UX視点で記事の伝わり方を改善したオウンドメディア「WORK MILL」

考える場として、本当に納得できる記事を

社会的に"働き方"が注目されるようになってきた2015年、オフィス家具やワークプレイスづくりを提供する株式会社オカムラ(以下、オカムラ)で、働くことに関する情報発信プロジェクト「WORK MILL」がスタートした。メディアやイベント、ビジネス誌の発刊など複合的な取り組みを行う同プロジェクトのひとつとして、同年12月に立ち上げられたのがWebマガジン「WORK MILL」だ。仕事や働き方に関して独自取材による記事を制作し、週1回火曜日に掲載している。

編集長の遅野井宏さんは、長らく同社でオウンドメディアを持つことを目指してきたという。

「情報を発信するためにも、自社でコンテンツを持つ必要があります。社内には30年以上の歴史を持つオフィス研究所という研究部門があり、顧客のワークプレイスづくりからもさまざなま知見が蓄積されています。同時に、今後についてのリサーチのために先駆者たちの意見を聞き、顧客ともコミュニケーションを重ねながら、これからの働き方がどうなるのかを考える場が必要だとずっと思っていました」(遅野井さん)

開始以来、遅野井さんら編集担当者が深く関わる形でコンテンツづくりが行われているのがWORK MILLの特徴だ。

「企画や打ち合わせだけではなく、我々も取材に行き、聞きたいポイントは質問する。できた記事に対しては、編集メンバーが本当に納得するまでOKを出しません」(遅野井さん)

当初は「別の記事になるかと思うくらい」修正を入れ、伝える内容にこだわり続けてきたという遅野井さん。半年が過ぎる頃には制作会社やライターともメディアの趣旨や方向性を共有できるようになり、制作がスムーズに回るようになってきた。

しかし、現在も繰り返し煮詰め、時間をかけて制作している部分がある。

「毎回、その記事のポイントをイラストで伝えています。内容をよく理解して趣旨を汲み取らなくてはならないので、時間はかかりますが、大事にしているプロセスです」(遅野井さん)

記事制作を通じ、しっかりしたWORK MILLのブランドづくりに取り組んできた遅野井さん。しかし、2年近く経ってもUUが1万を超えないという歯がゆい状態が続いていた。

良い記事を作れば自然に広がるわけではない

「我々としてはよいものをつくっているという自負はあったのですが、それが社会に届いていない。もう少し広がりを持って伝わるようにならないかと感じていました」(遅野井さん)

そこで相談を持ちかけたのが、Webマーケティングメディア「ferret」を運営し、コンテンツマーケティング支援を行なっている株式会社ベーシックだ。当初はコンテンツの作り方も含め幅広く改善策を議論したが、コンサルティングを行う飯髙悠太さんも「コンテンツはとても良いものだったので、そこに触れる理由はない」と考え、伝わり方の部分を改善していく方向で取り組みが始まった。

本質的に誰の課題を解決したいのか

飯髙さんが最初に行ったのは、WORK MILLがどんな世界観を作りたいのか、対象は誰で、その人たちの何を変えていきたいのか、改めて見直していくことだった。

「ミッションターゲットを決め、そのために何をしていくべきかを考えることで、現状とのギャップを知ることができます」(飯髙さん)

続いてペルソナ設定を行う。ここではWebメディアならではの視点が必要だ。

「検索で出会うユーザーとSNSで出会うユーザーは異なります。ペルソナは一人ではなく、できればプラットフォームごとに設定するべきです。さらに、本当に獲得したいユーザー=コアペルソナを設定し、その人を連れてくるインフルエンサーは誰なのか、という点にも着目します」(飯髙さん)

カスタマージャーニーマップでは、メディア接触によりユーザーの態度変容を高めていく設計を行う。例えばSNS経由で記事を読んだ人に、最初はWORK MILLというメディアは認知されていないが、接触を繰り返すことでユーザー体験が上がり、ブックマークやシェアというポイントが生まれる。あるいはリターゲティング広告によって認知してもらうといった形だ。

そして、各フェーズのユーザーにどんなコンテンツに触れてもらえばいいのか、コンテンツマッピングの形でまとめていく。

「ここで改めて目標に立ち返ることで、本質的に誰の課題を解決したいのかに気付くことができます」(飯髙さん)

この一連のプロセスは、プロジェクトに関わる全員が議論しながら進めることが非常に重要な意味を持つ。いざ運用フェーズに入った時、交通整理された状態になっていることで、課題に対して一致した方向性で取り組むことが可能になるからだ。

変わったのは伝え方に対する意識

このプロセスを経て大きく変わったのは「コンテンツをどう伝えていくべきか」に対する意識だと遅野井さんは言う。ペルソナ設計やカスタマージャーニーマップ制作を行うことで記事を届けたい相手・場面・タイミングが見える化され、そのためにやるべきことも明らかになった。

「以前は拡散することに対して、頭でわかってはいても後手に回っていたところがありました。例えば、朝の時間帯にまだコンテンツの少ないTLへ記事更新の情報を流すことで注目を集め、閲覧を獲得していくなど、テクニカルなことも含めて、改めてその重要性を全員が再確認しているところです」(遅野井さん)

実際に、2カ月でPVは30~40%増加、Twitterでの反応は月間2倍以上に増えるなど、手応えが感じられ始めている。取り組みはそれだけではない。

「ユーザーが何をどう見ているのか、どんな行動をしているのか、細かく分析したレポートを毎月作成しています。その傾向をコンテンツに反映していくというサイクルが回り始めてきました」(飯髙さん)

今後はUI向上やページ構造改善を目的にしたリニューアルも視野に入れていると語る遅野井さん。オウンドメディアとして次の段階が見え始めている。

「今年度は、目標値も含めてビジネスゴールの設計をしたいと考えています。働き方に関して広いネットワークを持っていることの認知から、サービスの購買へとつなげていきたいと思っています」(遅野井さん)

蓄積された質の高いコンテンツが、そこで改めて価値を発揮することになるだろう。

遅野井宏
株式会社オカムラ マーケティング本部 はたらくの未来研究所 所長 「WORK MILL」編集長https://www.softbank.jp/
飯髙悠太
株式会社ベーシック 執行役員 「ferret」 編集長https://www.softbank.jp/
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