ブルーパドル佐藤ねじが語る、Webリニューアルの裏側。“ゴール史上主義”で「あえてわかりやすく伝える」戦略設計の思想

卒乳などの隠れた節目を祝うサービス「隠れ節目祝い」や、和歌山の動物園「アドベンチャーワールド」のリブランディングなど、話題性の高い企画を多数手がけてきたプランナー/クリエイティブディレクターの佐藤ねじさん。

2016年に起業したブルーパドルは、さまざまなクリエイターが参加するギルド型の会社で、Web制作にとどまらない多様なプロジェクトを手がけています。

そんなブルーパドルが、Webサイトリニューアルを行いました。しかしその内容は、これまでのイメージとは少し異なり、話題性や個性的な表現よりも、会社の特徴をわかりやすく伝えることを重視したものでした。なぜこのようなアウトプットになったのでしょうか。ご本人に話をうかがいました。

目次

戦略を見直し、自社をブランディングする

––––ブルーパドルの設立から約10年の節目となりますが、どのようなきっかけでWebサイトのリニューアルをされたのでしょうか。

佐藤ねじ(以下、佐藤) Webサイトのリニューアルが目的だったわけではなく、戦略を見直した結果としてWebサイトを刷新しました。2026年7月7日で10周年を迎えますが、たまたま節目のタイミングと重なった形です。

––––戦略を見直した理由は何だったのでしょうか。

佐藤 理由は大きく2つあります。1つは、AIの登場によって時代が大きく変わるタイミングだったこと。もう1つは、自分自身も43歳になり、今後の仕事のつくり方を改めて考える時期だったことです。

戦略の見直しはこれまでも定期的に行ってきましたが、今回は1カ月ほどかけてじっくり取り組みました。

僕は前職の面白法人カヤック時代から、バズる強いコンテンツを多く手がけてきました。そして、課題解決のための戦略やマーケティングの知見を積み重ねる中で、「話題にして売る」から「認知を上げて売る」仕事へとシフトしてきました。

ただ、その一方で、自社の認知を高める取り組みは十分にできていなかったと気づいたんです。

––––自社を客観視するのは難しそうですが、戦略の見直しはどのように行ったのでしょうか。

佐藤 客観視しきれていない部分はあると思いますが、これまでクライアントに提供してきた方法を、自分にも当てはめて考えました。ブルーパドルは何をする会社なのか、そして今後何をしたくて、何をしないのかといった点をできるだけバイアスを外して整理していったのです。

これまでは「話題になるコンテンツやおもしろいものをつくる会社」というイメージを前面に出していましたし、それは今後も変わりません。ただ、顧客である企業の視点から突き詰めていくと、本来求められていたのは課題解決やブランディング、認知や好感度の向上といった部分でした。その価値にきちんと向き合い、今まで行ってきたことを改めて定義すべきだと考えたのです。

––––確かに「おもしろい企画を手がける方」というイメージが強かったです。

佐藤 Web制作が入口になるケースが多いのですが、実際にはブランド成長など、もう少し上のレイヤーにも関わってきたという自負があります。しかし、「ブランドの成長にコミットする」と言い切ってしまうと、それは大手が担う領域であり、現在のうちの規模だと少し言い過ぎになってしまいます。

僕の得意領域は、「ブランド成長や企業の戦略を理解した上で強いHow(どう実現するか)を設計できること」と「それをコンテンツとしてアウトプットできる」ことだと思います。今回の戦略見直しを通じて、自社が提供できる価値をあらためて認識できました。

––––戦略見直しの一環として、CIも刷新されたのですね。

佐藤 これまで英語表記だった「Blue Puddle」のロゴを、カタカナ表記に変更しました。よりわかりやすくする狙いもありますが、常にバイアスを外して考えることをテーマにしてきた中で、「ロゴは英語のほうがかっこいい」という考え自体も、一種のバイアスではないかと感じたからです。

