
「記事を増やすだけでは意味がない」小島芳樹(chot Inc.)× 門名達大(Web Designing)が語る、AI時代のWebメディアのあり方

AIがすぐに答えを教えてくれるようになり、Webサイトを開いて情報を調べる機会が減った–––––そう感じている人も多いのではないでしょうか。この変化は、情報を届けることを生業にしてきたWebメディアにとって、ビジネスモデルの根幹を揺さぶるものです。
では、AI時代にWebメディアはどうあるべきなのか。Web制作の現場からAI時代のWebメディアのあり方を模索してきた、ちょっと株式会社代表の小島芳樹さんを迎え、Web Designing編集長の門名達大が、自らのメディアの行く末も含めて率直に問い直します。
目次
「読まれること」の価値が崩れ始めた
門名達大(以下、門名) 『Web Designing』は昨年末に紙の定期刊行を終了し、現在はWebメディアを中心としたコンテンツ展開に移行しています。そこで今日は、AI時代にWebメディアはどうあるべきか、というテーマでお話を伺えればと思います。小島さんはWeb開発の現場から、今のWebメディアの状況をどのように見ていますか。
小島芳樹(以下、小島) まず感じているのは「ゼロクリック検索」という課題です。これまではGoogleで検索するとWebサイトにたどり着き、記事を読む。その流れの中で広告がクリックされたり、申し込みにつながったりして価値が生まれていました。


ところが今は、GoogleのAI Overview(検索結果の最上部に表示されるAIによる回答)がその場で答えを示してしまう。結果として、ユーザーがWebサイトまで訪れないケースが増えています。
少し前までは「Googleのビジネスモデルとの兼ね合いで、そこまでAI化は進まないのではないか」という見方もありました。でも実際にはかなり進んでいますよね。最近はGoogleのテレビCMでも、AI機能を前面に打ち出しています。
門名 WBC(WORLD BASEBALL CLASSIC)のCMのことですか? 「GoogleのAIモードを使えば、なんでも教えてくれる」といった内容でしたよね。
小島 そうです。以前からその動きはありましたが、Googleはいま、ユーザーの行動変容を促す広告を大きく展開しています。新しいパソコンやスマートフォンを買い替える必要はなく、今あるデバイスでGoogleを使うだけでいい。ハードルが非常に低いので、行動は変わりやすいわけです。
こうしてAIが直接情報を届けるようになると、Webサイトを訪れる機会は確実に減っていくでしょう。そうした状況の中で、Webサイトはあり方そのものを見直すタイミングに来ていると感じています。

AIの進化に1年間悩んで、急に視界が開けた
門名 これまで小島さんは『Web Designing』でさまざまな方と対談してきましたが、テーマの多くはAIに関するものでした。小島さんご自身、AIとの付き合い方にはどのような変化がありましたか。

小島 正直、この1年はずっと悩んでいました。生成AIによって制作コストが下がり、ものをつくること自体は楽になる。でも一方で、仕事がなくなるのではないかという不安もある。未来へのさまざまな憶測が絡み合って、どうすればいいのかわからない状態が続いていました。
ただ、ここ1〜2か月、年末くらいからですかね。急に視界が開けたような感覚があったんです。
門名 かなりポジティブになったんですね。
小島 すごくポジティブに捉えています。仕事はなくならないと思いますし、むしろ大きなビジネスチャンスだと感じています。ただし、ここで気持ちを切り替えられないと置いていかれてしまう。
僕らはクライアントのWebサイトをつくる仕事です。自分たちだけが答えを見つけても意味がありません。世の中がこう変わる、そしてこうすればうまくいく–––––そうしたことをクライアントに伝えていかなければ、最終的に仕事にはつながらないと思っています。
だから門名さんたちにもお話ししたいと思ったし、今のお客さんやこれからのお客さんにも伝えていきたい。最近はそういう気持ちになっています。
門名 小島さんがたどり着いた場所がどこなのか、とても興味があります。変化のポイントをぜひ教えてください。
イメージからファクトが重視される時代へ
小島 大きく変わるポイントは3つあると思っています。1つ目が「イメージからファクトへの変化」です。これは私だけの考えではなく、すでに多くの有識者が指摘していることでもあります。
これまで製品を宣伝する場合、細かい情報を伝えても記憶に残りにくいので、イメージ戦略が中心でした。有名なタレントを起用したり、かっこいい映像や美しいビジュアルで印象に残す。そうして思い出してもらうという方法です。
でもAIが登場したことで、人は具体的な条件を自然言語で投げかけられるようになりました。以前なら2〜3個のキーワードで検索し、上位の10件をいくつか見て判断していた。でも今は違います。
たとえば飲食店を探す場合でも、「二次会に使えて、人数はこれくらいで、PayPayが使える店」といった条件を、会話ベースでそのまま投げかけられるようになったわけです。

