
ノーコード×AIで制作。「佐久間宣行事務所オフィシャルサイト」誕生の舞台裏と企画プロセス

2026年2月に開催された「Studio Design Award 2025」でグランプリを受賞した「佐久間宣行事務所オフィシャルサイト」。このWebサイトは、TVプロデューサーなど多方面で活躍する佐久間宣行さんが出演するYouTube番組の企画として制作されました。そして、ノーコードツールで制作したとは思えないほど自由度が高く遊び心にあふれた表現で、公開当初から大きな話題を集めています。
このプロジェクトは、デザイン会社グッドパッチによるPR施策の一貫でもありました。どのような経緯で、これほど話題性のあるWebサイトがつくられたのでしょうか。制作を手がけたクリエイティブディレクターの栃尾行美さんとPR担当の井上悠斗さんに話をうかがいました。前編と後編の2回にわけてご紹介します。
目次
プロフィール

栃尾 行美
株式会社グッドパッチ
クリエイティブディレクター/サービスデザイナー
2018年にUIデザイナーとして入社し、現在は30名以上のサービスデザイナーが所属するチームを統括。本プロジェクトではクリエイティブディレクターとして、ブランド構築からアプリの体験設計までを管掌するなど、中心的な役割を果たす。
https://x.com/tochio193

井上 悠斗
株式会社グッドパッチ
PR・広報
早稲田大学卒業後、コンサルティング企業やHR企業を経て2023年グッドパッチ入社。テレビ東京コミュニケーションズと企画したYouTube番組『佐久間さん、HP作らせてください』においては、協力プロデューサーとしてプロジェクトマネジメントやPRを担当した。
グッドパッチのPR施策は、なぜエンタメ番組だったのか?
––––「佐久間宣行事務所オフィシャルサイト」は、YouTube番組『佐久間さん、HP作らせてください』の企画として制作されました。どのようなきっかけでスタートしたプロジェクトですか。
井上悠斗(以下、井上) もともとは、デザインをまだ身近に感じていない方々に向けて、その価値やグッドパッチの取り組みを広く知っていただくためのPR施策を考えたい、というところが出発点でした。
昨今はショートドラマの流行をはじめ、タクシー広告など、さまざまな場面で動画コンテンツが目に入る機会が増えています。そうした流れを踏まえると、情報発信の手段として動画は欠かせないと考えました。
ただ動画制作となると、我々の専門性だけではカバーしきれない部分も出てきます。外部のプロに協力してもらうことで、より多くの方々に広く届けられるのではないかと考えました。そこで、動画を軸としたメディアミックスな発信に強いテレビ東京さんにお問い合わせしました。テレビ業界の方がつくる番組のクオリティの高さは、日頃から実感していましたので。
そして、グループ会社のテレビ東京コミュニケーションズさんをご紹介いただき、YouTube番組を制作することになりました。
––––PR施策でありながら「バラエティ番組」というアウトプットだったことにも驚きがありました。
井上 私と一緒に企画段階から入っていた弊社代表の土屋(尚史)がエンタメ好きということもありますが、テレビ東京コミュニケーションズで担当してくださった町田拓哉さんが、バラエティ番組をつくってきた方だったという背景もありました。
町田さんがいくつか企画を提案してくださり、その中で、TVプロデューサーやラジオパーソナリティ、YouTuber、アイドルプロデューサーなどとして活躍する佐久間さんのWebサイトをつくる企画がよいのではないかという話になったんです。佐久間さんは引く手あまたでお忙しいのですが、町田さんが立てた企画の内容に加え、町田さんが佐久間さんのテレビ東京時代の後輩で交流が深かったこともあり、なんとか実現しました。
––––YouTube番組では、「佐久間さんが独立時に連絡先を公表していないため、仕事をオファーしたい方々から古巣のテレビ東京の後輩に問い合わせが来てしまい、困っている」という課題を、窓口となるWebサイトを制作することで解決するという内容になっています。栃尾さんは、どのような経緯でそのWebサイト制作を担当されることになったのですか。
栃尾行美(以下、栃尾) ある夜、突然上司から「やれる?」というメッセージが来ました(笑)。正しいデザインをつくるだけでは成立せず、場合によってはデザイナーとしての矜持を曲げてでも、エンタメとして成立させなければいけないかもしれない企画だと考えたときに、私の名前が挙がったと聞きました。また土屋からは、「栃尾だったらよしなにやってくれるだろうと思っています」と言われました。
––––エンタメとして成立させつつ、会社のPRとしても機能させなければいけないのは、プレッシャーが大きそうですね。
栃尾 単純に正しいデザインをつくるだけでは成立しない難しさがあると感じていました。だからこそ、どこまで崩してよくて、どこは絶対に守るべきか、その判断を引き受ける役割なんだろうなと思いました。
そのため、任命されたときは「大変そうだな……」というのが率直な感想でしたね(笑)。バラエティ番組として広がった話をきちんと収束させられるのか不安でしたし、グッドパッチを背負うプレッシャーもありました。万が一炎上したら、自分は責任を取れるのだろうか……とも考えました。
ただ、「新しいことに挑戦するためには痛みを伴う」という個人的な信念もありますし、コンフォートゾーンに留まっているのはよくないとも思っていました。それなら飛び込んでみようと、上司にすぐ「やります」と返信したんです。
井上 制作するWebサイトの内容次第では、炎上やネガティブな印象が広がる可能性もあります。そうしたリスクを最小限に抑えつつ効果を最大化できる人は誰かと考えたとき、私と土屋の間で最初に名前が挙がったのが栃尾でした。
これまで自社のYouTubeやイベントにも出演していますし、本人も「ビッグになりたい」とよく言っているので、そういう意味でも向いているだろう、栃尾なら大丈夫だろう、とみんな思っていました。
「WHY」を投げかけ、佐久間さんのこだわりを引き出す
––––YouTube番組には、栃尾さんとともにサービスデザイナー役としてラランドのニシダさんが出演されています。佐久間さんの仕事へのこだわりについて、ニシダさんが丁寧にヒアリングされていましたが、事前にヒアリング方法の指南をされたのでしょうか。

