Facebookが注目する360度カメラ【Giroptic】

Facebook開発者4,000人に無償提供

4月の18~19日にシリコンバレーにて、Facebookが主催する開発者向けカンファレンス「F8」が開催されました。例年では、新たな機能のリリースやAPIの仕様変更などの発表が主な内容ですが、今年は一つ異なる点がありました。それは会場に来た約4,000人のオーディエンス全員に、とあるスマホ装着型のカメラデバイスが無料で配られたのです。

その無料提供されたデバイスというのが、「Giroptic (ジャイロプティック) iO」 。iPhoneのLightning端子に差し込み、専用アプリをダウンロードするだけで、一回のシャッターで360度写真を撮ることができるというもの。

最近Facebookに流れる投稿で、360度に動く写真を見ることがあると思いますが、このような写真をスマホを360度動かしたりすることなく一瞬で撮ることができるのが、Giroptic iOなのです。Facebook社のCEO、マーク・ザッカーバーグ自身が「これからの写真や動画は360度対応の時代だ」と公言していることもあり、いわばFacebook社イチオシの機能です。ゆくゆくはVR普及への布石になるともされていいるこのデバイス、製造販売しているのがフランスのスタートアップ、Giroptic社です。

今回のFacebook社とのコラボに至るには、Giroptic社のサンフランシスコ支社の功績が大きいと言います。実は、同社のサンフランシスコ支社は、我がbtraxが運営するコワーキングスペース「D.Haus」内にあり、お互いのスタッフ同士の交流も盛ん。そんなこともあり、今回は同社COOでアメリカオフィス代表を務めるパスカル・ブローシャー(Pascal Brochier)氏に話を聞きました。

パスカル・ブローシャー

Pascal Brochier Giroptic社COO、アメリカ支社代表

Giroptic

フランスに拠点をおく360度カメラのスタートアップ。「360cam」でクラウドファンディングサイト「Kickstarter」出資者を募集し、多くの指示を受け、140万ドル以上の援助を得ることに成功しました

 

「スマホでSNS投稿」を簡単に

Giroptioc社は2014年、フルHDの360度カメラ「360cam」をクラウドファンディング上で展開し成功、発売を実現させました。結局、散々ユーザーを待たせた挙句リリースしましたが、その直後に360camの開発を中止し、Giroptic ioを作り始めたのだそうです。その理由として、スマホとの連動を通じたリアルタイムシェアリングの必要性を強く感じたからでした。

今の時代、多くのユーザーが写真をスマホで撮り、すぐにアップします。そのエクスペリエンスを実現するために、Giroptic iOは開発されました。日本でも有名な「RICOH THETA(シータ)」も360度カメラですが、Giroptic iOは直接スマホに装着する点において異なる体験を提供します。もちろんTHETAの方が写真のクオリティは高いですが、総合的なエクスペリエンスとしては写真を取り込まなければならない分、リアルタイムにソーシャルと連動する点において面倒です。

具体的には、撮影した360度静止画・動画をスマホで視聴したりSNS上に投稿するにはカメラから転送しますが、データ量が大きいので、転送に要する時間が長く掛かってしまうのです。

また、スマホに直挿しするスタイルであることから、スマホのディスプレイを見ながらの撮影ができるという利点があります。スマホのディスプレイによるモニタリングは既存の360度カメラでも可能ではありますが、そのためにはカメラとスマホをWi-FiやBluetooth経由でペアリングしなければいけないというひと手間がかかります。しかもネットワーク越しなので、うまく接続できなかったり、タイムラグが生じたりすることもあります。その点、直挿しならそんな手間もストレスも起きません。

ほとんどの人がSNSへの投稿をスマホで作業し完結することを考えると、「スマホのディスプレイで見られる」「そのままSNS投稿ができる」というのは他の360度カメラにはない大きなメリットです。

4,000台購入したFacebookの本気

Giroptic iOは絶対的な写真のクオリティよりも、そういった総合的な体験を優先したそうです。このカメラで写真を撮ると、専用のレンズが複数の角度で写真を撮り、内蔵されているソフトウェアがその写真を縫合することで、360度ぐるぐる回すことができる写真が出来上がります。それをFacebookでシェアすれば、誰でも簡単に360度写真を投稿することが可能になります。より簡単に、スムーズにSNSへの投稿ができることを考えて作られたGiroptic iOに、CEOが「360度対応の時代」と公言しているFacebook社が関心を示すのは当然のことだと思います。

現にF8でのGiroptic iOの配布は、Facebook社が同製品を4,000台購入してくれたことで実現しました。彼らもそれほどまでにこのプロダクトに対して真剣だということがわかります。

実は近いうちに日本での販売が予定されており、より多くのユーザーに360度写真を撮ってシェアしてもらいたいと思っているとのことです。

「SNSへの投稿」のために開発された「Gioptic iO」。裏表に2つの超広角レンズを持ち、写真、動画はもちろんライブストリーミング配信にも利用できます。このSNSへの投稿に対するエクスペリエンスを追求した結果、Facebook社も関心を示し、同社の開発者カンファレンス「F8」(写真左上)にて参加者に無償提供されるに至りました
2014年にクラウドファンディングで商品化が実現した「360cam」。3つの光学カメラ、3つのマイクを搭載し、2K(1,024p)、4K(2,048p)画質で撮影可能。単体撮影可能ですが、Wi-Fiでアプリと接続し操作することもできます

 

Text:ブランドン・片山・ヒル
米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。サンフランシスコ、シリコンバレーを中心に、スタートアップの魅力をデザイン、ビジネス、テクノロジー面から解説します。 http://btrax.com/jp/
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