サイトの改善ポイントを見つけるための現状把握 |「Web解析士協会」の解析データと現状把握
Webサイトの担当になって、何かサイト改善をしなくては!と意気込んでみたものの、どの数字を見て、どのように施策に落としていくかを考えるのは意外と難しいもの。問題点を見つけるためにも、まずはサイトの現状を知ることが大切だ。サイトのゴールを見据えながら、「どこから」「どうやって」「どんなニーズで」サイトに来訪しているのかを解析ツールの数字を見ながら把握していこう。
著者プロフィール
小田 則子さん
2004年、(株)博報堂アイ・スタジオ入社。入社以来解析業務を担当。解析ツールの導入から設計、PDCAを回すためのデータの取りまとめなどを担当している。
一般社団法人ウェブ解析士協会
事業の成果に導くWeb解析を学ぶ機会の創出、研究開発、関心を持つ人たちの交流促進、就業支援などで、Web解析を通じての産業振興やWeb解析の社会教育を推進する。
サイトの現状を把握する
今回は、「ウェブ解析士」という資格制度を提供している「ウェブ解析士協会」のサイトを例に、現状分析を行いながら改善ポイントを見つけていく手順を紹介しよう。
ウェブ解析士には、「初級ウェブ解析士」「上級ウェブ解析士」「ウェブ解析士マスター」という3種類の資格があり、講座受講、試験およびレポートの提出で合否が決まる。そのため、ウェブ解析士協会サイトのゴールは「各講座への申し込み」となるが、申し込みに踏み切れないでいる人を「申し込もう!」という気持ちにさせることも大事な役割だ。そこで、資格取得者が実務でどのように活躍しているのかといった報告、資格取得後には最新マーケティング事情を学べる「フォローアップ講座」が受講できることなど、取得だけが目的ではない、生きた資格であることをアピールしている。
STEP 1:サイトのゴールを明確に
全体のゴールとは別に、現段階での打つべき施策のためのゴールを明確にしておこう。
「ウェブ解析士協会」自体は資格認定の取得者を増やすことがゴールだが、その一歩手前の「講座の申し込み数」がサイトのKPIとなる。
STEP 2:アクセス数の推移を見る
01は、2012年から2015年11月までのウェブ解析士協会サイトのページビュー数の推移だ。いくつか山になっているところは広告出稿を行った月であり、効果が出ていることがわかる。それ以外には、入学・卒業といった行事、花粉症や梅雨といった気候などの季節要因もある。また、長いスパンで確認するときは、サイト改修などの影響も念頭に入れておこう。
さらに、「SimilarWeb」などを使って、競合他社とのアクセス数を比較することも有効だ。どんな施策を行っているかを確認し、お手本になるところは積極的に取り入れよう。
STEP 3:来訪者の属性を確認する
Googleアナリティクスでは、ある程度の年代・性別・アクセス元の地域が確認できるので活用していこう(02)。
02を見ると、ウェブ解析士協会のメインユーザーは25~34歳で、男性が63%とやや多いことがわかる。ただし、セグメントを設定して「講座申し込みをしたユーザー」に限定してみると(03)、男性しかコンバージョンしていないことがわかる。なぜ女性が申し込みを完了しないのかを考える必要がある。
STEP 4:どこから来訪しているのか
何かの情報を知りたいと考えたとき、多くの人は検索エンジンで検索するはずで、ここでも検索エンジン(Organic Search)経由で来訪するユーザーがもっとも多くなっている(04)。
また、特定のサイトのリンク経由の来訪が多い場合もある。たとえば、協会のサイトは、Webマーケティングの資格を紹介しているサイト経由の来訪が一定数ある。どんな文脈でサイトが語られているかを確認しておこう。
ソーシャルメディアからの来訪もチェックしておく。SNSの管理画面から記事自体のエンゲージメントなどは把握できるが、実際にサイトへの誘導ができているのか、CV(コンバージョン)につながっているのかも確認しよう。
04を見ると、ソーシャルメディア(Social)からの来訪は5.3%とあまり多くない。ただし、そのうちの初級講座の申し込み完了数はある程度あり、CVRは0.24%と、バナー広告(Display)よりも効果がある。つまり、ソーシャルメディアの活用で、より多くの来訪とゴールを達成できそうだと推測できる。