さらにCI活用のアイディアとして、あらゆるものをCIツールとして展開できる「SI(ステッカーアイデンティティ)」も制作しました。

複数のCIをステッカーにし、さまざまなものに貼ってCIツールとして活用できます

––––ブランドエクイティもステッカー化していますが、これはどういった狙いですか。

佐藤 自社のブランディングを進めるうえで、ブランドエクイティのような目に見えない価値をしっかりと認識し、記憶に刻むことが重要だと考えています。

ステッカーという形にすることで、視覚的な印象に残りやすくなり、日常の中でも自然と意識されるようになるのではないかと考えました。ブランドエクイティを訴求する新たな手法となる取り組みだと思っています。

ブランドエクイティのステッカー

訪問者のニーズに応じた濃度で情報を見せる設計

––––Webサイトは、そうしたベネフィットやブランドエクイティを伝えるためにリニューアルされたのですか。

佐藤 Webサイトの中のロゴや、さらには僕がSNSなどで発信している内容も含めて、すべてがブランディングの一環であり、ブランドエクイティを具現化するためのものだと考えています。

ノートPCで見たときのファーストビューは、ほぼ文字の画面になっています

––––一般的にファーストビューにはメインビジュアルを置くことが多いですが、ブルーパドルのPCサイトでは「ブランドを強化し、心に刺さるコンテンツをつくる専門店」というコピーがメインとなっていました。ベネフィットの訴求に重きを置かれたのですか。

佐藤 コピーは、自社のベネフィット(What to say)をどう伝えるか(How to Say)を考えて設計したものです。何をする会社なのかを明記したほうがいいと考え、「ブルーパドルは『企画とデザイン』の会社です。戦略・企画・デザイン・実装・PRまで全てやります」といった紹介文も盛り込みました。

Webサイトをリニューアルしたというと、賑やかなアニメーションや凝ったインタラクションを想像されるかもしれません。しかし、自社のターゲットを考えると、そうした表現は必ずしも適切ではありませんでした。

––––スマホやタブレットの表示では上部にメインビジュアルがありますが、PCサイトとは想定ユーザーが異なるのでしょうか。

佐藤 明確に分けて設計しました。Webサイトを訪れるのは、まだ当社と仕事をしたことがない、依頼先を探している企業担当者の方が多いと考えています。業務の一環として閲覧されるため、PCでの利用が中心になるでしょう。一方スマホやタブレットは、移動中などの閲覧になると想定し、PCより情報量を抑えています。

スマホサイトのファーストビュー

––––スマホサイトはハンバーガーメニューもありますが、どこをスワイプしても開くメニューが使いやすいですね。

佐藤 アプリではよく見られるUIですが、これをブラウザで実装するのはなかなか難易度が高いんです。試行錯誤してなんとか実現できました。

スマホサイトでは、画面上のどこをスワイプしてもメニューが展開します

––––PCサイトも含め、何ができる会社なのかを端的にわかりやすく伝える一方で、下層ページの情報量は充実していますね。

佐藤 どんな会社か深く知りたい方もいると思い、テキスト量を増やしました。ただ、あまり多いと読まれにくくなってしまうので、アコーディオンで展開するなど、読みやすさにも配慮しています。

文字の表示量を抑えるため、アコーディオンで展開

佐藤 自社をブランディングする際、ベネフィットだけでなくRTB(ベネフィットを裏づける根拠)も明確にする必要があります。AI的な発想で戦略見直し時に書き出した長文のRTBをプロンプトのように捉え、どう端的に出力するか考えました。現時点ではまだAIに任せきれない部分もあり、人力で行っているのですが(笑)。

––––ポートフォリオはRTBとなり得る要素です。PCでは一覧の画像にマウスオーバーすると概要が表示され、資料形式での表示もできます。また、詳細ページでは課題や成果なども明記されていました。これだけ多様な見せ方が用意されているのは珍しいですね。

PCサイトでは、ポートフォリオの一覧表示にマウスオーバーすると概要が表示されます
資料形式は、ミッションやアイディアなど一覧表示よりもやや多い情報量になっています
ポートフォリオの詳細ページでは、課題やアイディア、成果をはじめ詳細な情報が記載されています

佐藤 閲覧する人の情報ニーズに応じて、適切な濃度で内容を確認できる設計にしました。当社は代理店を介さず企業と直接取引するか、PR会社と組んでプロジェクトを進めるケースが多く、多くの案件で企画の根幹から携わっています。

