リスクに備えたCMS運用体制のつくり方

CMSを導入したら、目的達成に向けて適切で持続可能な運用が求められます。そのためには、さまざまなリスクに備えた運用体制づくりが必須です。最適な体制のつくり方について、規模を問わずさまざまな企業のCMSの導入から運用までを手がける、株式会社アリウープの田島邦彦さんに話をうかがいました。

田島邦彦さん株式会社アリウープ ディレクショングループ マネージャー
https://www.alleyoop.co.jp/

1. 仕組みありきとならない運用体制をつくる

兼任で限られた時間でもきちんとリスクに備えよう

目的に基づきCMSの導入を決めると同時に、問われるのは、CMSの運用体制です。「何かが起きたら?」というニュアンスよりも、何かしらのリスクが起きるという前提に基づき、対応できる体制をつくりましょう。

運用体制についてよく問われるのが、限られた人的リソースです。私たちがさまざまな企業から相談を受ける中でも、特に中小企業の場合、運用を担当するほとんどの人たちが本業との兼任です。該当するWebサイトで売上を上げるなど直接的な成果を出すEC系サイトを除くと、コーポレートサイトやオウンドメディアの運用では、担当者が専任というケースは稀だったりします。

兼任となると、どうしても取り組む時間に制約が出てきます。コロナ禍を経て、リモート体制でも遜色のないCMSの運用を視野に入れる必要があります。

さらに、担当者の多くは、非技術者が担ってもいます。時間や環境の制約があるからこそ、時には専門的な知識を必要とするようなトラブルも含めて、さまざまなリスクに対応できる体制をつくっておくことが、安心で安全なCMSの継続運用につながります。まずは、CMSにかかわるリスクに備えるために、想定されるリスクの内容を十分に把握しておきたいところです。

そもそもリスクという言葉は、幅広く解釈できます。CMSのリスクを整理すると、大別して「動かない」「表示されない」などの事故やセキュリティ・保守などに関するリスクと、コンテンツの生成や更新・公開業務などにかかわるリスクの2種類が挙げられます。CMSのセキュリティや保守に関する内容は先で触れてきたので(P080~P085)、ここからは後者を中心に解説しながら、セキュリティ対策も含めたリスクに備えた運用体制のつくり方を模索します。

次ページからは、具体的な対応について解説します。各事項を参照しながら、自社が各項目についてどこまでできているかを確認し、できていない項目についての対応を決めていきましょう。

非技術者でも仕組みを使いこなせる体制をつくる

運用体制で根幹をなす1つが、更新負荷の低い仕組みの導入です。運用に携わる人が非技術者でも、導入したCMSを迷わず操作でき、更新業務が可能な状態が望ましいでしょう。例えば、HTMLがわからない人でもコンテンツを生成できるほか、Webサイトのニーズによって自動翻訳や簡易的な多言語対応が可能な機能などを含めて、日常的に携わる担当者が継続的に運用しやすい仕組みを用意しましょう。

並行して、しっかりと確立してほしいのが運用担当者です。理想は専任ですが、兼任するメンバーが全員で協力的な意識で携わり、全体で専任に近い動きを目指しましょう。具体的には、社内の部門や部署を横断して動ける担当者を擁立して、Webサイトについて全社的に確認できる立ち位置を確保します。横断できる担当者の存在がハブとなれば、各部門の動きが把握しやすくなるほか、全社的な判断のもとで各部門への働きかけが可能になります。こうした体制が軌道に乗ると、それぞれの部門が個々で動きやすくなり、さらに自発的な動きにもつながります。

また、兼任の場合はかかわる時間が限られるので、全社的な立ち位置の担当者に必ずしも実作業を求めなくていいでしょう。Webサイト運営上の方向性を見出し、時々の判断を行い、各部門の役割を管理することに専念し、部門ごとで矛盾が出ないようにします。

私たちへの相談でよくあるのが、理想的なCMSを導入したつもりだったけれど、社内運用の確立に手が回らず、更新業務が滞っているようなケースです。仕組みはとても大事ですが、運用できてこそなのを忘れないことです。

持続可能な仕組みと運用体制を確立しよう
CMSを導入したら、仕組みと運用体制の両方をしっかりと用意できてこそ、長期的で継続性のある運営の道が開けていきます

Point❶
兼任を言い訳とせず、CMS運用上のリスク内容を把握しておく。
Point❷
更新負荷の低い仕組みとともに、仕組みを使いこなすための運用体制をきちんと構築しよう。

2. 限られた時間で、決めたことを確実に実行する

誰が何をどこまでやる?役割の明確化を徹底しよう!

