「成長戦略 グロースハック」

月間30本以上の施策を行うグロースチーム
freee社は、会計ソフトをはじめ、給与計算ソフト、会社設立サポート、マイナンバー管理といったクラウド型のWebサービスを提供している。特に代表的サービスである「クラウド会計ソフトfreee」は、クラウド会計ソフトのシェア1位であり、2013年3月の提供開始から利用者数を着実に増やしている。

人気の背景には、世の中でのクラウドサービスの浸透や機能性の高さ、充実したサポートといった要因もあるが、グロース施策を行う専任部署「グロースチーム」を設立して日々行われている改善の効果によるところも大きいだろう。リーダーである轡田哲郎さんに、同チームについてうかがった。
「自分を含めたエンジニア2名、デザイナー1名、マーケター1名、データサイエンティスト1名からなる5人のチームです。エンジニア2名だけが専任で、他のメンバーはそれぞれの部署と兼務しています。マーケティング的な視点も必要ですし、それを実行できるか予算や時間はどの程度かかるのかという判断にはエンジニアの視点、UI設計などにはデザイナーの視点が必要になります」

行われる施策は、月に30~40本にのぼる。
「施策の企画に時間をかけすぎないのが、弊社グロースチームの特徴です。そのアイデアが本当に正しいのかという議論にはあまり時間をかけず、まずはやってみます。そして、データやユーザーさんからのフィードバックを見て、改善を重ねていきます。一つの施策を試す期間は、長くても2週間ほどです。統計的なデータのサンプル数としては少ないですが、正確さよりは、その施策に対しての可否の根拠を見いだせるかを重視しています」
スピーディに多くの施策を実行することには、どのようなメリットがあるのだろうか。
「同じ期間にたくさんの施策を試していったほうが学びが多いので、こちらが打つ施策の打率も上がりやすくなります。1つやることで、3つ4つの新しい施策のアイデアが生まれることもありますし。大ヒットとなる施策は月に1本程度ですが、最近では取り組む施策の7~8割はプラスの効果をあげています」
スピード感を持って実行できるのは、グロースチームに改善施策を実行する権限が委ねられていることも大きい。
「ユーザーさんに迷惑をかけない範囲であれば、画面などの変更はグロースチームの判断で行えます。そのために、最初はエンジニアだけだったチームにデザイナーやマーケターが入り、自己判断できる状況にしていきました」
10~80%もの効果をあげた改善施策
具体的には、どのような改善を行ってきたのだろうか。クラウド会計ソフトfreeeでの施策を例にうかがった。
「個人ユーザーの方は、freeeだけで青色申告が可能ですが、法人に関してはどの会計ソフトを使うとしても必ず税理士さんは必要になってきます。調べてみると、freeeの法人ユーザーさんで税理士さんと契約されている方が少なく、その必要性を認知していない方が多いことがわかりました。また、弊社では税理士さんを見つけられる検索サイトも提供しているのですが、そちらを見ると決算の直前になって依頼している方が多いという状況がありました。そこで、法人ユーザーに関しては、税理士さんと一緒に使っていくサービスであることを訴求するため、未契約の方の管理画面に『税理士未設定』という表示を入れたところ、契約率が80%も上がりました」

他にも、UIやコピーの見せ方を変えたことで、利用率が10~20%上がっているという。
「ファイルボックスという、レシートの写真から自動で会計情報を読み取る機能は、最初は詳細な使い方を解説する画面を出していたのですが、理解するのがちょっと難しいという方もいらっしゃったようでした。そこで、すぐに体験して実感してもらえるようにしたところ、利用率が10%伸びました」

「また、管理画面内にあるチャット画面も、認知されていない方がいらっしゃったので、ぱっと見てチャットであることをわかりやすい文言に変更したところ、利用率が20%上がりました」

「サインアップ画面がもっとも改善を重ねたところで、当初は入力項目がたくさんあったのですが、最低限の項目だけに絞ったところ、最終的に10%以上は登録率が上がりました」

「効果が出なかったり下がった施策もありますが、そこからも『この仮説は間違っていた』という知見が得られるので、それ自体は、グロースチームの成果と言えます」
グロースさせるための課題発見と調査方法
施策を立てるにあたり、収集するデータにはどのようなものがあるのだろうか。普段行っているフローや手段を教えてもらった。
「定量的なところでは、ユーザーがサービスを利用したデータを見て、この作業を行うのにここで詰まったというような、ボトルネックを見つけていきます。グロース施策においては、効果指標となる数値をトラックできることが重要です。測れないこと自体が、大きな問題だという捉え方をしています。解析するためにいろいろなツールを入れるなど、いかに計れるようにするかには注力しています」
定性的な調査としては、ユーザーテストやA/Bテストも行っている。
「細かいテストを含めると、A/Bテストは毎日のように行っています。freeeのユーザーだけでなく、まだユーザーではないけれどターゲットとなるような層の方にも見てもらっています。しかし、ユーザーテストは、準備も含めてけっこうなコストがかかります。そこをうまく回すために、新しく入った弊社の社員にユーザーテストをやってもらい、そのフィードバックを得るということもやっています。それだけでも、かなり有効的です。データだけではわからない生の声を聞くことで、自分たちが考えた仮説やこうしたいという思いが正しく伝わっているか確認することができます。一人の意見でも納得すればそれを信じて反映させることもありますし、複数の意見でも、もともと考えていた根本原因と違った話であれば、反映しないということもあります。ほかにも、サポートやセールスのメンバーから話を聞いて、こういうニーズや問題がありそうだということを見つけていくこともあります。そこからブレストをして、課題解決になるであろう施策のアイデアを出していきます」
こうした検証を重ねて、日々freeeは改善が行われている。
「クラウドという性質もあり、新機能や新しいサービスを次々とリリースしています。そのため、新機能のUI改善や連携させたほうがメリットのあるサービス間の送客など、求められる課題は尽きません。そのためのアイデアも次々と出てきます」
グロースハックで行う一つひとつの施策は、小さな改善の積み重ねかもしれないが、こうして効果のほどを聞くと、けっして無視できない大きな成長力を持っていることが実感させられる。さまざまなビジネスの指標がデータ化できる昨今、取り組まない手はないだろう。