私たちはすでにAIと暮らしている

「AI」とは「Artificial Intelligence(人工知能)」の略。AIが広まると人間の仕事がなくなる? AIが社会を管理するようになっちゃう!? いえいえ、まだSF映画の世界のようにはなりません。まずは今のAIを知ることから始めましょう

 

三度目の正直!? 広がるAIブームの正体

“人工知能(AI)ってなんだろう?”

この質問に対する答えはひとつではありません。どこからどこまでが人工知能なのか、明確な基準がないからです。それでもあえて定義するなら“自ら考える力を備えたコンピュータ”と、ここでは答えたいと思います。

人工知能研究の歴史は長く、すでに何十年も研究されてきました。1960年代の最初の人工知能ブームには、テキスト対話システムのELIZAがいました。とうとうコンピュータと話せる時代が来たと胸を膨らませた人もいたようですが、実は単純なパターンマッチで実現してるため、期待ほどの結果を生み出すことはできませんでした。

1980年代、エキスパートシステムの登場により、第二次人工知能ブームが訪れます。エキスパートシステムとは、分野特化のシステムのことで、たとえば「バスの予約をするシステム」「献立を推薦するシステム」のようなものです。ただ、「もし○○ならば××」というルールで推論することにより成り立っていたため、複雑な推論が必要な分野においては有用ではありませんでした。

どちらのブームも10年程度で下火になり、人工知能には冬の時代がやってきたのです。それならもしかして今回も…と、悲観的になってはいけません。そうとも言えないのが現在の第三次人工知能ブームです。これまでのブームは、学術的な限られた人の間での盛り上がりに過ぎなかったのですが、今回は一般人も巻き込んで広まっています。また、Amazonのレコメンド機能や携帯電話の予測変換などのように、世の中にはすでにいたる所で人工知能技術が使われ、私たちは日々その恩恵を受けて生活しています。人工知能はすでになくてはならない技術なのです。

AIは自分には関係ないと思っていませんか? 実はAmazonの「おすすめ商品」やスマートフォンの予測変換の背景にもAIの存在があるのです。そう、すでに私たちはAIと一緒に生活して、その恩恵を受けているのです

 

注目を集める理由は進化した“機械学習”

そんな近年の人工知能のほとんどは、機械学習という技術を用いています。機械学習とは、データから有用な規則を機械自らが抽出し、未知のデータに対して、ルールを用いて推定を行う技術です。機械学習を大きく3つに分けると、教師あり学習、教師なし学習、強化学習があります。よく利用されるのは“教師あり学習”と呼ばれるものです。

これは人の手によって元となるデータの中に正解ラベルを付けて、そのデータをコンピュータに学習させる方法です。コンピュータは、正解ラベルを適切に出力できる規則を自ら学習します。画像認識や音声認識、自然言語処理など、幅広い分野で使用されている方法です。

“教師なし学習”は、その名のとおり、正解ラベルを入力しないで学習する方法です。“強化学習”は、人工知能に学習させたい行動を反復して行い、最良の選択を学習する方法です。主にロボットの動作制御やゲームなどで使用されます。これらの学習を可能にするアルゴリズムは、おのおの無数に存在します。近年流行しているディープラーニングもそのアルゴリズムのひとつで、教師あり学習、教師なし学習、強化学習のいずれの方法でも提案されています。

機械学習は膨大なデータをアルゴリズムを用いて解析し、画像認識や自然言語処理を行い、その先の予測や判断を行うこと。膨大なデータの中から特徴を発見する「ディープラーニング」も機械学習のひとつなのです

これだけさまざまな方法があれば、機械学習で解けない問題はなさそうに見えます。しかし、実際の人工知能は、ある程度の規則性が存在する課題は高い精度で解決することができますが、正解がほぼ無限に考えられる課題、たとえば雑談などに関しては、まだまだ解決が難しいのです。

燃え上がっては消え、燃え上がっては消えを繰り返す人工知能ブームですが、今度は単なる一過性のブームでは終わらないようです。

膨大なデータを高速処理してくれるAIですが、分析結果をもとに自ら提案を起こすことはまだ苦手。そこは人間の力が必要なのです。今の人間とAIの関係は、童話「こびとのくつや」のおじいさんと働き者のこびとに近いのかもしれません
Text:大西可奈子
国立研究開発法人 情報通信研究機構 専門研究員

2012年お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。博士(理学)。2016年より現職。一貫して人工知能、特に自然言語処理に関する研究開発に従事

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