Webサイト全体を管理する担当者を組み込むとともに、CMSの運用体制で大事なことが、各部門の担当者の確立です。部門ごとに「何をやるのか」を決めて、決めたことに対して「誰が」「どの範囲まで」やるのかという「役割の明確化」を必ず行いましょう。

特に兼務であれば、ただでさえ本業が優先されがちですので、曖昧な役割の割り振りを避けましょう。曖昧さを残した割り振りが、「あの人がやってくれるだろう」「今度やればいい」といった気持ちにさせ、割り振られた側の主体性を遠ざける要因になるからです。

例えば、A部門では自社商品に関するコンテンツをつくるなら、どれほどの頻度で、どのようなテーマを設定して、誰がいつまでに公開用のコンテンツを用意するのか? それぞれの役割の担当者を決めます。Backlogなどのプロジェクト管理ツールや、Googleスプレッドシートなどの共有サービスを用いて、役割ごとに担当者の進捗を把握できるようにしておくと、状況の可視化にもなります。チーム編成によって1人がすべてを担う場合でも、役割ごとで記録して、第三者が状況を可視化しやすくしておきます。これなら新メンバーが入っても、引き継ぎがしやすくなります。

また、つくったコンテンツに対して、内容のチェック体制や承認体制もあわせて確立しておきます。その際、各部門やコンテンツの種類によっても、方針は変わるはずです。例えば、ある分野を任せている部門が用意したコンテンツなら、該当部門の確認だけでOKとし、公開フローを簡素化してスピーディーに更新していく手があります。

一方で、機密性の高い情報や新商品にかかわる内容であれば、経営層などを含めた承認フローにして万全を期す形が想定されます。注意したいのが、フローありきになると、スムーズに公開したいコンテンツにまでガチガチに定まったフローに乗せてしまうことです。大事なのは、公開対象に応じてフローを柔軟に使い分けられることです。

役割の明確化で、運用を軌道に乗せよう
上のサンプルのように、「誰が何をやるのか」という役割を明確に決めておくのがオススメ。その上で、通常時のフローは可能な範囲で簡易に、機密性が高いコンテンツは慎重に、といった形で状況に応じて柔軟に運営できるといいでしょう

Web上に運用のためのガイドラインを用意

継続的な運用体制を確立するには、属人的にならないことが求められます。例えば、長らく務めていた運用担当者が辞めた途端に機能しなくなる体制にはならないよう、操作方法などをまとめたガイドラインを必ず用意しておきます。

ここには、社内各部門の役割や部門ごとのアクセス権限の有無や、条件別の運用フローや承認フローなど、コンテンツの制作や公開に関する手順やルールについて明示しておきます。もちろん、その内容は、非技術者が読んでもわかりやすくまとめておきましょう。

従来は、紙やPDFファイルでの用意が主流でしたが、昨今はプロジェクト管理ツールのBacklogに搭載されたWikiに用意するなど、Web上で運用にかかわる担当者がいつでもアクセスできる形での用意がオススメです。

今でも、紙やPDFファイル、もしくは動画などの用意も考えられますが、あまり得策ではありません。組織の状況は常に変化する可能性があり、時の経過とともにCMSのバージョンが変わり、操作方法の違いやUIなどの見え方など、細部の変化がどんどん出てきます。Web上でガイドラインを用意しておけば、その都度の編集にも柔軟に対応できます。紙やPDFファイルでは修正がしづらいですし、加えて動画は制作の手間やまとまった予算も必要で、用意の負担が大きくなるばかりです。

また、外部パートナーがいる場合、外部パートナーにもアクセス権限を付与し、中身の点検や運用状況の確認もお願いする手があります。時には外部パートナーも交えた定例会議を設けて、定期的に運用体制について意見公開する機会を持つことも大事です。

継続的な運用を支えるガイドラインを用意
人材の流動性も小さくない昨今、社内全体でCMS運用に関する操作方法やルールなどを確認しやすい状態をつくりましょう。例えば、BacklogのWiki機能をはじめ、認証機能を搭載して自社で使いやすい共有サービスを用いると便利でしょう

Point❸
各部門で、誰が何をどこまでやるかを明確に決めておく。
Point❹
操作方法はじめ公開にかかわるルールや決まりごとをWeb上に用意して、運用の属人化を防止!

