“脳内カレンダー”活用のススメ

まったく新しい行動をいきなり定着させることは極めて難しい。しかし、社会や生活の中にすでに組み込まれた「周期」を上手に活用すれば、不可能なことではない。今回は「周期化」というアプローチについて解説する。

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恵方巻きは豆まきの「代替行動」

やや“過熱”ぎみに思えた今年の恵方巻き商戦。あるSNSの書き込みを発端にメディアが「大量廃棄」を報道したことは記憶に新しい。結局、一過性の流行で、ブームは去ってしまうのだろうか?(01)

01 根づきつつある恵方巻き
恵方巻きは、戦後、大阪の鮓商協会が閑散期である2月に、商戦として仕掛けたという説が一般的だ(筆者撮影)

博報堂生活総合研究所は、節分に恵方巻きをする人の比率を調査しているが、確実に増加傾向にある(02)。発祥の地、関西では、ほぼ7割で固定しているので、その他の地域に習慣が広がっているということだ。首都圏でもすでに4割超えだ。これはもう不可逆的なトレンドだといえよう。

02 節分行事行動の変化
恵方巻きの実施率は着実に増加する一方で、豆まきの実施率は右肩下がり。マクロトレンドでは、豆まきが次第に恵方巻きに代替されつつあるとしている。恵方巻きは2010年から隔年で調査を開始。今年(2016年)の結果は未公開
出典:博報堂生活総研「生活定点1992-2014」

ただ、よく見るとその伸び率は、2012年以降やや鈍化している。今年の「大量廃棄」問題は、この実態に対して売り手側が以前のトレンドで需要予測してしまった「思惑はずれ」の結果だろう。恵方巻きを止めてしまった人が増えたわけではない。新習慣の普及・定着は想像以上に時間がかかるのだ。逆に一度定着した習慣はそんなに簡単に廃れることはない。

ではなぜ、この“関西圏以外では馴染みのない風習”が広く定着してきたのか。それを考えるためには「代替行動」を分析する必要がある。多くの人の、日常生活のほとんどの“予定”は、すでにカレンダー化されている。新しい行動を採用させることは、今「予定されている」何らかの行動をそれに代替させる、ということなのだ。

恵方巻きの「代替行動」は、もちろん節分行事の定番、“豆まき”。恵方巻きは豆まきという行事行動がすでに存在していたからこそ、その「代替」として普及できたと考えるべきだ。火のない所には煙は立たない。仕掛ける側の思惑だけで新行動が普及するわけではないのだ。

重要なのは周期化させること

広く普及している行事には、象徴的な行事行動が存在している。だから、もし新たな行動を習慣化させようとしたら「既存の行事に目をつけてその行事行動に取ってかわる」か、「新たな行事をつくり出す」か、そのどちらかが効果的だ(「土用の丑の日」も「土用」という節気を活用することで、それまでなかった「鰻を夏に食べる行動」を定着させたもの)。

03 日本人の時間意識は円環的
地域の違いに潜む捉え方の違いを把握することも、行動デザインには不可欠

日本を含め東アジアでは、時間を一種の円環的なサイクルで捉える傾向がある。これは西欧が時間を常に過去から未来に進む直線的な概念で捉えているのと対照的だ(03)。四季の変化があり、その中で稲作のサイクルで社会生活が循環してきたからだろう。

つまり、日本人の元来の脳内カレンダーは「二十四節気」(04)という四季の変化・気温や雨量で廻る農耕暦がデフォルトともいえる。現代社会では、農耕暦が形骸化したため、節分を祝う意味が不明になってしまったのだ。

04 二十四節期表
節分は、本来、立春の前日だけでなく、立夏・立秋・立冬の前日も同じく節分である。表内の日付は新暦(2016年)にあてはめたおおよその日付。節気とは月の節目にあたるもの、中気とは節気の後に訪れるもののこと

行事が弱れば、行事行動も弱る。今日の住宅環境と食生活の変化が、豆まき行動を弱体化させてしまった。だが、脳内カレンダーに組み込まれた「周期化された習慣」は、依然強い行動喚起力を持つ。一家に福を呼び込む儀式は、やっぱり続けたい。そこが新行動を差し込む「行動チャンス」だったのだ(05)。

05 行動チャンス(新しい行動を差し込むチャンス)
今まで続いてきた行動習慣があるときから次第に「弱る」、つまりその行動を休止する人や、休止する頻度が増えることがある。その理由は社会の変化や世代交代、本人の加齢などさまざま。そのタイミングが新行動に代替させるチャンス(=行動チャンス)だ

「肉の日(29日)」は給料日後、という毎月の「周期化」を狙ったものだ。年一回という周期なら採用のハードルがさらに低い。「記念日マーケティング」が多発している理由だ。もし「毎日化」させたかったら、一日の中の周期を活用するべきだ。毎日必ず来る「朝」を利用した「朝活」「朝シャン」などがそれにあたる。

※Web Designing 2016年4月号掲載記事を転載

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