CMSの見直しでWeb品質と業務・組織を改善せよ!
HTMLやCSSがわからずとも、Webサイトの構築や運用、管理ができるシステムである「CMS」。読者の多くも、ブログやオウンドメディアの、さらにはWebサイトの更新や管理にCMSを活用していることでしょう。実はこのCMS選びが企業のWeb全体の品質を大きく左右すると話すのが、ミツエーリンクスの榛葉裕幸さんです。榛葉さんはCMSを適切に選択することができれば、ユーザーから見た時のWebの品質を大きく向上させるだけでなく、企業が抱えるWebにまつわる深い問題を解決することができると言うのです。そこで、ここからはなぜCMSを見直す必要があるのか、というその理由と、見直しの際に生じると予想される障壁についてとその越え方、そして正しいCMSの選び方に至るまでを榛葉さんにじっくりと解説してもらうことにしました。本特集の導入編として、まずはそのお話にじっくりと耳を傾けてみることにしましょう!
Illustration: 高橋美紀
[1]CMSをテキトーに選ぶと大変なことになる?
CMSは企業が業務として組織的にWebを活用するためのITシステムなのですが、なぜか業務システムという意識が低いことが多いのです。そうしたCMSに対する認識をあらため、きちんと向きあうことが大切です。
目指すは“CMS意識高い系”
この1、2年のことでしょうか。お客様と接する際に強く感じることがあるんです。それはWeb施策がうまくいってる企業は決まって「CMSに対する意識が高い」ということなんです。SNSにオウンドメディア、さらには広告、SEOと、手がけるべきことが多数ある中で、バックステージ的な存在と言えるCMSにも気を配っている企業は、きちんとした目を持っていると言えるからです。
「えっ、そんなにCMSって大事なの?」…そんな風に感じる方も多いかもしれませんが、もちろん大事です。CMSを適当に選んだり、ろくにメンテナンスをせずに放っておいたりすると、お客様に適したサービスや情報を提供する機会を失ってしまったり、深刻なセキュリティ問題を引き起こしたりと、Web全体の品質に関わる、大きな問題を引き起こしかねません。情報漏洩の原因を探ってみたら、メンテナンスを怠っていたCMSだった、といったケースもあるのです。
しかし、CMSはその裏舞台、バックステージ的な性質もあって、深く考えることなく選ばれたり、自社のマーケティングの目的や規模と合致しないまま、見直されることなく放置されたりといったケースが多いというのが現状なのです。
ここからは、そんなCMSに目を向け、課題を見つけ出し、手を入れるためのノウハウを紹介していきたいと思います。
気づいたらWebの品質全体がボロボロ・・
まとめ
1 . 支える舞台裏(業務や組織、IT)にも目を向けよう
2 . CMSの見直しは舞台裏の課題解決につながる
[2]今のCMSは自社にマッチしている? まずはその評価をしてみよう
CMSで高い人気を誇っているWordPress。「タダで利用できるから」「他も利用しているから」と安易に選択されるケースも少なくないようですが、ライセンス以外で気づいていないコストが発生していることもあります。まずは運用保守を含めたライフサイクルコスト全体で評価することが大切です。
“タダだからWordPress”ですか?
「CMS」とひとくちに言っても、その種類は実にさまざまです。ライセンス形態でいえば、無償で利用可能なオープンソースのものから、ライセンス費だけで数千万もかかるような商用製品を利用しているところもあります。また、ECパッケージのように使用目的のはっきりとした、専門性の高い製品がCMSと呼称されることもあります。そうしたさまざまなCMSの中で、もっとも大きなシェアを誇るのが皆さんもよくご存知の「WordPress」です。「タダで使うこともできる」からか、現状では世界のおよそ6割のCMSがWordPressだというデータもあるくらいです(右グラフ)。
最近はだいぶ減ってきたように思いますが、中には「他の会社も使っているから」「コストが抑えられるから」といった理由で、深く考えることもなく、WordPressを選んでいる企業も、まだまだあるようです。実は、そうした選択の仕方が、大きな問題を生むことがあるのです。
勘違いをしないでいただきたいのですが、WordPressが悪いと言っているのではありません。使いどころや使い方を間違えなければ、優れたCMSです。ただし、素のままのコミュニティ版を利用する場合、アクセス数やコンテンツ数が多いサイトで使用すると反応速度が遅くなったり、頻繁に行われるアップデートにしっかりと対処する必要があるなど、スムーズに運用するために、それなりのスキルとシステム運用・保守体制が要求されるCMSでもあります。また、プラグインを使えば機能を拡張することができるのですが、その場合、お金も手間暇もかかるようになり、Web担当者だけで対応するのは難しくなってしまうケースもあります。ちなみに海外のようにWordPressをエンタープライズサポート付きで利用していればいいのですが、日本では「無料」という点に惹かれて利用されることが多いために、問題が起きがちなのです。
