Figmaを起点に「組織」強化へ。コニカミノルタが挑むAI時代のデザイン基盤づくり

アメリカ・サンフランシスコで開催されたFigmaの年次カンファレンス「Figma Config 2026」(2026年6月23日~25日)には、日本からも多くの企業関係者が参加しました。

本記事では、参加企業の1社であるコニカミノルタ株式会社でデジタルプロダクトデザインに従事する池田万寿巳さんにインタビューを実施。同社内のFigma活用の状況やAI時代を見据えたFigmaとの向き合い方、Config 2026の印象について、それぞれ話をうかがいました。

目次

デザインツールから「協業」のための基盤へ──コニカミノルタが捉えるFigmaの価値

──はじめに、池田さんの自己紹介をお願いいたします。「デザインセンターに所属」と聞いています。

池田万寿巳(以下、池田) コニカミノルタのデザインセンターは、製品やサービスのデザインをはじめ、ブランドや体験価値、デジタルメディア戦略までを含めて設計し、価値創出に関与する組織です。

デザインセンターは、全社グローバルサイトの品質管理や運用設計、デジタルメディア戦略をデザインする「デジタルコミュニケーションデザイン部」、コーポレートブランド戦略に沿ったガバナンスとコミュニケーションをデザインする「ブランドエクスペリエンスデザイン部」、各事業と連携して製品やサービスをデザインする「プロダクトエクスペリエンスデザイン部」の3つの部で構成されています。私が所属するのは、プロダクトエクスペリエンスデザイン部内のデザインエンジニアリンググループです。プロダクトエクスペリエンスデザイン部にはハードウェアとソフトウェアのそれぞれの専門性を持ったメンバーがいます。

──御社では、Figmaをどのように活用していますか?

池田 以前から社内共通のデザインツールはありましたが、Figmaを導入してより高度なワークフローを実現したいと考えていました。一部のデザイナーだけが使えるようになっても、つくるデータに差が生まれて品質がバラバラになってしまうので、自分たちで勉強会を行いながら、全員が使えるようにしていきました。

実際にFigmaを使い始めると、単なるデザインツールとしてデザイナーが使うだけでは不十分だと感じるようになり、今はFigmaの本質にも通じる「全社的な協業を支えるプラットフォーム」と捉え直し、全社への展開を推進しています。

──なるほど。たとえば、どのように使っているのでしょうか?

池田 開発プロセスで関わるさまざまな職能の関係者が、共通の情報を共有できる場として活用しています。デザインセンターのメンバーは同じ職場にいますが、実際のプロジェクトの関係者はさまざまな拠点で働いているので、どうしても1つひとつのコミュニケーションに時間がかかっていました。Figmaのキャンバス上に具体的なイメージを共有しながら明示できるので、複数の部門を横断したプロジェクトで関係者間のコミュニケーションがしやすくなっています。

──デザイナー以外だと、どのような方が利用していますか?

池田 実務で多いのがエンジニアです。開発者向け機能の「Devモード」を活用しながら、デザイナーと一緒に仕様を詰めて、そのまま実装へとつなげています。

また上流工程では、プロダクトオーナーやプロダクトマネージャーと一緒になって議論ができるオンラインホワイトボードツール「FigJam」を活用しています。このように、企画の初期段階からFigmaを本格的に利用しているケースも少なくありません。

──つまり、Figmaはデザイン業務そのもの以上に、関係者間の認識を共有していくのに役立っている?

池田 当社のプロジェクトは、ステークホルダー(関係者)が多く、企画・デザイン・開発に加え、その先には販売部門もあります。さらに、その販売部門は本社だけでなく、グローバルの各地域の販売会社で構成されています。

つまり、それぞれに異なる文化や事情を抱えた、多種多様な関係者と認識を揃えながら共通のプロジェクトを進める必要があるので、「共通の基盤」として機能するFigmaの役割は大きいと考えています。

Figma Config 2026開催中にインタビューに応じる池田万寿巳さん(コニカミノルタ株式会社)
Figma Config 2026開催中にインタビューに応じる池田万寿巳さん(コニカミノルタ株式会社)

試行錯誤“中”を共有する──Figmaが変えた協業のカタチ

──Figmaの導入によって、社内にどのような変化がありましたか?

