運用体制、予算、セキュリティetc.から考える 自社の課題に適したCMS選定をするポイント

近年、サイト開設・リニューアルの際に高速化やセキュリティの高さといった特徴を持つヘッドレスCMSが検討されることも増え、選択肢の幅が広がっています。自社にマッチしたCMSは、どのような視点で選ぶとよいのでしょうか。ヘッドレスCMSにいち早く注力してきたラスファクトリーの天野優氏、大谷洋嗣氏、石坂剛氏に、CMS選定のポイントについて伺いました。

株式会社ラスファクトリー
「自由な発想で世の中を楽しく。」をモットーに、音楽好き社員が集まるIT企業。Webサイトへの採用が増えてきたヘッドレスCMSに2018年から注目し、多くのナレッジを蓄積している。 https://lasfactory.com/

天野優さん取締役
大谷洋嗣さんマネージャー
石坂剛さんエンジニア

海外から国内へ広がりつつあるヘッドレスCMS

ラスファクトリーではWebサイトの構築・開発全般を手掛けていますが、ヘッドレスCMSに強いとうたっていることもあり、ヘッドレスCMSに関心を持つ企業の方からの問い合わせが近年増えてきました。

そもそも弊社がヘッドレスCMSに関心を持ったのは、2018年に「Core dna」という海外製のヘッドレスCMS(現在はハイブリッドCMSへと進化)を検討している企業の方から相談をいただいたことがきっかけです。その案件のためにヘッドレスCMSについて調査・検証することになり、他のヘッドレスCMSとの比較、WordPressやMovableTypeなど従来のCMSとどんな違いがあるかを調べていきました。その中で、ヘッドレスCMSではサイトの表示を高速化できる点などに可能性を感じました。弊社は長くWordPressを中心としたCMS構築・運用をしてきたのですが、表示速度が遅くならないようキャッシュを活用したりなるべく軽い処理のプログラムで書くようにしたりと、地道な努力をしてきました。しかしヘッドレスCMSとJamstackを組み合わせることで、もっと根本的な軽量化を実現できるのではないかと思ったのです。そのため、以降もヘッドレスCMSのナレッジを蓄積し続けています。

自社サイトに調査・検証しているヘッドレスCMSサービスの名前を掲載しているので、いろいろなサービスに関心を持つ企業の方から問い合わせをいただきました。2018年頃はまだ、国産ヘッドレスCMSが登場する前だったこともあり、新しい技術に関心の高いWebマスターやエンジニアといった方々が主でした。また、先に海外で使われはじめていたため、グローバル企業の日本支社の方から、「できれば本社で使っているContentfulに揃えてほしいと言われたけれど、Contentfulとはどんなものですか?」という問い合わせをいただいたこともありました。他にもstrapiや当時のGraphCMS(現Hygraph)などのヘッドレスCMSに興味を持たれた方々から問い合わせがありましたが、各ヘッドレスCMSのメリット・デメリットをお伝えすると、最終的にはヘッドレス化したWordPressを採用することになる場合がほとんどでした。

その理由として多かったのは、管理画面が日本語ローカライズされていなかったり、日本語でサポートが受けられない点でした。また、例えば当時のGraphCMSは閲覧権限を設定する機能がなく、公開前のコンテンツが見える状態になってしまうなど、機能性を調べていく中で要件を満たしていない場合もありました。

最近は、海外製ヘッドレスCMSへの関心をきっかけとして問い合わせをいただくことはかなり少なくなっています。いくつかの国産ヘッドレスCMSが登場し、検索でも上位に表示されるようになったためではないかと思います。また、関心を持つ企業の方も、マーケター層など幅広くなってきました。ヘッドレスCMSで制作された国内のサイト事例が増えたり、SNSなどで「ヘッドレスCMSがいいらしい」という話題を目にする機会が増えたりしたことが理由のようです。

WordPressのヘッドレス化が選ばれる理由

ヘッドレスCMSへの移行に際して、WordPressのヘッドレス化を選択される方は今も多いです。その理由として、もともとWordPressで運用していたので使い慣れていることが挙げられます。また、プラグインなどによる拡張性が高いため、多様なニーズに対応できることから、使い続けたいというのも選ばれる理由です。

しかし、WordPressのプラグインでも人気記事のランキングのような動的な連携が必要なものは、ヘッドレス化するとそのまま使うことはできません。同様の機能を実装するためには、新たにAPIを立てる必要が出てきます。また、プラグインの追加やアップデートをするだけでは基本的にフロントエンドには反映されないので注意が必要です。どういったことをやりたいのか、事前に制作会社などに確認するとよいでしょう。