井上 ニシダさんは佐久間さんと共演歴が長いので、番組を盛り上げてくださるだろうと考えて出演をお願いしました。サービスデザイナーの役割についても、事前にニシダさんにお話しました。
台本では、ニシダさんが場をかき回して盛り上げ、栃尾がヒアリングを進めていく予定でした。ただ、撮影はナマものなので……。
––––想定していた台本通りには進まなかったと聞きましたが?
井上 はい。台本では、佐久間さんがWebサイトをつくることを少し嫌がる想定だったのですが、蓋を開けてみたら「実はつくりたかった」という流れになりまして(笑)。
ただそれでも、テレビ東京コミュニケーションズさんや佐久間さん、ニシダさんのおかげで、根幹を押さえて収録いただけたと思います。
グッドパッチのバリューの一つに「WHYが人を動かす」というものがあります。それは私たちが普段仕事をするうえで特に大切にしている姿勢なのですが、ニシダから佐久間さんに「なぜWebサイトをつくりたいのか」「なぜテレビマンになったのか」「なぜ働いているのか」といったWHYに沿った質問を投げかけてくれて。佐久間さんもしっかり答えてくださいました。

栃尾 佐久間さんに直接ヒアリングできたのは、番組収録の短い時間だけでした。初対面の私では、あそこまで話を引き出すのは難しかったと思います。ニシダさんと佐久間さんのこれまでの信頼関係があったからこそ、あの深さまで踏み込めたのだと思います。
おかげで、「自分がおもしろいと思うものが世の中に増えたらいいなと思って働いている」「見たことのないおもしろい仕事を、俺としたい人に(Webサイトを)届けたい」といった、核となる言葉を聞き出すことができました。この言葉が、今回のWebサイトのコンセプトやトーンを決める起点になっています。
––––番組収録後に写真撮影を行われたそうですが、この時点ではどんなWebサイトになるかまだ決まっていませんよね。
栃尾 はい。私が唯一リクエストしたのが、CONTACTページ掲載用の写真です。
「返事が来ない可能性があることも明記してほしい」と佐久間さんから言われていたので、「ごめんね」のポーズをしていただきました。それ以外はあえて決めきらず、ニシダさんにさまざまなポーズを指定いただき、あとからどう調理するか考える、という形にしました。
その場で生まれたカオスや偶発性も含めてデザインに反映できたほうが、結果的に佐久間さんらしい表現になると思っていました。

