クラウドCMS導入時に抑えるべきポイントとは?

オンライン環境下での活動が求められる新常態において、Webビジネスで活路を見出したい方もいらっしゃるでしょう。その中核的な役割を果たすWebサイトを構築する手段として今主流となっているものに「クラウドCMS」があります。クラウドCMSの特徴やメリット、導入する際のポイントとは? WordPressとの比較も交えながら解説します。

教えてくれたのは…

石川栄和株式会社ベクトル 代表取締役 https://www.vektor-inc.co.jp/

1. 早く・安く・簡単の三拍子を兼ね備えた「クラウド」

サイト運営を見直す中で注目を集める「クラウドCMS」

Webサイトを構築する際に、「クラウドCMS」を利用されている方も多いかと思います。加えて、ニューノーマル時代に突入し、サイト運営の在り方を見直す中で、クラウドCMSに注目しはじめた方もいらっしゃるようです。その背景には、対面での活動が制限されたことで業績が下がり、Webの予算が削られてしまったパターンと、逆に対面での活動で収益が下がった分を取り戻すために、Webを活用したビジネスに力を入れはじめたという2つのパターンがあると感じています。

前者の場合、予算がないわけですから、いかにコストやマンパワーをかけずにWebサイトを運用していけるかを模索していると想像します。後者の場合では、今までWeb制作に関わってこなかった初心者の方が簡単にWebサイトを構築し、運営したいと考え、対面活動での収益減という今の状況を早く、コストをかけずに打開したいという気持ちが読み取れます。それぞれに状況は違えども、新常態においてWebビジネスに活路を求め、導入を検討するにあたっては、「コスト」「時間」「知識」が課題となっているのではないでしょうか。そういった課題、悩みを解消する選択肢の一つとして、今改めてクラウドCMSに注目が集まっているというわけです。

クラウドの導入が進む理由は?メリットと特徴を解説

そもそもクラウドとは、インターネットなどのネットワーク経由で接続できるさまざまなサービスのことです。クラウドの対として、「オンプレミス」という概念があります。オンプレミスとは、自社の中で情報システムを保有し、自社内の設備によって運用すること。オンプレミスと比較した際のクラウドのメリットは、なんといっても自社内に物理サーバを持たなくていいことです。もちろん、物理サーバを持つことで、運用時の支出コストが固定可能で予算化しやすい、カスタマイズの自由度が高いといったメリットはあります。しかし、導入するには大きな初期費用がかかり、利用開始までの時間も長くなります。その後の維持管理もすべて自分たちで行うため、そこでもコストやマンパワーが必要です。不具合があった場合は、たとえ在宅勤務中や災害時であっても現地に行かないと対応ができませんし、地震や火災などでサーバを失うリスクもあります。その点、クラウドであれば、データはすべてネットワーク上で管理され、どこからでもアクセスすることが可能です。データは自動でバックアップされるため、失うリスクは限りなく低いといえます。

また、サイト負荷の増減に対する調整がしやすいというメリットもあります。例えばキャンペーンサイトを運営している場合、キャンペーン付近は急激にアクセスが集中するけれど、その他はそこまでアクセスがないということが多々あります。キャンペーンのたびに自社の物理サーバを増強しようと思うと、コスト的に割に合いません。

コスト面だけで考えれば、自社サイトはオンプレミスで管理し、キャンペーン時だけクラウドを使うなど、ハイブリッド的な使い方をするという選択肢もあります。しかし今度は、システムを併用する知識やノウハウが必要になるなど、システム構築が複雑化するという新たな問題も出てきてしまいます。クラウドであれば、自動でサーバの容量を増減させるオートスケーリングを設定することが可能です。自社サイトとキャンペーンサイトをクラウドで一括管理してしまえば、システムにアクセスが集中したときはサーバを自動で増やし、アクセスが少ないときはサーバを減らすことで、システムを安定的に稼働させることができます。こういった背景から、今ではほとんどの企業がクラウドを利用しているのが現状です。

クラウドとオンプレミスの比較

コスト削減や容量増減の柔軟性などが、クラウドファーストが進んでいる一つの要因。業務フローやセキュリティポリシー上の理由で完全なクラウド化が不可能なシステムの場合は、オンプレミスとクラウドを併用するハイブリッドクラウドという選択肢も検討の余地があります。