このように、自分たちの運用体制や技術レベルにマッチしないCMSを使用していると、Web品質の低下を招き、顧客を手放すといった事態を招きかねません。それを避けるためには、身の丈にあったCMSを使用する必要があるのです。
6割に達するWordPressのマーケットシェア
「あう・あわない」の見分け方
では、今使っているCMSが自社にあっているのかは、どう判断すればいいのでしょうか。ここでは、そのための3つの視点を紹介します。
(1)業務にマッチしているか 今のCMSは、マーケティングの目的を達成するために適したものか。また、運用体制(人数やレベル)にあっているか。
(2)規模感に問題はないか 利用しているユーザー数(訪問者数)に適したものか。また、コンテンツの数に比して貧弱ではないか。
(3)ホスティング環境や運用・保守体制は適当か 使用しているCMSやサーバOS、ミドルウェアは常に最新バージョンにアップデートされているか。サーバの性能は十分か。運用に問題が生じているようなことはないか。
こうした視点から、一つでもマッチしていない点があるなら、CMS見直しの必要があると考えるべきでしょう。また現状では問題がなくとも、近い将来、業務の大幅な展開を検討していたり、ユーザー数の増加が予想される場合には、それを見越した検討が必要となります。
このように、まずは今使っているCMSを冷静に評価するところから始めるのがいいでしょう。
サイズにあったお風呂を…いや、CMSを使いましょう
まとめ
1 . CMSは業務内容や体制を鑑み身の丈にあったものを
2 . 製品単体ではなく上記の3つの視点からリスク評価を
[3]地味な存在であるCMSの見直しは難しい。だからこそ必要なこととは?
ここまで、CMSの見直しが重要であるという話をしてきました。しかし、いざCMSを見直そうと考えると、そこにはさまざまな障壁が立ちはだかっていることを痛感させられることになります。
風呂敷を思いっきり広げる!
あなたの会社でCMSの見直しを進めた時のことを想像してみてください。仮に、作業を効率化できるCMSを選ぶことができたとします。日々の更新作業は楽になりますが、その一方で、更新にかける人数や体制を大きく変える必要が出てくるかもしれません。
組織において、従来のやり方を変えるというのはそもそも難しいもの。中身の是非を議論する前に、「変える」ということに抵抗を持つ人もいます。また、使用中のCMSの使用契約が残っている場合は、更新のタイミングを考えあわせる必要も出てきますから、社内からは当然ながら検討の「先送り論」が出てくるでしょう。
さらに、CMSの課題は、WebのデザインやUIのように目に見える問題ではありませんから、その深刻さを理解している人が少ないという難しさもあります。社内の理解を得て予算を確保することなど“至難の業”ということになりがちです。
ここに、自分たちにとって最適なCMSを選ぶのが難しいという、もう一つの大きな課題が加わります。世の中には実に多くのCMSが存在していますから、その中からベストのものを選択するのは容易なことではありません。そうした点からもCMS見直しに消極的な企業が多いのです。
ではどうしたら、そうした障壁を乗り越え、見直しを図ることができるのでしょうか。私としてはここであえて「風呂敷を思いっきり広げる」ことをオススメしたい思います。CMSの問題を、周囲や上長も巻き込んだ“組織全体で取り組む課題”にしてしまおうという提案です。
CMS問題の本質は、単にWebの運用や管理の問題にとどまらず、Web品質全体にまつわる深刻な問題であるということはここまでお話をしてきました。その点を強調しながら、訴えていこうというわけです。
ミツエーリンクスではCMSをどう選んでいる?
CMS見直しがもたらす効果とは
そこでCMSの見直しをすると、どんなメリットが会社にもたらされるのかをまとめてみましょう。まず①と②はこれまでお話ししてきたことの振り返りとなります。
(1)日々のサイト更新の課題改善
(2)セキュリティ課題への対応
さらにCMSの見直しは、社内課題の解決にもつながります。
(3)組織の現代化 CMSの見直しを行うことは、会社のWeb関連の組織や運用スタイルを、今の時代にマッチした体制に変換するチャンスです。
(4)サイト管理の一元化 一つの会社が複数のサイトを運用するのは珍しいことではありませんが、それらを情報資産として適切に管理できている企業はけっして多くありません。サイトごとに担当者や運用管理の方法が異なることでトラブルが発生したり、放置されて野良サイト化し、セキュリティ被害を生んでしまうケースもあります。そこでCMSを導入して一元管理を行い、組織的に安全に運用できる体制をつくろうというわけです。これもまた、広い視点での課題提案になるでしょう。
このように、CMS見直しの目的を「課題の複合的な改善」に置くことができれば、社内の深い課題の解決に向けた、“大きな提案”にすることが可能です。CMSを見直すことは、今の時代にマッチした形へと会社を強くするチャンスである、そんな風に提案してみるのはどうでしょうか。
表は華やか、でも裏手は大丈夫?
