
[UX2-2]ユーザーにどんな価値を提供できるか考える
実現可能な価値を考えよう
ターゲットとするユーザーにコンテンツを届けるには、「自分にとって価値があるものだ」と思ってもらう必要があります。メディアを運用する側で「これは価値を感じてもらえるに違いない」と思っていても、独りよがりになっているかもしれません。
また、いくらユーザーにとって価値のあるものだとしても、提供することが困難だったり負担が大きすぎたりするものは現実的ではありません。ユーザー視点で見つつも、自社で無理なく提供可能な価値は何かを考えていくようにしましょう。
ユーザーに望まれる提供価値を導き出す
ユーザーがどんなコンテンツに価値を感じてくれるかを紐解く方法の一つとして、「バリュープロポジションキャンバス」というものがあります(01)。これは、書籍『バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る』(翔泳社刊)で紹介された手法です。他社とは違い自社だけが提供できる、ユーザーが望んでいる価値を導き出すことができます。
使い方は、ユーザーが日々行う業務(タスク)をリストアップし、その際に抱える課題(ペイン)、こうなったら嬉しいと思っていること(ゲイン)の仮説を立てていきます。それに対して自社が提供できること(ペインリリーバー、ゲインクリエイター)をリストアップし、提供できる価値(サービス)の仮説を導き出していきます。ホワイトボードや付箋さえあれば、すぐにでも始められます。
Goodpatch Blogの場合は、自分にはデザインが必要だと思っていない非デザイナーのビジネスマンをペルソナとして、この手法を以下のような手順で行なっていきました(02)。
(1)ユーザーの「タスク」を洗い出すため、仕事をしている1日の中で行う行動すべてを想像し、付箋で貼り出します。それを「情報収集」や「働き方」などいくつかのカテゴリーにグループ分けします。
(2)ユーザーがタスクをこなす中で感じているであろう課題の仮説(ペイン)を立て、付箋で貼り出していきます。こちらも「作業効率」や「部下教育」など、グループ分けしていきます。
(3)ユーザーの課題に対して自社ならではのどのような課題解決ができそうか(ペインリリーバー)を付箋に貼り出し、関連する内容ごとにグループ分けします。
(4)ユーザーがこうなったら嬉しいだろうという仮説(ゲイン)を立て、付箋で貼り出してグループ分けをします。
(5)それに対して自社ならではの、行えそうな課題解決(ゲインクリエイター)を貼り出し、グループ分けします。
こうして、現在の課題を解決すること(ペインリリーバー=マイナスの出来事を減らしていく)と、理想の状況を実現すること(ゲインクリエイター=嬉しいことを増やしていく)の2軸のアプローチで考えていきます。そこから最終的に、ブログが提供できる価値を導き出していきました。
この価値とは、ブログの存在意義と言い換えられる、重要なものです。ユーザーが他のサイトではなくGoodpatch Blogを見る理由とも言えます。コンテンツは、導き出された価値のいくつか(あるいは全部)を提供することを目指して制作していきます。
実際に行ったバリュープロポジションキャンバス例は以下に掲載しましたので、ご参照ください。
導き出された提供価値
上記に掲載したGoodpatch Blogにおけるバリュープロポジションキャンバスでは、以下の5つの価値が導き出されました。
(1)領域を絞らない
(2)デザインへの入りやすさ
(3)わかりやすさ
(4)体感
(5)再現性の向上
「(1)領域を絞らない」とは、グッドパッチが強みとするUI/UXデザインという領域だけではなく、グラフィックデザインからサービスデザイン、チームデザイン、インタラクションデザインなど、広義な領域のデザインについて取り扱うということです。そうすることで、ビジネスマンが何かしらのデザインに興味を持つきっかけとしていきます。
「(2)デザインへの入りやすさ」は、ビジネスマンにデザインが自分と関係のあるものだと知ってもらうため、チームデザインなど身近なものもデザインの一つだと伝えていくことです。
「(3)わかりやすさ」とは、専門用語などを噛み砕き、デザインを学んだことがない人にも理解できるコンテンツにするということです。
「(4)体感」とは、実際にその記事を読んで、デザインが自分の仕事に役立つのではないかと自分ごと化してもらうことです。
そして「(5)再現性の向上」は、ブログを読んで知識としてインプットするだけではなく、自分自身が実務で活かせるように、それをどうやって使うのかというノウハウまでを紹介していきます。
これら5つの価値のいずれかを提供することを念頭にコンテンツを制作していけば、競合のメディアとまったく同じテーマで書いたとしても、体感できたり、再現性があったりというところで、他とは違った価値の提供を行うことができます。
また、コンテンツの制作時に「誰のための何の記事だっけ」と迷ったときの指針にもなりますし、社内から「なぜこういうコンテンツを出しているのか?」と聞かれたときに、このプロセスで課題を導き出したので、こういうコンテンツで解決していますと説明ができるようになります。
バリュープロポジションキャンバスを行う際の注意点
バリュープロポジションキャンバスを行う際は、人数が多過ぎると収束が難しくなりますし、一人で考えると偏りがちになるので、数人で行うのがよいでしょう。Goodpatch Blogの場合は、3人で行いました。
ペルソナはビジネスマンだったため、前職でビジネス職と一緒に働いていた人、前職ではビジネス職として働いていた人、デザインを学んでいる途中のインターン生というバックグラウンドが異なるメンバーにしました。全員がデザイナーなど近い立場の人間だけだと偏ってしまい、もっと違う結果が出たかもしれません。
バリュープロポジションキャンバスを行うためには、客観的に物事を捉えなければいけません。主観で見てしまうと、いつの間にか自分たちの課題解決をするためのものになってしまうので、注意が必要です。
Goodpatch Blogのバリュープロポジションキャンバスについては、答えが出たあとに、自社内にいるビジネス経験のある人などペルソナに近い経験を持つ人にヒアリングを行い、的外れではないかどうかをチェックしてもらいました。
バリュープロポジションキャンバスは必ず行うべき?
バリュープロポジションキャンバスのように何らかの答えを導き出すためのフレームワークは、数多く存在します。今回は、獲得したいユーザーへの理解が浅い状況で、価値を感じてもらえるコンテンツを導き出すのに適していたため、この手法を選びました。どの手法を用いるのが適切なのかという取捨選択や、フレームワークを適切に活用するためには、それなりの知見が必要になってきます。「これをやるといいらしいよ」程度の理解で行うと、間違った結果を導き出してしまい、すべてのコンテンツが目的とはブレたものになってしまいかねません。大事なのは、正しい提供価値を導き出すために「自分たちの課題となっているものは何か」をきちんと理解することです。
今回のようにユーザーへの理解がイマイチだという課題を持つ場合は、ペルソナに近い人を対象にインタビューを行ったり、アンケートを取ることでも解決できるでしょう(03)。それも難しい場合は、自社内で「この課題を解決する」という目的のためにブレストを行うだけでも構いません。
もしあなたがすでにユーザーのニーズを理解できている場合や、それを共有する必要があるのが少人数でメンバー間の認識を合わせやすい場合は、この工程は飛ばしても問題ありません。
ここに限らずすべての工程で、何が課題で、なぜそれを行うのか常に意識するようにしてください。