Web制作者の学びとオンラインコミュニティ活用

仕事の疑問を相談したり、新しいスキルを身につけるきっかけとして「オンラインコミュニティ」に興味を持っている人は多いと思います。しかし、中には「本当に自分の将来に活かせる場所なのかな…」と、不安を抱く人もいるでしょう。具体的にはどんなメリットを生み出せる場所なのか、「クリエイターズ・シナジーカフェ」運営スタッフに聞いてみました。

クリエイターズ・シナジーカフェ
Web業界に関わるすべての人を対象にしたオンラインコミュニティ。参加者限定のウェビナーやイベントを定期的に開催。 https://creators-synergy-cafe.com/

マリコさんクリエイターズ・シナジーカフェ共同運営者/UX/UIデザイナー、プロダクトマネージャー
せきゆおうさんクリエイターズ・シナジーカフェ共同運営者/Webクリエイター

本当に正しい情報を判断できる場を目指して

「クリエイターズ・シナジーカフェ(以下、シナカフェ)」は、Web業界に携わる人を対象にしたオンラインコミュニティです。参加者限定のウェビナーやイベントを開催したり、メンバー同士が互いに意見交換できる場を提供したりしています。本記事では、シナカフェ運営者のおふたりにお話を伺い、オンラインコミュニティを活用することでどのようなメリットを生み出せるのか、どのように向き合うのがいいのかを探っていきます。

最初に、このコミュニティの内容についてご紹介しましょう。

シナカフェができたのは2020年の夏。コロナウイルスの蔓延によって人々の働き方が大きく変わり始め、異業種への転職ニーズも増えてきました。そんな世間の変化に乗じて、安易な謳い文句で会員を募るオンラインサロンが流行り始めたそうです。

「簡単にエンジニアになれるとか、すぐに仕事になるとか景気のいいことを並べていても、実情はまったく違っていたり。仕事をもらえたとしても、中間搾取がひどかったり。そんなサロンが 横行していました」と、シナカフェ運営者のマリコさんは当時を振り返ります。

そんな中、同じくシナカフェ運営者のせきゆおうさんが「主に初学者の人が本当に正しい情報を手に入れられる場所をつくりたい」という思いをTwitterで投げかけ、それに賛同する人が集まって立ち上げに至ったそうです。

シナカフェでは、オンラインスクールや情報系サロンのような「トップダウン式で教える」スタイルではなく、初学者を中心にクリエイター同士が話し合い、お互いのスキルを高めたり問題解決につなげられる「共創型コミュニティ」をコンセプトにしています。

現在、直接的に運営に関わっているのはマリコさんとせきゆおうさんのふたりのみ。noteの記事投稿などを他の人に手伝ってもらうこともあるようですが、勉強会(ウェビナー)などの企画は基本的にふたりで考えているそうです。ふたりだけでコミュニティを運営していくのは大変なことではないでしょうか。

「勉強会の企画は、これまではTwitterを見たりして関心の高そうなテーマを探していました。大変といえば大変でしたが、今はコミュニティの方向性が徐々に定まってきて、テーマも考えやすくなっています」(マリコさん)

まるでバーチャルなコワーキングスペース

シナカフェでは「oVice」や「Slack」といったツールを使って交流を行っています。oViceは、バーチャルなオフィス空間を提供するサービスです。画面内をアバターが動き回り、近くの人と話すことができます。アバター同士が近づくほど声が大きく、離れるほど声が小さくなるという仕様になっているため、まるで現実のコワーキングスペースのような感覚で集まり、交流ができるようになっているのです。oVice上にYouTubeの画面を貼ることもできるので、そこでメンバー向けの勉強会を配信しています。せきゆおうさんは、突発的にバナー制作のストリーミング配信を行ったりすることもあるそうです。

また、Slackでは、話題にあわせて複数の「チャンネル」をつくり、メンバー同士が交流を行っています。運営からの告知専用のチャンネルや仕事募集のチャンネルのほか、メンバーのリクエストで「部活動」のチャンネルを立ち上げることもあるそうです。

「例えば、イラスト部では『絵しりとり』をしたり、カレンダー制作プロジェクトが立ち上がったり。ほかにはWeb制作に関係ない『美容部』なんていうのもあります」(マリコ)

コミュニティの立ち上げから2年が過ぎ、今は運営のふたりだけでなく参加者同士が自立的に活動する部分も増えてきたのだそうです。Slackは平日を中心に、昼夜を問わずさまざまな投稿が飛び交っていると言います。

過去の勉強会の動画やスライドは、Google Driveにストックされています。毎週月曜に勉強会を開催しており、これまでのストックはかなりの量に上るそう。「コミュニティの主目的は交流なので、学習コンテンツの量で評価されるのには違和感があるのですが…」(マリコさん)とはいうものの、参加者にとって大きな魅力であることは間違いないでしょう。

また、今後はほかのオンラインサロンやオンラインスクールとの提携や、Slackに変わる独自コミュニケーションツールの提供、オフラインイベントの開催なども計画しており、さらに充実したコミュニティになりそうです。

シナカフェのnoteアカウントでは、1カ月ごとの活動内容がまとめられています。参加者以外も見ることができるので、興味のある人はチェックしてみてはいかがでしょうか。