3. 自社で対応できる範囲を明確にする

表示の高速化対策としてマルチデバイス対応の徹底

「CMSの高速化」という観点から、特に強調して注意したいことがあります。

1点目は、マルチデバイス対応です。例えば、スマートフォン最適化が不十分で、スマホでのWebサイト表示が遅いケースです。主な要因には、画像の最適化の不備が挙げられます。そこで、スマホ最適化のための画像サイズを定めて、ルール化しましょう。ガイドラインにも明記して、例えば、パソコンとスマホで画像を分けて用意します。ここで、スマホ最適化用に画像を書き出せるツールの搭載も考えられますが、リモートワークも含めて、更新側のデバイスや環境は多岐にわたります。それらを考慮したツールの導入は現実的でなく、かえって非効率だったりします。サイズや圧縮のルールを定めて、各環境での画像の用意をおすすめします。

スマホ最適化の話でもう1点加えると、PDFファイルでのコンテンツ展開も控えましょう。最近はスマホでもPDFファイルを表示するハードルは低くなりましたが、Adobe Acrobatなどのアプリを別途開くことになるなど、HTMLページの表示に比べて読み込みに時間がかかります。このようなストレスの蓄積がユーザーの離脱につながる可能性もあるのです。エンドユーザーの利便性を考えると、BtoCサイトなら安易なPDFファイルの展開は避けましょう。公開までのフローとして、PDFファイルのコンテンツは、別途HTMLページを用意するというルールを徹底しましょう。

3点目が、CMSのパフォーマンスへの配慮です。日々コンテンツが増えていくCMSは、年月の経過に沿って少しずつ負荷が上乗せされます。年月の経過とともに、徐々に出てくる問題とはいえ、予見が難しいです。例えば、導入当初の想定と比べてコンテンツが増えたり、アクセス数が伸びているなら、気づきの合図です。外部パートナーからも進言をもらうなどして、サーバの負荷分散やサーバスペックの見直し、キャッシュ対策でアクセス負荷の抑制など、問題が本格化する前の対策を講じましょう。

CMSの高速化を意識した運用体制
CMSの高速化にフォーカスして、代表的な注意点を挙げています。1つひとつ、地道に対策を進めることで、リスクの懸念を払拭し時流にかなったCMS運用へとつながります

Web上に運用のためのガイドラインを用意

運用体制で強調したいのが、自社でしっかりと対処するところと、外部パートナーの力を借りたいところを、主体的な判断のもとで決めておくことです。例えば、更新業務で専任がおらず、担当として動ける人材が限られる場合、更新したいコンテンツに優先順位をつけて進めるのが現実的です。そこで、社内でなければ発信できないことと、外部の力を借りられそうなことを整理して、IR情報については自動更新する仕組みを導入したり、ニュースリリース系の事務的な対応には外部パートナーの力を借りることも選択肢になります。社内の状況にあわせて、無理が出てこない運用体制をつくっていきましょう。

社内で「できること」の役割を分担しないまま、社内/外の体制を組めていないと、問題が起きてからの対応しかできません。外部パートナーに頼っても、迅速なリカバリーができない可能性が高いです。トラブルの内容、問題の質や規模によって、外部パートナーがすぐに動けるかどうかがわからないからです。その点、しっかりと体制を組んでおけば、保守契約のもとで迅速な措置が可能で、リスクの最小化が望めます。

避けてほしいのは、運用上のタスクについて、すべてを外部に丸投げするような事態です。管理の範囲を主体的に決められない丸投げの体制は、ランニングコストが青天井で増えるだけです。まさしく、究極の属人化と言えます。

外部パートナーの力を借りること自体は有用ですが、力の借り方は問われます。自社でどこからどこまで管理をして、どの部分をどういう理由から外部に委託するのかを、自社が主体的に判断し、運用体制を築いていきましょう。

どのようなリスクに、誰が対応するかを決めておく
継続的なCMSの運用を支える生命線が、リスク対策です。リスクの種類や内容に応じて、あらかじめ「自社でしっかり対応するところ」と「外部パートナーに頼るところ」を明確に決めておきましょう

Point❺
CMSの高速化対策では、スマホ最適化に要注意。画像サイズや容量のルール化を徹底する。
Point❻
リスク対策は、自社が取り組むべき範囲や内容の明確化が大事!

Text:遠藤義浩
Web Designing 2023年10月号(2023年8月18日発売)掲載記事を転載

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