
ビステリオ ビシバシ│O2Oを成功に導くリアル店舗のためのFacebook活用術
“顔”が見えることがO2Oの成功には必須
神奈川県横浜市にあるイタリアンレストラン「ビオステリア ビシバシ」。1989年にオープンした同店は、シェフの駒木根一樹氏と、その両親、駒木根氏の奥さんの4人で切り盛りするレストラン。横浜市内ではあるものの、集客が見込める横浜駅からは地下鉄の乗り継ぎが必要な住宅街にあり、飲食店には不利な立地。それにもかかわらず、東京からはもちろん、評判を聞きつけて他県から足を運ぶ人もいるほどの繁盛店だ。その理由は、味はもちろんだが、Facebookの効果も大きい。

神奈川県横浜市南区宮元町3丁目51-8 横浜市営地下鉄ブルーラインの蒔田駅から徒歩1分程度。大通りから1本入った場所にあるため、通りすがりのお客様が期待できる場所ではないが、現在は予約が絶えない
同店がFacebookを始めたのは、約5年前。他店との差別化のため、店の改装を機にカジュアルなトラットリア(大衆店)から、より素材にこだわった料理を提供するレストランへ、大きく舵を切ったことがきっかけだった。だが、ビジネスモデルの変更は、既存の顧客離れを引き起こすだけでなく、新規顧客も獲得しなければいけないため、リスクが高い。結果、同店の売上げは改装前に比べて3~4割も落ち込む時期が続いてしまう。そこで駒木根氏が、店の生き残りのために取り組んだのがFacebookだった。
「価格も高く設定しなおしたので、これまでのように地元のお客様だけをターゲットにしていたのでは生き残っていけませんでした。とはいえ、何十万円も広告費を使う余裕もありません。ですから、できるだけコストをかけずに、もっと広い商圏のお客様に店を知ってもらうためにFacebookを活用しようと考えたんです」(駒木根氏)
運用にあたって、駒木根氏はSNSコンサルティングを行うネット・ビー・ウェイブの森浩氏に相談。森氏が同店を見て最初に受けた印象は、やはり立地の悪さだったが、飲食店の場合、味がよければFacebookでも効果が出せると考えたという。
「例えば友達がおすすめするレストランであれば、多少、不便な場所にあっても行ってみたくなるものです。ビオステリア ビシバシであれば、そうした潜在的なニーズに、Facebookでアプローチできるのではと考えました」(森氏)
Facebookを始めるにあたり、森氏がアドバイスしたことは3つ。「1日1回はアップすること」「時々スタッフの顔を出すこと」「店のFacebookページだけでなく、個人のFacebookの両方で発信すること」だ。同店の場合、いくらFacebookへの訪問が増えても、実際に店に足を運んでもらわなければ利益には繋がらない。3つのアドバイスは、O2O※1(オンライントゥオフライン)のためのアドバイスだった。

「コンスタントに投稿するのはもちろんですが、店舗の場合、いかに『お店の顔が見えるか』も重要です。というのも、Facebookページのファンになっても、実際に足を運ぶまでには大きなハードルがあります。それが、お店の“顔”が見えることで、ハードルを低くすることができるんです。そのためにはスタッフの顔や、人となりがわかる投稿をすることや、店のFacebookページに加えて、オーナーやシェフなど、店のキーマンとなる人が個人のFacebookでも情報発信することがとても大事になってきます」(森氏)
※1 O2O(オンライントゥオフライン) Web上(オンライン)から、リアル店舗など、オフラインの行動へと促す施策

素材にこだわったレストランであることを強く打ち出すために、同店のFacebookには産地から届いた素材の写真が多いのが特徴。店の世界観をうまく伝えている。投稿する時間帯は、8時から10時頃の通勤時間帯と仕事終わりが近づく16時~18時頃。Facebookを見ている時間帯で、かつ予約などのアクションをとれる時間帯に絞っている

時折、店のFacebookページにスタッフが登場するだけでなく、シェフの駒木根氏が個人のFacebookでも情報を発信。“顔出し”と言っても、少し顔が見える程度の投稿が多いが、これでも十分、効果的だ。顔を出したくない担当者は参考にしてほしい

Facebook広告でビジネスとの相性を判断
Facebookページを運用するにあたり、当初の目標に掲げたのは1,000人のファンを集めること。だが、目標設定と同時に、森氏はFacebookとの相性の見極めも行った。
「店のビジネスや商圏、ターゲットなどによって、相性のいいSNSは異なります。運用には時間も手間もかかるので、本格的に始める前に、そのSNSがビジネスとあっているのかを見極める必要があります」(森氏)
それを判断するために行ったのが、Facebook広告。同店では約10万円の予算を設定して、Facebook広告を利用。予算の範囲内で、どれだけ「いいね!」を獲得できたかで、Facebookとの相性を見極めることにしたのだ。広告を利用しても「いいね!」が集まらなければ、Facebookとの相性が悪いと判断できる。
実際には、目標だった「いいね!」を獲得するまでにかかった費用は7万円程度。Facebookは効果的と判断して、本格的に運用を開始した。この方法は、Facebookユーザーが増え、広告の競争が激しくなった現在とは一概に比較できないが、SNSとビジネスの相性を見極める方法の一つとして有効だろう。
その後、同店は運用から約3ヵ月で、Facebookをきっかけに店を知ったお客様が来店しはじめ、現在は新規で来店する人のほとんどがFacebookを見て訪れているという。森氏は同店がO2Oに成功した理由を次のように説明する。
「個人商店や中小企業のSNSは、オーナーやキーマンとなる人が、いかに積極的に取り組むかが成否を分けています。また、SNSでは世界観やストーリーを演出することが大事ですが、ビオステリア ビシバシでは素材へのこだわりを伝えるために、料理ではなく素材の写真をアップしています。それによってユーザーから『食べてみたい』『どんな味?』などのコメントが生まれ、来店にも繋がっています。加えて、Facebookを軸に既存のお客様が、新規のお客様を連れてきてくださっている。こうした点が、O2Oの成功の要因でしょう」(森氏)
また、SNSから受けるイメージと実店舗との間にギャップが生まれないことも大事だ。
「Facebookから伝わる雰囲気と、実際に足を運んだときにギャップが生まれないことも大事です。ビオステリア ビシバシのFacebookからは、素材へのこだわりと同時に、家族経営ならではの温かみも感じられます。そして、実際に足を運んでも、お店の方が気さくに話しかけてくれる。SNSと実店舗のイメージが一致しているのも成功の理由です」(森氏)
Facebookの活用によって、見事にO2Oを成功させたビオステリア ビシバシ。特別なことはやっていないからこそ、同店のFacebook活用には学ぶべき点が多い。

コメント欄への投稿には、必ず返信。「ビジネスと捉えてしまうと負担に感じますが、店と同じように、お客様とのコミュニケーションとして楽しんでいます」と駒木根氏