シナカフェのプラットフォーム

シナカフェでは、さまざまなツールを使って参加者同士の交流を支えています。さらに2023年からは、これまで以上にサービスが拡充する予定とのこと。最新情報はWebサイトをチェックしましょう。

人によって違っていて正解がない業界

ここまででお伝えしたような状況もあり、卒業後の進路に関しても10年前と今では大きく変化しています。具体的には、以前は典型的なWeb制作会社に行きたい学生が多い傾向にあったのですが、今はそういうわけでもありません。例えば、メディア事業やインターネット広告事業などを手掛ける会社のクリエイターとして携わりたいという子や、メガベンチャーのIT部門、もっというと一般企業の情報システム課のような、いろいろな業務がある中でのWeb関連部門を目指すような子も増えていて、進路の選択肢を広く見ている印象があります。それも、Webというもの自体が当たり前のものになっているからに尽きると思います。

また、Web制作業界では働き方改革などが進み、他のクリエイティブなジャンルと比較すると働きやすそうというイメージを学生も持っているようです。その面でも今の若い世代にとって、Web制作の仕事はクリエイティブ業界の仕事というより、クリエイティブ領域に近い一般企業の仕事という認識を持っているのかもしれません。

もう一つ大きな変化として、3DCGや映像、アニメーションなど他のクリエイティブを学んでいる学生たちにもWebの知識が浸透しているという変化も挙げられます。これは一学部一学科である本大学の特徴も影響しているかもしれませんが、Webの知識があれば、自分の映像作品を発信するための一つのツールとしても活用できるし、もしかしたら副業にできるかもしれないという感覚を持った学生が増えているのではないかと感じています。

私は大学だけでなく、社会人を経験した20代後半~30代前半の方を対象としたスクールでも講座を受け持っていますが、副業に関しては特にスクールの方が顕著です。10年ほど前までは、きっちりとキャリアチェンジしてWeb業界に進みたいという受講生がほとんどでしたが、今は副業にするために学びたいという方も増えている印象です。Web制作の仕事が副業でもできるようになっていることには寂しさを感じる部分もありますが、良くも悪くも自分の身の回りにある当たり前のツールなので、自分の本業の幅を広げる意味でも、学びたいと思うのは自然なことなのかもしれません。

いろいろな情報を鵜呑みにせず、コミュニティで確認

Web制作の現場は、会社や人によってやり方が違っていて、どれが正解とは言い切れません。オンラインコミュニティでさまざまな人と会話することで別の現場の流儀を知ることができ、一つの物事でもいろいろな角度から考えられるようになります。

クリエイターには「つくる以外」のスキルが必要

若い世代の間で、Web制作の仕事が「憧れ」から「当たり前」になりつつあることに加え、今では、ローコードやノーコード系の制作ツールが浸透していることもあり、大学の入学検討者からは、制作会社のデザイナーの価値はどこにあるのか、勉強する意味はあるのかという質問を投げかけられることもあります。

確かに今後、ローコードやノーコードがこれまで以上に広がっていくのは避けられないでしょう。今までコーダーが書いていた部分をローコードやノーコードに置き換える案件も出てくるとは思います。一方で、Web制作の仕事と一言でいっても、UIデザイナーからマークアップエンジニア、フロントエンドエンジニアまで幅広い役割があるので、あくまでその中の一部が置き換わるイメージだと私自身は捉えています。もちろん、ローコードやノーコードが担える部分を目指していた人からすると仕事を奪われる可能性はありますが、Webサイトをつくる工程全体を考えると、心地よいインターフェイスデザインをつくるにはどうすればいいのかといった部分などは勉強しないとできません。それは、実際に入学してWebの知識を学んだ学生たちならわかっていると思います。ですので今の若い世代も、それらの新技術はあくまで業務を効率化するための一つの武器として使っていくという感覚を持っているのではないでしょうか。

ただし、Web業界の仕事は周りの環境に大きく左右されるものです。ローコードやノーコードが一般化してくると、ユーザーの意識も働き方も変わってくるので、そこは私としても注意深く見ていきたいと思っています。それはAIについても言えることです。今であれば例えばイラストを描く部分がAIに置き換わるだけかもしれませんが、複雑なWeb制作もAI自身が考えられるようになった時には、上手に活用していける側になっていく必要があるとは思います。

一方で、今の若者たちは新しく出てくる技術に対して、脅威に感じるというよりは、おもしろいと捉えられる世代でもあります。新しい技術に対する抵抗感が薄く順応性が早い。逆に言えば、これまで使われていた技術やデザインなどに関して執着もない。ドライに使えるものは使っていこうという感覚も、今の若い世代ならではの価値観といえるでしょう。

これからのWebクリエイターに求められるもの

必ずしもここに挙げた3つをすべて身につける必要はありません。「自分がどこに身を置きたいかを考えて、必要な知識を身につけるのでもいい」とマリコさんは補足します。しかし、そもそも自分が何をやりたいかがわからない人も多いそうです。

Text:小平淳一
Web Designing 2023年2月号(2022年12月16日発売)掲載記事を転載

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