門名 つまり、イメージでお店を選ぶのではなく、自分に合った具体的な条件で探せるようになったということですね。そうなると、これまでイメージが担っていた部分を、企業がファクトとして積み上げていく必要がある。ブランディングの考え方も変わりそうですね。
小島 そうです。それによって予算配分も変わると思います。これまで仮にイメージ7割:ファクト3割だったとすると、今後はイメージ3割:ファクト7割と逆転する可能性もある。
しかもAIによって、インタビューや情報収集のコスト構造も変わってきています。以前は1000人のお客さんに対して、共通のイメージで訴求するしかなかった。でもこれからは、1000人に1000通りの届け方ができるようになる。
極端に言えば、ハワイ旅行のツアーパッケージを売る場合でも、1000人それぞれのニーズに合わせた情報を届けられるようになるわけです。
門名 一次情報を積み重ね、それをファクトとして整備すること自体が、企業の競争力になる時代ですね。
コンテンツは「ページからデータ」にシフトする
小島 2つ目が「コンテンツの形がページからデータになる」という変化です。
グルメ雑誌を例にすると、お店の名前や営業時間といった基本情報があり、メニューがあり、食べた感想があり、シェフの名前も載っている。そうした情報がページ単位でひとまとまりになっていると、あとから分解しにくいんですよね。
一方、最初からデータとして分解できる形で持っておけば、要約や可視化、別の視点でのレポート化など、再利用がしやすくなります。つまり、情報整理のルールそのものが変わるということです。
僕自身はメディア運営をしているわけではないので、実際のルール変更に関わったことはまだありませんが……。
門名 まさに『Web Designing』も同じ課題を抱えています。25年分の紙の資産があるのですが、管理しづらいし、うまく活かせていない。今では開けない古いレイアウトソフトのファイルもあって、資産と言いながらも実際には眠ったままになっています。

小島 レイアウトソフト中心でやってきた経緯があると、データとして扱いにくいですよね。ただ裏を返せば、これからのメディアはそこを意識して設計するかどうかで、数年後に大きな差がつくと思います。記事を増やすことよりも、情報をどうデータとして蓄積し、ビジネスに活かせる形にするか。その視点で編集現場を見直す必要があります。
門名 本当にその通りだと思います。Webメディアも、もう単に記事を増やせばいいという段階ではない。日々の記事づくりの中で、どう情報を蓄積していくか。そこを考えていかなければ将来性はないと感じています。
小島 これまでは特にやる理由がなかったんですよね。でも今は、やる理由が明確にある。DX(デジタルトランスフォーメーション)というと、「取り組まなければならないから渋々やる」という空気になりがちですが、僕は「顧客に何を届けたいか」から考えるのがいいと思っています。そこを面白がって取り組まないと、モチベーションも上がりませんから。
重要なのは、AIが読む前提でWebを設計すること
小島 3つ目が「体験の前倒し」と、それを支える設計の転換です。Webサイトの閲覧者は、もはや人間だけではありません。GoogleのAI OverviewやChatGPTが、Webサイトの情報を最初に読む時代になってきました。
そうなると、従来の設計のままではAIに情報が読み取られず、ユーザーに届かないということが起きてきます。
門名 AIに読ませるための設計と、人が読む読み物として成立させること。そのバランスはどう考えていますか。
小島 詳細情報を持つ下層ページは、情報を思い切り盛り込んでいいのではないかと思っています。人がすべて読む前提でなくてもいい。それを読むのはAIですから。
そして実際にWebサイトを訪れた人には、サイト内のAIアシスタントが寄り添って案内する。GoogleやChatGPTは情報を見つけてくることはできても、最終的なアクション–––––たとえばメーカーへの資料請求や商談予約–––––までは完結できません。だから人はWebサイトに来ることになる。
そこをAIアシスタントがサポートする形を、私は「エージェントファースト」のWebサイトとして提案していきたいと考えています。
門名 資料請求する前に概算見積もりが出てきたり、自分専用にパーソナライズされた情報が提示されたりする、ということですか。体験の前倒しですね。
小島 そうです。そのためにも、「資料請求しないと見られない」ような情報は、できるだけ減らしたほうがいいと思います。ダウンロードしないと見られない情報はAIが読み取れませんから。ChatGPTも答えられないし、GoogleのAI Overviewにも出てこない。
出せる情報は、どんどん公開したほうがいいんです。逆に言えば、先にデータを蓄積してAIに届けてもらえる状態をつくった企業やメディアが、確実に強くなっていく。競合が多い業界では、後から追いかけるのがどんどん難しくなります。

メディアに関わる人が、今すぐ問い直すべきこと
門名 編集や制作の現場でAIを使うと、どうしても効率化の話になりがちです。AIにキャプションを生成してもらうとか、文章を整えてもらうとか。でも今日のお話を聞いていて、制作工程よりも、データの持ち方や構造そのものを変えることが本質なのだと改めて気づきました。そうした転換を担うのは、どんな人材になると思いますか。
小島 今ある業務を読み取り、それをエージェント化し、構造化していく。その交通整理ができる人材が必要になると思います。大きな事業や組織ほど、その役割は重要になります。
それがデザイナーなのか、エンジニアなのか、あるいはコンサルタントやストラテジストのような役割なのか。僕の会社でも、それを誰が担うのかは今も模索しているところです。
ただ確実に言えるのは、効率化の文脈だけでAIを語っていると、何をつくるべきかが見えてこないということです。顧客にどんな体験を届けたいのか。そこから逆算して初めて、やるべきことが見えてくる。僕がこの1年でようやく気づいたのは、そこでした。
門名 では最後に、Webメディアに関わる人が明日からできる最初の一手を教えてください。
小島 そうですね……まずは、GoogleのCMを見ることから始めるといいのではないでしょうか(笑)。人々の行動変容という視点で捉えて、「自分たちのWebサイトだったらどうなるのか」を想像してみる。どう検索されて、そこでどんな価値を提供できるのか。そう考えるきっかけになると思います。
門名 何かをすれば明日からすぐ変わる、というものではないかもしれませんが、今は自分たちのあり方を問い直す重要なタイミングなのですね。今日は示唆に富んだお話をありがとうございました。

文:小平淳一 写真:黒田彰
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