
《メディアコンテンツの伝え方 Vol.3》Web以外での画像の代替テキスト

前回は、Webサイトで画像が読み込まれなかった場合にブラウザでどのように表示されるかを紹介し、あわせてWebサービスやアプリにおける代替テキストの指定方法と表示方法について解説しました。今回は、Web以外の場面における画像の代替テキストについて取り上げます。
Office製品(Microsoft365、Office365など)
WordやExcel、PowerPointなどのソフトウェアでも、画像や図版を扱うシーンがあると思います。作成した資料を読む人はさまざまですから、こうしたソフトでも、もちろん代替テキストが指定できるようになっています。
「Microsoft® Word for Mac(バージョン16.77)」では、画像を添付し、その画像の右クリックメニューの「代替テキストを表示」を選択すると、代替テキストパネルが表示されます。そこには自動的に生成された説明が、その画像の代替テキストとして挿入されています。
下の図は、WordにCodeGridのトップページのスクリーンショットを貼り付けて、代替テキストを表示してみたものです。

画像を貼り付けた時点で、自動的に代替テキストが生成されています。しかし筆者であれば、そのまま使用することはありません。とはいえ、最低限の情報は含まれており、「自動生成された説明」であることも明示されているため、そのまま使ったとしても「何もないよりはよい」と感じます。

代替テキストに含まれていた「ベッド」という語がどこから判定されたのかは不明ですが、写真には写っていないため、このままでは使用できません。「犬と抱き合う帽子を被った男性」のように、内容に即した表現へ書き換えるのが適切でしょう。
各Office製品での具体的な指定方法などは省きますが、Microsoftのサポートページにて、代替テキストの指定方法や作成方法が解説されています。
- ビデオ: 代替テキストを使用してアクセシビリティを向上させる
- 有効な代替テキストを作成するために知っておくべきこと | Microsoft Support
- 図形、図、グラフ、SmartArt グラフィック、またはその他のオブジェクトに代替テキストを追加する | Microsoft Support
最近のOffice製品には、添付した画像に対して代替テキストを自動生成する機能が搭載されています。そのため、生成された内容に問題がないかを確認し、必要に応じて気になる部分を修正する、という使い方が基本になるでしょう。
活字の印刷物
墨字(活字の印刷物)をテキストデータに起こしたり、読み上げた音声を録音し公開したりする取り組みがあります。印刷物には写真や図版が含まれることもあるため、それらがどのような内容であるかを説明する必要があるのです。
学術文献のテキストデータ化する取り組み
国立国会図書館では、学術文献のテキストデータを作成・提供しています。これらのデータはPDF、EPUB、プレーンテキストの形式で提供されており、スクリーンリーダーなどを通じて内容を読み上げることが可能です。
そして、文献内の図やグラフ、写真、地図などの代替テキストを制作するための仕様は、学術文献の視覚障害者等用テキストデータ製作における代替テキスト製作仕様書ver.2021.1(PDF)として公開されています。
代替テキストを考える際の方針としては、次のようなものがあります(一部引用)。
(共通1) 代替テキストは、当該非テキストコンテンツと同等の情報を伝えるためのもので、非テキストコンテンツを代替テキストで置き換えても、必要な情報が失われないものであること。ただし、当該非テキストコンテンツの目的を超える情報は、代替テキストには含めない。代替テキストの詳細度は、必要かつ十分が最も望ましい。
(共通11) 客観的な表現を用い、主観を伴うような形容表現(可愛い、きれいな等)は、原本に記載されている場合を除いて使用しない。多い⇔少ない、大きい⇔小さい、高い⇔低い等の、比較や評価を伴う表現を用いる場合は、「~よりも」「~に比べて」のように比較対象や基準を明確にして説明する。比較対象がない場合は、本文やキャプションにその旨の記載がある場合及び特に必要な場合を除き、比較や評価を伴う表現はなるべく避ける。
記載されている方針は、Webページにおける代替テキストにも共通するものです。
この資料の中では、さまざまな種類の図版が多岐にわたって説明されています。例えば、次のようなものです。
- 申述書
- 概念図
- 美術作品
- 地図
- 家系図
- 複雑なグラフ
一見すると代替テキストの記述が難しそうな図版の例も挙げられており、Webページを制作する私たちにとっても貴重な参考資料となります。もちろん、紙媒体を前提に作られているため「内容は189ページのとおり」といった表現もありますが、Webページであればハイパーリンクを活用することで十分に応用が可能です。ぜひ一度ご覧になってみてください。
墨字を音声データにする取り組み
「音訳」とは、何らかの原因で視覚からの情報を得ることが困難な方のために、文字や図版などの情報を音声に換えて提供することです。
例えば、筆者は埼玉県所沢市に縁があるのですが、市のWebサイトでは、広報誌「広報ところざわ」の音声版を公開しています。
こうした音訳は、音訳ボランティアの方々によって作成されており、活動を始めたい人のためのテキストも用意されています。
このテキストの中にも、写真や図版を音声で説明する方法が記載されています。筆者が重要だと思ったのは、以下の部分です。
写真・図・表などの視覚的資料は、目で見て理解するように作られています。ですから、音訳者が説明文を作り読まなければ情報は伝わりません。
また、文字で書かれたものであっても、同音異義語や造語のように耳で聞いただけではわからず、音訳者の補足説明が必要となるものがあります。まず、それぞれが墨字資料でどのような役割を果たしているかを把握します。そして、どの程度の説明をいれるのか、本文中のどの箇所に挿入するのかを決めます。写真・図などの場合は資料に添えられているタイトル、出典、注などの情報のみで理解できる場合は説明を補足する必要がありません。
説明が必要な場合は簡潔に文書化します。文書化したら必ず前後の本文と続けて読み、作成した説明文と墨字資料の内容に矛盾はないか、説明の過不足はないか、墨字資料の内容を正しく伝えられているかなどを確認します。
録音後は必ず、墨字資料を見ずに聞き直し、音声だけ聞いて理解できるのかを確認します。
引用元:「音訳ボランティア養成講習会テキスト ―基礎課程編―」,特定非営利活動法人 全国視覚障害者情報提供施設協会, 2022年9月, p. 91-92
こうした前提のもと、説明時の注意点や実際の代替テキストの例が紹介されており、Webサイト制作に関わる私たちにとっても非常に参考になる内容です。興味がある方は、全視情協ブックストアよりお買い求めください。
ここまでのまとめ
今回は、Web以外の分野において、画像の代替テキストがどのように扱われているかを紹介しました。
Office製品では画像の代替テキストを自動生成・編集できるようになっており、文書作成の段階からアクセシビリティへの配慮が求められています。また墨字のテキストデータ化や、音訳といった取り組みでも、図版や写真の内容を正確に伝えるための代替テキストが重要な役割を果たしています。
こうした事例を見ると、むしろWeb制作の現場のほうがアクセシビリティに対する取り組みが遅れているのではないかと感じさせられます。画像を扱うのであれば、代替テキストの指定は当然のこととして求められているというわけです。
次回は「代替テキストをどう書くか?」に焦点を当て、実際の指定方法や考え方、代替テキスト以外のアプローチ、そしてAIを活用する方法を紹介します。
執筆

坂巻 翔大郎さん
大手ソフトウェアダウンロード販売会社、Web制作会社などで、マークアップエンジニア、プログラマ、サービス企画、ディレクターを経験。2013年、株式会社ピクセルグリッドに入社。HTML、CSS、JavaScriptなどをオールラウンドに担当。とりわけ、プログラマブルなCSSの設計、実装を得意とする。