01 海外のヘッドレスCMSサービス例

ヘッドレスCMSは先に海外で開発されてきたので、多くのサービスが存在します。一例として、下記のようなものがあります

Contentful
https://www.contentful.com/
ドイツ製のサービス。機能性が高く、世界的にシェアが大きいので、有志が開発したモジュールやWeb上でのノウハウ情報も多い
strapi
https://strapi.io/
フランス製のサービス。オープンソースのため、CMS自体は無料で導入できる。プラグインで必要な機能を追加でき、拡張性が高い
Hygraph
https://hygraph.com/
以前はGraphCMSという名前で、昨年に名称変更したドイツ製のサービス。Meta社が開発したWebAPI、GraphQLの活用に特化している

ヘッドレスCMSは先に海外で開発されてきたので、多くのサービスが存在します。一例として、上記のようなものがあります

主要な国産ヘッドレスCMSの特徴

弊社では特定のCMSサービスやヘッドレスCMSを前提に問い合わせをいただいても、ヘッドレスではないCMSも含めそれぞれの特徴を比較・検証し、企業の課題や条件に適切なものを提案しています。最近手掛けているヘッドレスCMSの案件では、以前から提案することが多いWordPressのヘッドレス化と、microCMSのどちらかになることが多いです。その他に、国産ヘッドレスCMSのhacoCMSという選択肢もあります。

microCMSは日本でいち早く開発されたヘッドレスCMSで、弊社では2019年9月の正式リリース前のβ版の頃からお声がけいただき、現在はパートナーとなっています。利用者の声を丁寧に吸い上げて、頻繁に機能開発を行っているところが特徴です。

一例を挙げると、フロントエンドからバックエンドまでをスピーディーに実装できて工数を大幅に削減できるテンプレートという仕組みを提供しています。テンプレートはサードパーティで提供されるので、種類もたくさんあります。また開発者視点では、複数環境という、本番環境に一切の影響を与えず安全に作業を行える別環境を容易に作成できる仕組みが便利です。microCMSは機能性が高く、そうした抜きん出た使いやすさが特徴です。

一方hacoCMSは、2022年7月に正式リリースされた国産ヘッドレスCMSです。こちらはそれなりに機能性を備えつつも、microCMSよりも少しリーズナブルになっています。そのため、使いたい機能を満たしていて、予算を抑えたい方などに適しています。どちらも当然管理画面やサポートは日本語なので、こうした国産サービスが登場したことも、日本でヘッドレスCMSの利用が広がりつつある理由でしょう。

プラグインを多用したWordPressから他のCMSへと移行する場合、使えなくなる機能が出るのではないかと不安を持たれるかもしれません。しかし、サイトの要件を一緒に整理しながら管理画面の再設計をすることで、かえってシンプルで使いやすくなることも少なくありません。

どのCMSを選ぶかは、CMSに自社のコンテンツ運用を合わせるのか、自社のコンテンツ運用にCMSを合わせるのかによっても判断が別れます。

02 主要な国産のヘッドレスCMSサービス

国産のCMSサービスとしては、以下の2つを使うことになる場合が多いです。使いたい機能や予算規模などから判断していきます

microCMS
https://microcms.io/
国内でいち早く2019年に提供開始したサービスで、6,000社以上に利用されている。ユーザーからの要望の吸い上げに積極的で、機能追加が活発に行われる
hacoCMS
https://hacocms.com/
Seesaaブログなどを提供するシーサー(株)が2022年7月に正式リリースしたサービス。一般的な機能を一通り揃えながらも、価格が比較的手頃である

ヘッドレスCMSが選ばれる理由

ヘッドレスCMSを選ぶ際にメリットと考えられることとして、Jamstackと相性がよく、静的データとして配置することによる表示速度の向上が挙げられます。サクサク閲覧できればユーザー体験がよくなり、PV向上にも寄与するでしょう。もし競合企業がそうした技術を活用してサイトを高速化したら、何もしないままのサイトは相対的に表示が遅いと感じられるようになってしまい、それが機会損失につながるかもしれません。高速化はそういった事態を避けるためにもしたほうがいいと言えます。

また、サイトの表示が速くなると、Google検索の順位の指標となるCore Web Vitalsのスコアが上がり、SEO効果の向上も期待できます。ヘッドレスCMSにリニューアルした効果として、一番多くみられるものです。

WordPressサイトをAWSなどで運用していた場合には、従量課金のためアクセスが多くなるほど通信料がかさみますが、例えばバックエンドでmicroCMS、フロントエンドでVercelのようにSaaSを利用することで、月額の運用コストを安くできる場合があります。実際に移行して、月に数万円も安くなった例があります。

また、ヘッドレスCMSを選ばれる理由として、セキュリティ面を挙げる方は多いです。例えばヘッドレスCMSではないWordPressは多くの実績がある一方、ユーザーが多いために狙われやすく、管理画面がフロントエンドと同じインターネット上にあるため、1箇所を突破されるとすべて攻撃対象になる恐れがあります。ヘッドレスCMSであればフロントエンドとバックエンドが分離しているため、そのようなリスクが少なく安心です。

また、表示とデータが分離しているため、1つのデータを複数の場所に配信して表示させることもできます。同一情報の管理が1箇所に集約されることで運用負荷を減らし、つど手作業で更新すると発生し得る修正漏れを防止できることもメリットの一つです。