Point?
物理サーバを持つ必要がなく、データをすべてネットワーク上で管理できることが、クラウドの最大のメリット。
Point?
クラウドは「早く」「安く」「簡単に」導入できるとして注目を集めている。

2. 各サービスの特徴を把握することがカギ

導入のしやすさだけで選ぶと後々問題も…

前述したようなクラウドのメリットを存分に活用し、Webサイトの運用に展開したものが「クラウドCMS」です。

クラウドCMSの特徴は、契約したその日からすぐにサービスを利用できること。中でも有名なところでJimdoやWixといったサービスが挙げられますが、この2つは特に初心者向けにつくられているため、HTMLやプログラムの専門的な知識がなくても、デザインのテンプレートを選び、必要な情報を入力するといった、ブラウザ上の簡単な作業だけで完結するようになっている点は秀逸です。Webサイトを立ち上げ終わるまでの手軽さでいえば、他のどんなCMSも敵いません。

その他にクラウドCMSのメリットとして挙げられるのは、データのバックアップやシステムのメンテナンス、アップデートもベンダーが行ってくれるため、運用面での心配がほとんどないということです。

ただし、気を付けなければいけないポイントも存在しています。まずは、テンプレートが充実している一方で、それらを自由にカスタマイズしにくい点。そして、サービスによっては、データの保有権やドメインの所有権がない点です。例えば、カスタマイズに限界があるなどの理由でCMSの乗り換えを検討したとします。その際、ドメインやこれまで積み上げてきたデータを次のWebサイトに引き継ぐことができないというのは、Webビジネスを進めるうえで大きなデメリットとなり得ます。

導入が簡単だからという理由だけでクラウドCMSを選んでしまうと、カスタマイズ性に限界が訪れ、そこで他のCMSに乗り換えたいと思ったときに、またゼロからスタートしなければならないというリスクがあることは把握しておく必要があると思います。

WordPressのクラウド版はインストール版とほぼ同じ!?

有名なクラウドCMSでいうと、JimdoやWixの他にもう一つ、WordPressのクラウド版である「WordPress.com」というサービスをご存じの方も多いと思います。そこで、WordPress.comとその他のクラウドCMS、そして、インストール版のWordPressとの違いについてもご紹介していきます。

クラウドCMSの大きなメリットは、契約したその日からすぐに、誰でも簡単にサービスを利用できることと、最新版へのアップデートやメンテナンス、データのバックアップが自動で行われるため、初心者でも比較的運用しやすいことでした。WordPress.comも、もちろんそれらのメリットを兼ね備えています。一方のインストール版WordPressの場合、サーバにインストールしないと機能しません。サーバを用意し、それに対してドメインを設定し、システムをインストールするという作業をすべて自分で行う必要があります。また、独自にテーマとプラグインを探してインストールし、それらを設定する必要もある分、少しハードルが高いと感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。

ただし、クラウドCMSでは機能やカスタマイズ性に制限があるというデメリットがありました。WordPress.comに関してはどうかというと、有料プラン、その中でも上位プランになればなるほど、独自ドメインを設定できるほか、いろいろなテーマやプラグインを追加でき、SFTPとデータベースにもアクセスできるなど、カスタマイズ性、機能性ともに、インストール版のWordPressに近づいていきます。カスタマイズするために多少の知識は必要となりますが、契約プランによっては、他のクラウドCMSと比較して、自分のやりたいことを実現しやすいといえるかもしれません。

代表的なクラウドCMSの特徴

自分でほとんど手を動かす必要のないクラウドCMSですが、ベンダー次第で使いやすさも変わる点は要注意。導入時には、トラブル時のサポートは手厚いかなどもチェックしましょう。

WordPressクラウド版とインストール版の主な相違点

WordPress.comではバックアップ用のツールが用意されており、これまでに作成したデータをエクスポートすることが可能。データの保有権がないことも多いクラウドCMSサービスの中で、大きな特徴といえます。
※WordPress.comのプランの詳細については公式サイト参照 https://wordpress.com/ja/pricing/

Point?
クラウドCMSは導入しやすいが、機能面やカスタマイズ性に制限がある点には注意が必要。
Point?
WordPressにもクラウド版が存在。その他のクラウドCMSサービスとの一番の違いはカスタマイズ性。

3. 導入時にはさまざまなサービスと比較すべし

導入のしやすさならWPも。選定のポイントとは?

