「ストーリー」でターゲットを動機づけする

マーケティングにとどまらず、企業の経営戦略のキーワードとして今、「ストーリー(物語)戦略」が注目されている。今回は行動視点でストーリーの活用を考察する。
illustration:石川マサル(mi e ru)

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目次

どうして11月1日は、「紅茶の日」になったのか?

新しい習慣を定着させたいなら、ある一日を記念日にしておくと「脳内フレーム」に記憶されやすく効果がある。以前にもこのことは解説してきた(01)。例えば、11月1日は「紅茶の日」として紅茶関連のプロモーションが各所で展開される。紅茶はスイーツとの相性がいいので、10月31日のハロウィンと重ねて、「ハロウィンパーティを盛り上げるアレンジティー」を提案する企業もある。日本ではコーヒーの伸びに比べると紅茶の需要はまだまだ潜在的だ。こうした提案を地道に継続していくことは重要だ。

01 「記念日マーケティング」の有効性
記念日マーケティングは、「周期的に巡ってくる」存在は脳の記憶のフレームに定着しやすく、生活習慣として受容されやすい脳の特性を活用したもの。ただし、直感的に理由が解読できない記念日は、生活サイクル内での定着が難しい。11月11日は「串カツの日」など、わかりやすさが必要

日本紅茶協会のWebサイトには、「紅茶の日」の由来が記載されている。江戸時代後期に難破・漂流してロシアに辿りついた船頭、大黒屋光太夫が1791年の11月に女帝エカテリーナ二世に謁見、その後茶会に招かれ、日本人で初めて紅茶を飲んだことを記念した、という。大黒屋光太夫の物語は小説や映画にもなっているので、ご存じの方もいると思うが、その壮大な歴史ロマンと重ね合わせて聞くことで、「紅茶の日」のストーリーが胸に迫ってこないだろうか。こうした記憶に残る深い感動が「ストーリー戦略」には不可欠だ。

ルイ・ヴィトンの「沈まないトランク」のストーリーも歴史ロマンである※1。タイタニック号が遭難した際、ルイ・ヴィトンのトランクだけは沈まずに浮いていたという逸話のことだ(真偽は不詳)。当時、タイタニック号のような豪華客船を利用できた人は富裕層で、通例、大量の衣装を詰めた何個もの大型トランクとともに旅をしていた。道中で破損しない耐久性がトランクの価値であり、この物語は「富裕層に高く信頼された旅の道具」というブランディングに貢献する。

「行動の連鎖」をつくり出すストーリー戦略を立てよう

沈まないトランク」のストーリーしかり、「思わず人に話したくなる物語」(シンボリック・ストーリー)をブランドの事業戦略の中核に置くことによって、「顧客への提供価値」「競争優位性」「儲けの仕組み」という事業戦略の3要件が、バラバラにならずに有機的に統合されると考えるのがいいだろう(02)。

02 ルイ・ヴィトンの「ストーリー戦略」
「沈まないトランク」話は、このブランドの「顧客への提供価値」「競争優位性」「儲けの仕組み」を巧みに統合している(このイメージは、『物語戦略』掲出のフレームワークを参考に筆者が作成)

ブランディングにおいても「その価値が、人の口から口へと人づてに伝わっていく」ダイナミズムを確保することが重要になる。デジタルマーケティングで重視される「シェア」の発想をもっと積極的にブランド・コミュニケーションに導入していくことが必要だろう。 

例えば、長尺のWeb動画は感動型のコンテンツに向いており、シェアもされやすい。「シンボリック・ストーリー」を動画コンテンツ化することで、その“感動力”がクチコミの連鎖反応を引き起こし、結果的にブランドの物語戦略に寄与することが期待できる。

ただし、「シェアされやすいから、感動するエピソードを探ってコンテンツにする」という短絡的なアプローチは、得てして手段の目的化になりがちだ。行動デザインの発想に立つと「行動の連鎖をつくり出す」という「目的意識」が必要なのだ。つまり、Web動画などを通じて語られるストーリーは、それを聞いた人に何らかの行動を動機づけるものでなくては意味がない、ということだ。

例えば、高額ブランドであれば、あるブランドの物語を聞いたときの感動がそのブランドを所有することの高揚感を生み出し、所有行為を正当化させることで、試用・購買行動の高い障壁を緩和する。これが行動デザイン視点での「ストーリー戦略」である(03)。

03 行動デザイン視点の「ストーリー戦略」(ロイヤルブルーティー)
写真の商品は、皇室献上茶園の生産者が手塩にかけ育てた茶葉の先端部分(一芯二葉)のみを手摘みしたというもの(※2)。こうした背景や事実(ストーリー)に価値を見出し、行動の連鎖へとつながっていく(参考:拙著『行動デザインの教科書』)
「ロイヤルブルーティー」(ワインボトル入りの高級水出し茶)のストーリーは、「一本(750ml)30万円のお茶」(数量限定・完売)

※Web Designing 2017年2月号掲載記事を転載

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