
【コラム】サービス開発は自らの課題から始める
今月のテーマは「課題解決」ということで、広いテーマ設定でどうしようかと悩んだ結果、弊社グッドパッチが開発しているプロトタイピングツール「Prott」について書くことにしようと思う。なぜ、このテーマでProttかというと、自社の問題を解決するために開発をスタートしたサービスだからだ。
今から3年前、グッドパッチは十数名の規模で、チームにエンジニアはおらず、デザイナーとプロダクトマネージャーしかいないという状況だった。アプリの案件は増えていたのだがエンジニアは社内にいないため、外部のエンジニアに開発をお願いしないといけなかった。そういった中で、アプリの案件を制作する際に大きな課題となっていたのが、エンジニアとのコミュニケーションだ。デザインデータと仕様書をエンジニアに渡して実装してもらうのだが、それができ上がってくると、自分たちがイメージしていたものとまるで違う。思い描いていたものをエンジニアに伝えようにも、自分たちで動く画面を実装することができないので、うまく伝わらず、プロダクトのクオリティが上がらない‥‥。そんな時にアメリカでローンチされたばかりのあるプロトタイピングツールを見つけ、それを使って大きな衝撃を受けた。そのツールを使うと、デザインの画像さえあれば、コードを1行も書かずに動くプロトタイプをつくることができるのだ。このツールを使い始めて、グッドパッチのデザインプロセスは一気に変わってしまった。デザイナーが簡単にプロトタイプをつくれるようになったことで、動くものベースで議論ができ、エンジニアとのコミュニケーションも改善したのだ。
しかし、私はここで満足しなかった。そのアメリカのツールはチームで使うことが考慮されておらず、自分たちであればもっとよいツールがつくれるのではないかと考えた。そして、もっと簡単にプロトタイプがつくれること、チームでコラボレーションが生まれることにフォーカスし、自分たちが追い求めるツールの開発スタートしたのである。
Prottを開発開始して2年半、正式ローンチして1年半が経ち、すでに世界140カ国のユーザーに使われるようになり、日本でもProttを取り入れた開発プロセスが広がってきている。自社の課題を解決するためにつくったツールが、このように多くのユーザーの課題を解決するツールとなっているのは非常にうれしい。サービスづくりにおいて、自らの課題を解決するところから始めるのは、とても重要なことである。

2014年10月にリリースした高速プロトタイピングツール。Webサイトやモバイルアプリの画面となる画像データを読み込み、画面遷移のアクションや操作方法を設定することで、簡単にプロトタイプを作成できる

- ナビゲーター:土屋尚史
- (株)グッドパッチ代表取締役。1983年生まれ。Webディレクターとして働いた後、サンフランシスコに渡る。帰国後、2011年9月に(株)グッドパッチを設立し、UIデザインを強みにしたプロダクト開発で2015年にはベルリンに進出。グッドデザイン賞受賞の「Prott」も開発している。