《村田俊英の『事業をドライブさせるデザイナーの越境思考』|Vol.2》一人目デザイナーはまず「型」をつくる。カオスを構造化する思考

一人目デザイナーとしてスタートアップに参画した際、最初に行うべきは「デザイン」ではありません。「カオスを構造化し、再現性のある『型』へと昇華させること」にリソースを投下すべきです。
美しい画面を作る前に、組織の中に「デザインが機能する回路」を組み込むこと。この初期の構造設計こそが、後に事業をスケールさせるための最大のレバレッジになります。
プロフィール

村田俊英(むらた・としひで)
株式会社Resilire デザイナー
博報堂アイ・スタジオ、STORES, inc.などでWebデザインやUIデザインを経験。現在はスタートアップResilire(レジリア)にて、ブランディングからプロダクトまで全てのデザイン領域を統括。その実践知を活かし、デザインメンタープロを主宰。noteやポッドキャスト「のうきんデザイン ラジオ」でデザインをテーマに発信中。
入社3ヶ月でやるべきは、デザインではなく「構造の把握」
スタートアップの初期フェーズは、あらゆる情報が未整理で、プロダクトの方向性すら日単位で揺れ動く「カオスの真っ只中」です。ここで多くのデザイナーが陥る罠は、期待に応えようとして即座にFigmaを開き、画面を作り始めてしまうことです。
しかし、前提となる構造が曖昧なまま作られたデザインは、仕様変更のたびに崩壊する「砂上の楼閣」に過ぎません。 最初の3ヶ月で徹底すべきは、「事業と組織の解剖」です。
- ドメインの深掘り: BtoBような複雑な事業領域であれば、現場の泥臭い運用や、データの流れを完全に可視化する。
- ステークホルダーの脳内同期: 経営者が何を「勝ち」と定義しているのか、エンジニアが何に「負債」を感じているのかを、対話を通じて構造化する。
「なぜ、いまこのプロダクトが必要なのか」という問いに対して、誰よりも解像度を高く保つこと。デザインを始めるのは、組織図やビジネスモデル、データ構造といった「目に見えない設計図」が自分の中で描き切れてからで十分です。
「全部やる」から「仕組み化する」へのシフト
一人目デザイナーは、UI/UXからブランディング、時にはスライド作成やノベルティまで、あらゆる「意匠」を一身に背負います。 求められる領域が広い分、すべてを自らの手で完璧にこなそうとすると、デザイナー自身が組織のボトルネックになってしまいます。
これを回避する唯一の戦略は、「自分がいなくても回る仕組み(型)」を作ることです。

クリエイティブな仕事において、一見非効率に見える「仕組みづくり」への投資こそが、長期的には最も効率的なアウトプットを生みます。 「自分にしかできないこと」を極限まで削ぎ落とし、組織の「筋肉」としてデザインを定着させることが、一人目デザイナーの真の介在価値です。
組織における「デザインの解像度」を一人で引き上げる方法
デザインの定義すら曖昧な組織において、「わかってもらえない」と嘆くのは時間の無駄です。組織のデザインリテラシーを向上させる責任は、すべてデザイナー側にあります。
具体的には、「思考のオープンソース化」を徹底します。
- 意思決定の言語化: 「なんとなく良い」を排除し、なぜこの色なのか、なぜこの配置なのかをビジネス・ユーザー・造形の3軸で説明し続ける。
- 「失敗」の共有: 完璧な正解を出すことよりも、未完成のラフを晒してチームで議論するプロセスを習慣化する。
デザインを「魔法」や「センス」の箱から取り出し、誰にでも理解可能な「論理の積み重ね」として提示すること。 メンバーが「デザインとは、事業の成功確率を上げるための構造設計である」と正しく認識したとき、組織の解像度は劇的に向上します。
まとめ:狂っていると言われるほどの「一貫性」を
一人目デザイナーの仕事は、孤独で泥臭いものです。
プロダクトから採用資料、会社のバッジに至るまで、狂っていると思われるほどの一貫性を通し続けること。その執念が、やがてブランドという強固な「型」を作り上げます。
会社の看板というレバレッジがないスタートアップにおいて、デザインという「型」は、そのまま企業の信頼に直結します。 カオスを恐れず、むしろそれを構造化のチャンスと捉え、あなただけの価値を組織の中に創り上げてください。
文:村田俊英(Resilire)