佐久間さんから「すごい!」の声を引き出すために
––––佐久間さんと直接打ち合わせができない状況の中、どのように企画を進めていきましたか?
栃尾 最初は正直、何が正解なのかわからず、かなり悩みました。そこで、最初から正解を当てにいくのではなく、意思決定の精度を上げる進め方に切り替えました。具体的には、いくつかの方向性ごとにしっかりデザインをつくり込んで、 「どれがよさそうか」ではなく、「どの判断が佐久間さんらしさに近いか」を見極めていく進め方にしました。
佐久間さんと長くお付き合いのある町田さんにそれらのデザインを見ていただいて、「これは受けますかね?」と相談に乗ってもらいました。
町田さんは本当にイタコのように(笑)、自分の中に佐久間さんを降ろしてフィードバックをしてくださって。
––––何案くらい提案したのでしょう?
栃尾 大枠で5〜6パターンほどつくりました。ただ単に数を出したというよりは、どういう意図でこの方向にしているのかまで含めて言語化した案を持っていくことを意識していました。



––––町田さんからは、どのようなアドバイスがありましたか?
栃尾 最初は、エンタメ寄りのWebサイトを求められていると思っていたので、佐久間さんをいじるような、完全に遊びに振ったデザインをつくっていました。ただ町田さんから「デザイン会社の凄さを見せるために、圧倒的なクオリティを出してほしい」「番組内で完成したWebサイトを見た佐久間さんから『うわー、すごい!』という言葉を引き出したい。素直に喜んでもらいたい」と言われて。そこが大きなターニングポイントでした。
それまで「どうおもしろくするか」を必死に考えていたのですが、「どう感情を動かすか」に視点が変わった瞬間だったと思います。「どう感情を動かすか」については私の得意分野でもあるので、そこからはエンタメに振り切るのではなく、純粋にクオリティで驚かせる方向へ舵を切りました。
––––最終的に、ブラウン管テレビやカセットテープなどのモチーフを用いた、平成レトロ調のにぎやかなデザインになっています。どのようなコンセプトで制作したのでしょうか。

栃尾 佐久間さんは、テレビやYouTube、ラジオなど、さまざまなメディアで活躍されています。そのため、ひとつの世界観にまとめるというよりも、いろいろな文脈が混ざり合っているカオスさそのものを表現したいと考えました。
また、番組の中で、佐久間さんが「人生を楽しく生きるおじさんの希望になりたい」とおっしゃっていて。その言葉がすごく印象に残っていました。
佐久間さんのファンは子どもの頃から番組を見てきた方も多く、それぞれの中に思い出として残っているコンテンツがあると思っています。そこで今回は、単にレトロにするのではなく、“過去の記憶が一気に蘇るような体験”をつくりたいと考え、ブラウン管テレビやカセットテープなど、少し懐かしさを感じるモチーフを使った平成レトロ調のデザインにしました。
––––制作期間はどれくらいだったのでしょうか?
栃尾 全体で2カ月くらいです。最初の1カ月は私1人で、Webサイトの企画やワイヤーフレーム、デザインコンセプトをつくり、町田さんに提案してはフィードバックをもらい、またつくり直す、ということを繰り返していました。
残りの1カ月は、1人では厳しかったので後輩デザイナーに入ってもらい、2人でデザインと実装を進めました。
普段はFigmaでデザインをつくってから実装することが多いのですが、今回はスピードが求められていたので、Studioで実装しながらデザインを詰めていく進め方にしています。設計と実装を分けるのではなく、その場で判断しながらクオリティを上げていきました。
––––佐久間さんのWebサイトはStudioで制作された点も注目され、「Studio Design Award 2025」のグランプリを受賞しました。Studioで制作することは最初から決めていたのでしょうか。

栃尾 時間も限られていましたし、デザイナーだけで実装からリリースまで進める前提だったので、スピードとクオリティを両立できる手段として、最初からStudioを選択していました。
どうしてもStudioの基本機能だけでは実現が難しい部分だけ、ピンポイントでエンジニアに入っていただいています。
––––ノーコードツールの中でも、Studioを選んだ理由は何ですか?
栃尾 このWebサイトは半年間の期間限定公開で、2026年6月17日にクローズ予定です。ただ、もし今後も使っていただけるのであれば、そのまま運用できる状態にしておきたいと考えていました。そのため、納品後も非デザイナーの方が扱いやすく、かつ国内サービスでサポート面でも安心できるStudioを選んでいます。
今回はStudioに加えてAIもかなり活用していて、それにより短期間でこれだけこだわったWebサイトをつくることができました。単にツールを選んだというより、「どうすればこの条件の中で最大のアウトプットを出せるか」から逆算した結果がStudioだった、という感覚です。
取材・文/平田順子、写真提供/グッドパッチ
