《調査・分析 編》大規模リゾート施設「AYANA Bali」のWebサイトリニューアルに見る、mountの緻密な調査と課題解決力

mountが手掛けた、インドネシアのバリ島にある大規模リゾート施設「AYANA Bali」のWebサイトリニューアルでは、制作前に膨大なリサーチを重ね課題解決の方法を導き出していきました。その資料を特別に公開し、どのような道筋で制作されたかご紹介していきます。

【課題解決 編】はこちら

目次

リニューアル前の課題

  1. AYANA Baliの広大な敷地内には多数の施設があり、その全貌がWebサイトでは把握できなかった。
  2. 宿泊客が全貌を把握しきれないことで、施設利用の機会損失が起きていた。
  3. 外部予約サイトからの宿泊予約が半数以上だったため、自社サイトからの予約割合を増やしたかった。

リサーチにかけた時間は2ヶ月以上

AYANA Bali – アヤナ バリ

AYANA Hospitalityが運営するインドネシア・バリ島の「AYANA Bali」は、敷地内に複数のホテルやレストラン、プール、スパなどがある大規模リゾート施設です。

コロナ禍で観光事業が滞ったことをきっかけに、Webサイトの大規模リニューアルを実施することになりました。もともと星のやのWebサイトに好感を持っていたため、その制作を手がけたmountに依頼。同社代表取締役のイム ジョンホ氏、アートディレクターの米道昌弘氏、テクニカルディレクターの岡部健二氏が担当しました。

「コロナ禍を機に事業のデジタル強化を図る一環として、Webサイトリニューアルのお話をいただきました。先方のインサイトを汲み取るため、まずは月に一度数時間話をするというコミュニケーションを重ねていきました」(イム氏)

そうして9カ月が過ぎ、正式にWebサイトのリニューアルが依頼されます。旧Webサイトでは広大かつ施設数の多いAYANA Baliの全貌が把握しづらく、施設利用の機会損失になっていること、外部サイトからの予約が多いことなどが課題となっていました。

mountでは事前に現地視察を行い、2カ月以上かけてリサーチした上で提案書を作成。そこから課題を解決するWebサイトのあり方を見定めていきました。そして、写真やコピー、細部まで質を追求したデザイン、運用しやすい独自CMSの開発などで課題解決を実現しています。

本記事では、mountがWebサイトリニューアル前に行ったリサーチや分析を実際の提案書とともに掲載。また、クライアントの課題をどのように解決していったのか、そのポイントも紹介します。

写真左から、mount inc.のテクニカルディレクター 岡部健二さん、代表取締役 イム・ジョンホさん、アートディレクター 米道昌弘さん

INPUT①|リニューアル前のWebサイトから課題を抽出する

まずは以前のWebサイトから、課題を探ります。90ヘクタールの広大な敷地内に4つのホテル、14のプール&ビーチ、30のレストラン&カフェ・バー、40以上のスパプログラム、海や森といった自然があることが、適切な回遊リンクが貼られていないことや詳細情報不足からわかりづらい状況でした。そのため宿泊客が各施設やアクティビティを認知できず、利用されないという機会損失が起きていた可能性があります。

また、同施設を「AYANA」として認知している人が多く、本来の名称「AYANA ESTATE」の認知が低いため、Webサイトだけでもユーザーが認識しやすい「AYANA Bali」の名称に統一することを提案しました。

敷地内の施設数が多いにも関わらず、ナビゲーションが目立たないことと回遊性の悪さから全体像の把握が難しくなっていました。また、スペック的な情報に終始し、ホテルの部屋や各施設の魅力はあまり訴求されていませんでした
アクセス解析から、正式名称「AYANA ESTATE」が浸透しておらず「AYANA」+「Bali」での検索が多いこと、そのためトップページから見始める人は10%もいないこと、ブランドサイトの下層ページで情報を得る前に外部予約サイトへ遷移してしまい、PVも予約サイトの方が圧倒的に多いことなどがわかりました

INPUT②|さまざまなペルソナのニーズを洗い出す

AYANA Baliの全体像を掴むため、記事を書く編集チーム、撮影チームとともに7日間の現地視察を行いました。お客様を観察してみると、4つのホテル、部屋タイプによって価格帯の幅があるため、年齢層や訪れる目的もさまざまな方がいました。ウエディングプランがあるので新婚旅行の夫婦、カップル、ファミリー、一人旅、会議室があるのでビジネス利用など。それぞれAYANA Baliでどのように過ごしたいかというニーズは、異なるはずです。

そこで、何を求めているのかを想像し、カスタマージャーニーを作成しました。そして、これだけ幅広いニーズに対応する受け皿があることが、AYANA Baliの特長だと考えました。

AYANA Baliについてクライアントが「さまざまなことができる統合型リゾート施設です」と表現していたので、具体的に何をする場所なのかを紐解いていきました
mount社内のメンバーにも手伝ってもらい、なるべく自分と立場の近いタイプの客層を担当して、訪れたきっかけや、過ごし方、宿泊・施設で重視すること、Webサイトに対して求めることを想像し書き出していきました

INPUT③|競合比較から特長を再認識し、ポジショニングを明らかに

AYANA Baliならではの魅力として何を訴求すべきかを把握し適切にポジショニングするため、バリ島界隈の競合やベンチマークとしているリゾート施設との比較を行いました。

面積は他の施設と比較しても圧倒的に広く、そして他は海あるいは森のどちらかを楽しめますが、AYANA Baliは唯一両方を備える場所であることが特長だとわかりました。また、ホテルの部屋数やレストランなどの施設、スパ、アクティビティなどが豊富であり、それにより“点”ではなく“面”で幅広い体験を提供できていることをポジショニングマップで明示しました。

競合のWebサイトの写真の見せ方やテキストなども調査し、差別化するためにはどうすればよいかも提案していきました。

競合やベンチマークとなるリゾート施設と面積の大きさと、森と海の両方があるかを比較して、AYANA Baliは圧倒的に広く、唯一海と森がつながる施設であることがわかりました。施設やアクティビティといった企画の数も他に負けない豊富さで、その体験の幅をポジショニングマップにまとめました
競合のWebサイトも調査したところ、掲載している写真や見せ方などについて差別化ができていないという課題を感じました。また、競合も同様に、脈絡なくきれいな写真が並んでいるだけというWebサイトがほとんどでした

INPUT④|考察や課題に基づいたリニューアル方針を提案

リサーチを踏まえ、Webサイトのコンセプトとして「訪れた人それぞれのAYANA時間」を提案。資料では、それがどういうものかを図解しています。こうした提案によって、クライアントも「なぜそれがWebサイトの課題解決になるのか」という共通認識を持ってもらいやすくなります。

規模の大きいプロジェクトでは特に、制作規模や予算などを事前に読み切ることはできません。まずはこの提案までを受注し、リニューアル案を出すとともに、予算や時間を考慮した上でmountが担当する範囲を相談するための資料でもありました。実際にテンプレートをmountで制作し自社制作してもらうことになったWebページもあります。

広大な敷地に多様な施設やアクティビティを持つAYANA Baliでは、さまざまな目的で訪れる人全員が、それぞれの求める時間を過ごせるという訴求ポイントを図解しました

Text:平田順子、Photo(人物):ただ(ゆかい)、Photo(AYANA Bali):(株)JXL 、加藤純平
※本記事は「Web Designing 2024年12月号」の記事を一部修正・再構成して掲載しています。

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