まとめ
1 . CMSの見直しは「大ごと」にすべき
2 . 業務・組織改善やWebサイトの情報資産管理も念頭に
[4]自分たちにマッチしたCMSを選択するための大事なポイント
CMSにはさまざまなタイプの製品が存在しています。またスクラッチ開発、すなわちオリジナルのCMSを開発して使用する方法もあります。ではどうやってその見極めをしていけばいいのでしょうか。
CMS選びは業務分析から始める
CMS選びを進める際に必要なのが、自社の業務を分析し、設計しなおす視点です。自分たちの会社がどんな目的でどんな事業を展開しているのか、どんな強み・弱みがあるのか、そしてどのような仕組みに再構築すればいいのかといった点を検討し、CMS選びを進めよう、ということです。
Webを仕事で本格的に扱うようになってまだ10数年程度。今、それぞれの職場で行われているのは、これまでの歴史の中で手探りで、あるいは成り行きで形作られてきたやり方が形になったもの、いわば、動物の通った跡が道になったという「ケモノ道」のようなものではないでしょうか。そこには、一部の人にしか理解できないノウハウが残されていたり、非効率なやり方がまかり通っていたりします。そうした古めかしい点を整理整頓し、設計し直すことこそがCMS選びの大きな目的の一つ。自社の業務を冷静な視点から見直し、再構築するという視点から課題をあぶり出す必要があるのです。
CMSの見直しはケモノ道を舗装することに似ています。
見直しの効果を最大化しよう
そうした業務分析を行ったら、今度は右ページに掲載した「コア/コンテキスト分析」と呼ばれるフレームワークを利用しながら、最適なCMSとはどういうものかを考えてみるのがいいでしょう。
コア/コンテキスト分析では、自社の業務においてCMSが「コア」か「コンテキスト」か、さらには「ミッション・クリティカル」かそうでないかという視点から検討を行います。例えば、Webサービスをメインの事業としている企業にとっては自社のサービスに完全にフィットし、他社との差別化を図ることのできるCMSを用意する必要がありますから、スクラッチ開発がベストということになります。一方で、Webをマーケティングの用途に使用している企業は、自社の業務においてCMSの役割がクリティカルなのか、そうでないのかといった点を、製品選択の指標とするのがいいでしょう。
ところで、CMS選びの際には「予算」も大きな論点になります。導入費用が高いCMSに抵抗感を持つ決裁担当者は多く、それが「無料で使える」CMSを選んでしまう一因になっているかもしれません。これに対しては3年、5年と長いスパンを念頭に置いて費用対効果を検討すること、さらには質の高いWeb体験をユーザーに提供しようという「投資」の視点も加味する必要があるでしょう。こちらも近視眼的にならないように、冷静に検討を進めてほしいと思います。
さて最後に、新たなCMSを導入した場合にぜひ参考にしていただきたいのが、ITシステムの導入プロジェクトで用いられる、「パッケージに業務をあわせる」という考え方です。これは、業務設計を行う際には、導入した新しいソフトウェア(CMS)が想定する標準的な業務プロセスに、自社の業務プロセスを適合させるということを意味しています。サイト公開までの流れやコンテンツの管理方法、さらには対応する組織の形、人数などを、パッケージの標準プロセスにあわせてしまうことで、他の組織でも実績のある標準的で安定したプロセスを手っ取り早く、手に入れる方法であるというわけです。
こうすることで、CMS導入の効果をより大きなものにすることができるというわけなのです。
CMS選びに役立つコア/コンテキスト分析
まとめ
1 . CMS選びは業務分析から進める
2 . 新CMSを導入したら「パッケージ重視」の改革を
CMS見直しを、単なる効率の改善にとどめてはいけません。
業務の見直し、組織の最適化といった、大きな課題の解決とつなげて初めてうまくいくのです。そうした点を頭に置いて、ここからの特集を読み進めてください!
Text:小泉森弥