03 ヘッドレスCMSの主なメリット

従来のCMSはユーザーがアクセスするとページを動的に生成してから表示するため、サイトのデータが多かったり、アクセスが多いと重くなったりしがちでした。ヘッドレスCMSでは、Jamstackにすることで表示されるのが速くなります。また、従来はフロントエンドとバックエンドが一体型でしたが、ヘッドレスCMSでは分離しているため、ハッカーやウイルスの被害にあいづらくセキュリティ面が強いことも特長です

ヘッドレスCMSを使わない選択肢

ヘッドレスCMSに関心を持って問い合わせをいただいた場合でも、最終的にヘッドレスCMSではない選択をされることもあります。弊社としても、必ずしもヘッドレスCMSが最適解とは考えていません。

その理由として、ヘッドレスCMSを用いてフロントエンドを運用していくにはある程度エンジニアリングの知識が必要となるので、社内にエンジニアがいない場合には難しいという点が挙げられます。もちろん弊社のような開発会社に運用を依頼いただくことはできますが、その分予算がかかってしまいます。また、サイトの規模が大きいほど、移行に予算も時間もかかります。それらの場合には、コストがあうかどうかといった観点でも検討する必要があります。

そうした条件があわない場合は、ヘッドレスではないCMSを使う選択肢もご提案しています。従来のCMSも長く利用されてきて、培われたナレッジがたくさんあるので、工夫次第で課題を解決できることもあります。

04 ヘッドレスCMSではない選択肢も

どんなサイトにおいてもヘッドレスCMSにすることが最適解とは限りません。従来のCMSを改善することで課題解決ができることもありますし、予算や人材などによっても、どうするのが適切かは違ってきます

CMS選定の際に必要となる条件や情報

ヘッドレスCMSが適しているか否か、あるいはどのヘッドレスCMSサービスが適しているかの判断材料として、弊社では次のようなことをヒアリングしていきます。

まずは、データを置く場所を確認します。例えば会社のセキュリティ方針でSaaSには置きたくないというところもありますし、すでに利用しているAWSやGoogle Cloud、Azureといったクラウドサービスに置くようにしたいというところもあります。弊社はWeb制作だけでなくサーバ回りにも強い開発会社なので、SaaSはもちろんそうしたクラウドインフラのご提案もしています。ときには、自社で持たれている既存の基幹システムとデータ連携やバッチ処理といった、細かいサブシステム開発も手掛けています。

また、ヘッドレスCMSでは、バックエンドと別にフロントエンドをどこに置くかも考えなくてはなりません。よく使われるものとして、CloudflareやVercelといったホスティングサービスがあります。その他のパターンでは、AWSやGoogle Cloudに置くようにしたいというオーダーをいただくこともあります。加えて、Webサイトの規模感、PV数、データ通信量などの情報も必要です。それを元に、ホスティングサービスであればプランを、インフラを構築するのであれば構成やスペックをどうするかなど検討します。

さらに、WordPressでいうところのコンテンツのカテゴリーに当たるものは何種類あるのかも大事な情報です。なぜなら、APIを立てられる数に制限のあるサービスもあるからです。API数が多ければ多いほど、予算がかかることになります。サイト開設やリニューアルにかけられる予算、毎月のランニングコストにいくらかけられるのかによって選択は変わってきます。

他にはサイト運営においてどういった課題を持っているのか、何人体制で運用するのか、メンバーにエンジニアはいるのか、メンバーの権限管理は必要かということも確認します。それにより、CMSサービスに必要な機能を明確にしていきます。

こういった条件や情報は、弊社のような開発会社では当然しっかりヒアリングしていきますので、事前にまとめられなくても問題はありません。ただ、ヘッドレスCMSでの制作を検討されている企業の担当者の方も、ヘッドレスCMSはどういう特徴を持ちどういった仕組みのものか、自社ではどういう条件でサイトを運用したいのかといった情報をあらかじめ把握しておくと話が早くなり、プロジェクトが進めやすくなるのではないかと思います。

ヘッドレスCMSには確かに高速化やコスト削減、セキュリティに強いといったメリットが期待できますが、ただ移行すればどんなサイトでも課題解決になる魔法の手段ではありません。過度な期待をしすぎると、移行後に「こんなはずではなかった」ということにもなり得ます。

CMSはあくまでもサイト運営のためのツールです。自社のコンテンツをどう運用していきたいかという目的や目指すゴールを見極め、その上で前述したような条件や情報といった自社のニーズにマッチしたものを選ぶことが大切です。

05 適切なCMSを選定するためのヒアリング

利用したいサーバやホスティング環境、サイトの規模、運用体制、予算などさまざまな視点から適切なCMSを検討していくため、条件や情報についてヒアリングする必要があります

Text:平田順子
Web Designing 2023年10月号(2023年8月18日発売)掲載記事を転載

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