インストール版WordPressは導入時のハードルが高いと感じる方がいる一方で、導入しやすいというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。私も日々WordPressに関する仕事を請け負っているわけですが、オープンソースであるWordPressは、基幹システム自体は無料です。また、テーマやデザインのテンプレートも豊富なため、比較的導入しやすかったという声をよく耳にします。ここからは、導入のしやすさという観点以外に、どんな点を意識してクラウドCMSとWordPressを選べばいいのかということをお伝えしたいと思います。

改めてWordPressの特徴をおさらいすると、とにかくシェアが高い分、触れる人が多いというのはものすごく大きなメリットだと考えています。運用していく中で、もし何か困ったことや知りたいことがあれば、書籍やインターネット上に情報が溢れています。そして、制作会社にとってWordPressを扱えることは必須ともいえるので、修正作業の際に、初期構築を行った制作会社以外でも比較的対応可能なケースが多く、他のCMSに比べてベンダーロックしにくいということにもつながります。また、無料で使えるプラグインも充実していて、イベントカレンダーやSNS、ショッピング機能などのさまざまな機能を、コストをかけずに追加することができます。有料のもの含めればカスタマイズ性は非常に長けています。以上のような特徴から、長期的に良質なWebサイトを運営していきたいという視点で、WordPressを選ぶ方が多いです。

一方で、クラウドCMSの「ベンダー側が自動で最新版にアップデートしてくれる」というのは非常に心強いポイントだと思っています。WordPressのシェアが高いということは、ハッキング用のツールなども多いということです。WordPress自体は、セキュリティー上の脆弱性が発見されるとすぐに修正されるので、最新版を使っていればほぼ問題はありません。しかし、予算がないからといって保守費用を払わずに、メンテナンスやアップデートを怠っていると、サイバー攻撃の対象となってしまいます。

目的やリスクを把握したうえでクラウドCMSの導入を!

専門知識に自信のない初心者であっても導入しやすく、その後の操作も行いやすいのはクラウドCMSであることはおわかりいただけたかと思います。クラウドCMSは日々進化を続け、一般的なサイトを立ち上げる分にはまったく問題ないと言っていいと思います。「早く」「安く」「簡単に」という課題を解決したいのであれば、クラウドCMSを導入するという結論になるのも無理はありません。しかし、既にお伝えした通り、クラウドCMSには、やはり制限があるということは心に留めておくべきです。いざ、クラウドCMSで運用を開始し、問題ないと思っていても、「新たな機能を追加したり、デザインをカスタマイズする必要があるのにできない!」ということが途中で発覚するリスクも考えられます。そこで、例えばWordPressに乗り換える手間を考えれば、元からWordPressを導入していた方が良い可能性もあります。

何よりも大事なのはCMSを導入する際に、サイトを使う目的をしっかりと整理すること。初期コストやマンパワー、時間をかけずにスタートさせることに重きを置き、その後も大きなカスタマイズを必要としないのであれば、クラウドCMSを利用しない手はありません。しかし、Webサイトを活用した事業の拡大を見据えているのであれば、インストール型CMSの導入を検討するなど、今後起こり得るリスクやCMSを使う目的をしっかりと把握することが何よりも重要なポイントです。

WordPressの特徴をおさらい

「情報は多いですが、インストールからカスタマイズまですべて自分で設定する必要があるため、学習時間と作業時間を確保する必要はあります。また、拡張性が高い分、さまざまな組み込みを行うと管理が大変になる点には注意が必要です」と石川さん。

CMS導入時にチェックしたいポイント

CMSごとに特徴や機能が異なり、あらゆるWebサイトに適したCMSというものは存在しません。制作するWebサイトの目的、運用体制などに合わせて利用すべきCMSを選びましょう。

Point?
長期的に良質なWebサイトを運営していきたいなら、後々のカスタマイズの有無まで想定すべし。
Point?
選定時には、今後起こりえるリスクやCMSを使う目的を把握することを忘れずに。

Text:楳園麻美(Playce)

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