そのため、検討中の企業が最も知りたいであろう「どのような課題を、どのように解決し、どのような成果につながったのか」という点を中心に、詳細に整理しました。

また、Webサイトの訪問者は最新情報を目的としているわけではなく、たいてい上部に表示されたコンテンツしか見ません。そのため、新着順ではなく、自社の強みや特徴が伝わりやすい事例を優先して表示しています。なお、この順序は管理画面上で柔軟に調整できるようにしています。

こうした見せ方についても、戦略を明確に定義したことで適切に判断できました。

逆転の発想でアイディアから仕事を生み出す

––––「無料ブレスト」というコンテンツはとてもねじさんらしい企画だと思いました。どのような狙いで実施しているのでしょうか。

佐藤ねじさんに1時間無料で課題解決の相談ができる「無料ブレスト

佐藤 戦略を定義していく中で、初めて依頼する企業は「本当にこの会社でいいのか」という不安を持っていることに気づきました。そこで、2020年から行っていた無料ブレストを、今回のリニューアルを機により目立つ位置に配置しました。1時間しっかり話すことで相性も見えてくるので、とても有効な方法だと感じています。

その場で企画を出せる体力はあるので、無料ブレストの中でもアイディアをどんどん出します。さまざまな業界の課題を聞けたり、普段とは異なるテーマをもらえたりするので、自分にとっても学びが多く楽しい取り組みですね。

場合によっては、「そういう課題なら、うちよりもこちらの会社に依頼したほうがいいですよ」と、他社をおすすめすることもあります。

ねじさんのアイディアメソッド

––––それでは自社の利益につながらないようにも思えますが、お互いに相性のよい企業と仕事をすることを重視されているからでしょうか。

佐藤 はい。僕は仕事も常に“ゴール史上主義”で考えていますが、自社サイトのゴールは、自分のベネフィットを伝えて相性のよい企業とマッチングすることだと捉えています。クリエイティブ業界の会社は全般的に認知率が低いので、企業と精度の高いマッチングをするのが難しいという課題があり、それを解決したいという思いもありました。

––––新規の問い合わせや無料ブレストの申し込みが増えるといった効果はありましたか。

佐藤 対外的に告知をしたのは2026年4月でしたが、実は前年の11月にリニューアルを行っていました。SNSなどで特に告知をしていなかったにもかかわらず、その頃から問い合わせが増え始めたので、以前よりもWebサイト上からのユーザー離脱が減ったのかもしれません。

––––戦略に基づいたWebサイト設計の重要性がよくわかるエピソードですね。戦略が明確になったこれからは、どのような仕事をしていきたいですか。

佐藤 今後は「レンタル企画書」という自社サービスのリリースを予定しています。「こうしたらおもしろいだろう」と思うアイディアが数千個あるので、それらを公開し、課題がマッチする企業と出会える仕組みです。

これまでは依頼を受けて課題解決のためのアイディアを出してきましたが、その逆のアプローチで、アイディアを起点に仕事を生み出し、結果的に企業の課題解決につなげることもできるのではないかと考えました。

––––先ほどAIの登場も戦略見直しの一因だと言われていましたが、AI活用についてはいかがですか。

佐藤 AIによって、企業の中の人もつくれるようになったことは、とてもよい変化だと思っています。たとえば、最初だけ僕がブランド成長の起爆剤となる施策をつくり、そのノウハウとAIの使い方をセットで共有することで、企業が自走できる状態をつくることが可能になりました。

企業にとって、自分たちで持続的に回せる状態をつくることは、最大の課題解決につながると考えています。

また、自身でもAIによってマンガやアプリ、ゲームなどが簡単につくれるようになり、表現の幅や可能性が広がったと感じています。簡単につくれることで、従来はわざわざ手間暇かけてつくるほどでもなかったアイディアを簡単に形できるようになることに、特に価値を感じています。

たとえば、プレスリリースをブロック崩し形式でつくるといったように、これまでとは異なる切り口から新たな発見が生まれる可能性もあります。今後もAIを活用しながらアウトプットを増やし、そこで得た知見を企業や自社プロジェクトに還元していきたいです。

取材・文:平田順子

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