キーワード広告・バナー広告などの出稿には、結果に違いが出ている(05)。
キーワード広告(Paid Search)のCVR(初級完了(目標1のコンバージョン率))は0.37%なのに対し、バナー広告(Display)のCVRは0.07%と低い。つまり、バナー広告は、クリエイティブや配信ターゲットなどの見直しが必要だといえる。たとえば、思い切ってバナー広告の予算をキーワード広告に寄せるといった対策を取るときの裏付けにもなる。広告出稿では、必ず効果検証を行って、次のアクションに結び付けよう。
STEP 5:どんなニーズで訪れているのか
最後に、ユーザーはどんな意図を持ってサイトに訪れているかを考えよう。ニーズを考えるときに役に立つのは「検索キーワード」だ。そのためには、解析ツールだけではなく、「Google Search Console」なども活用する必要がある。
06を見ると、上位9位までが、いわゆるブランドワード(サイトの名称や商品名など)だ。つまり、それとは関係なさそうな10位の「社内研修」(②)が、ブランドを意識していない「潜在ワード」、つまり潜在ニーズだといえる。
ここで、検索キーワードを分類して考えてみよう。07は、全キーワードを、顕在層(ウェブ解析士を認知している)・潜在層(ウェブ解析士を認知していない層)・その他に分類したものだ。
このようにキーワードを分類してみると、まだウェブ解析士を認識していない「潜在層」のセッション数が少なく、コンバージョンも低いことが明らかだ。したがって、この層の流入数増加と刈り取り施策が急務である。施策としては、関連性のあるキーワードでの来訪を増やし、「ウェブ解析士」を認知させるコンテンツを追加するという方針が考えられる。
現状を把握し、施策を考える
これで、現状のサイトの特性が見えてくる。ゴールと照らし合わせながら、どこに問題があるか、どう解決するかの施策を考えていく。
STEP 2から、ウェブ解析士協会サイトは年々アクセス数が増加しており、短期的には広告出稿も有効であることがわかる。しかし、STEP 3で、来訪者の40%が女性であるのに、「講座申し込み完了」したユーザーがいないことが明らかになった。そのため、ママさん解析士のインタビューなど、女性にアピールするコンテンツの作成、女性向けのバナー配信などの施策を行って女性の講座申込み増加を狙った。
また、STEP 4では、ソーシャルメディア経由の来訪とコンバージョンには期待が持てそうであることがわかった。そこで、SNSで情報を発信する際には、投稿内容をカテゴリーに分け、カテゴリーごとにゴールを決めて記事の投稿を行うようにした。「ウェブ解析士を知ってもらう」ために、「いいね数」や「シェア数」の増加をゴールにして解析のトリビア的な内容の投稿をしたり、「リンクのクリック数」や記事経由の申し込み数をゴールにして「直近の講座への申し込み数を増やす」ための内容を投稿した。それぞれの投稿がうまく機能しているかをチェックし、次の記事内容に反映している。
また、バナー広告の費用対効果が低いことも判明した。そこで、ターゲットごとにバナーのクリエイティブを変えた。講座のスケジュールまで閲覧していないユーザーには「Webマーケティングを学びたいならウェブ解析士を」といったメッセージを、スケジュールを確認しているユーザーには「今すぐ講座申し込みを」といったメッセージを出す形にした。
STEP 5からは、関連キーワードからの来訪を増やし、「ウェブ解析士」を認知させるコンテンツが必要ということが浮かび上がった。そこで、サイト上に「マーケティングとは」というコンテンツを追加し、「3C分析」などの一般的なマーケティング用語やWeb解析用語の解説、「カスタマージャーニー」といったキーワードに対応したページを作成した。さらに、講座の中でも学べることをアピールし、ウェブ解析士の認知拡大を狙った。
今後は、これらの施策の効果検証を行い、効果的だった施策は継続し、そうでない場合には別の施策を投入していく。
大切なのは、どういう目的で施策を行うのか、何を改善できていればその施策は成功と言えるのかをあらかじめ決めておき、結果を確認し日々施策の改善を行うことだ。PV数に一喜一憂するのでなく、課題を解決するための問題点を発見できるように、まずはサイトの現状把握を行うことが第一歩となる。
※Web Designing 2016年2月号掲載記事を転載