池田 以前までは、製品やサービス、ブランドの新たな仕様のためにディスカッションを行っても、全体に共有するとなると、結局は一部のステークホルダー間で試行錯誤を経た“後”の状態を後出しで共有するような状況でした。

Figmaを導入してからは、試行錯誤“中”のキャンバスそのものを公開できるので、試行錯誤の過程を共有しながら、さまざまなステークホルダーが自由に意見を言い合える環境が整いました。

──こうした環境が整う以前だと、どういう点に問題を感じていたのですか。

池田 これまでのワークフロー全体を振り返ると、役割そのものがそうでしたし、役割にあわせたツールまでもが“サイロ化”(部門ごとに業務および情報が分断された状態)していましたね。

たとえば、プロダクトオーナーからの要件定義で使われているツールとは別に、開発からの仕様には違うツールを使っていたり、さらにはもっと異なるツールを用いる担当者もいたり……。まさに、ツールが乱立する分、コミュニケーションを分断してしまう形になっていました。

デザインと開発の現場も同様です。双方の工程はつながっているはずなのに、異なるツールを利用しているために、ウォーターフォール型の直線的な進め方しかできなくなっていました。

──Figmaという共通の場があることで分断が解消された、ということでしょうか?

池田 はい。Figmaを軸にして、関係者間のコミュニケーションの摩擦を減らす取り組みが生まれています。デザイナーがデザインを作成したものにプロダクトマネージャーが仕様を追記するなど、同じキャンバスを使って作業が並走されていたり、デザイナーがエンジニアと連携し実装に必要な情報をデータ化することで実装品質が高まっていたりと、生産性だけでなくアウトプットの品質も高まりました。

Figmaで実現! 手戻りの少ない開発ワークフロー

──具体的に、実務ではどう役立っていますか?

池田 これまでは検証用のMVP(Minimum Viable Product)を仕上げる段階で、どうしても機能を盛り込み過ぎてしまう傾向がありました。Figmaを導入したことで、従来よりも早い段階から、検討中のプロトタイプを営業やカスタマーサポートをはじめとする関係者と共有し、スムーズに意見交換できるようになりました。そのため、本当に必要な機能を見極めながら開発を進められるようになっています。結果として、手戻りが減り、開発のリードタイムの短縮や意思決定のスピード向上にもつながっています。

──ということは、従来のワークフローの常識が変わってきた?

池田 おっしゃる通りです。早い段階で各関係者とどのようなコミュニケーションを取っていくのか自体を設計するようになりました。

──社内からのフィードバックでは、どのような反応があったでしょうか?

池田 製造業である私たちとしては、開発過程のドキュメントも厳格に管理したいというニーズがあります。たとえば、Figmaで作成した画面とMarkdown形式の設計ドキュメントを連携できる仕組みを構築して活用しています。さらに、その情報を活用して、AIによるコード実装やテストの効率化も検討しています。まだ試行錯誤の段階ではありますが、上流工程と実装プロセスの双方で進化の手応えを感じています。

──協業しやすくなったことで、業務間の隔たりにも変化は出てきましたか?

池田 組織構造的に業務間の縦割りはどうしても残ってしまう部分はあります。ですが、これまではデザイナーがここまでやって、ここから先はエンジニアが受け継いで……となったとき、受け継いでくれた後の実装効率などを意識した設計まではできていないことが多かったと思います。今では、自分がどんなデータを出すとその後の実装が効率的なのかなど、自分の役割に関連する他の役割にも目が向くようになり、各プロジェクト内で良い変化が起きています。

池田万寿巳さん(コニカミノルタ株式会社)
池田万寿巳さん(コニカミノルタ株式会社)

AI連携の未来に向けて“使いこなす”ための課題を整理

──これからの課題について、お聞かせください。

池田 主に3つの課題があります。

1つ目は先ほども触れたとおり、Figmaのキャンバス上のデザインを、いかにコードと連携してAIベースの開発につなげていくか。Figmaで検討を重ねてきたコンテキストを、いかに実装プロセスへと引き渡せるかを仕組み化したいと思っています。

その点でもConfig 2026で発表された6つの新機能は、いずれも興奮しながら聴いていました。そのなかでもデザインレイヤーからコードレイヤーに変換できる「Code layer」は、私たちの課題意識にも関わってくる機能だと考えています。

2つ目が、デザインと実装をつなぐコンテキストをどうつくっていくかですね。デザインシステムに基づいて、しっかりとデザインとエンジニアリングとが連携できるようにしたい。そのためには、新たなスキルセットが必要になってくるとも考えています。

──最後の3つ目は?

池田 実務上の使いこなしやハンドリングの問題です。Figmaでは、生成AIを活用してUIのたたき台やプロトタイプを作成できる「Make」などの機能が提供されています。誰もがプロンプトベースでプロトタイプがつくれるようになったことは歓迎すべき変化だと思います。一方で、デザインの知見や経験が十分でない人でも簡単に生成できるようになったからこそ、AIが生み出したものを適切に評価し、運用していけるのかという課題は残っています。

そうした課題があるからこそ、デザインセンターとしては、UI/UXに関する社内勉強会や実践事例の共有会などを通じて、全社の理解とスキルの向上を後押ししていきたいと思っています。

取材・文:Web Designing編集部

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