チームの成長を支えるFigmaの力。カプコンが語る、学びとナレッジ共有のリアル

昨今、デザインの現場で活用が広がっているコラボレーションデザインプラットフォーム「Figma」。本コーナーでは、Figmaを導入している企業や組織に、導入前に抱えていた課題や活用の実態、そして導入後にもたらされた変化など、「Figma活用のリアル」をお届けします。
第1回となる今回は、2024年3月にFigmaを導入したゲーム開発会社・カプコンにインタビュー。後編では、重宝している機能や習得のコツ、今後の展望についてお話を聞きます。聞き手は、Figma Japan カントリーマネージャーの川延浩彰さんです。
コメント機能が生む「オープンな議論」とスムーズなレビュー
川延浩彰(以下、川延) Figmaのなかで、特に気に入っている機能はありますか?
井上貞高(以下、井上) ひとつはコメント機能です。Figmaに慣れていないメンバーや、デザインリテラシーの高くない閲覧担当者でも直感的に使えるため、ほとんど説明することなく利用できる点が大きいですね。これまでチャットや資料などで別途共有していたフィードバックも、直接ファイル上に残せるようになり、シンプルながら非常に重宝しています。
以前はデザインカンプを画像ファイルとして共有し、メールやチャットでレビューを行っていました。そのため、画面遷移やインタラクションの意図が伝わりにくく、部門や担当者によってフィードバックの形式もまちまちでした。結果として、「どの部分のことを言っているのかわからない」「修正指示が重複してしまう」といった混乱も少なくなかったんです。

Figmaを導入してからは、ワイヤーフレームやデザインを単一のファイル上で共有できるようになり、該当箇所に直接コメントを残せるようになりました。これにより指摘内容が一目でわかるようになり、修正対応のスピードも大幅に向上しました。会議で意見を出しづらかった人でも気軽にコメントできるようになり、他部門とのコミュニケーションも以前より活発になったと感じます。
また、対応済みの項目は「解決済み」に変更できるため、対応状況の管理もしやすく、レビュー全体の透明性と効率が格段に向上しました。プロトタイプ共有の仕組みやレビューの進め方そのものが変わったことで、チーム全体での認識合わせや意思決定のスピードも飛躍的に改善されています。
さらに「バージョン管理機能」も頻繁に利用しています。作業の区切りごとに履歴を保存して名前を付けておけば、あとから過去の状態を呼び出すことも簡単ですし、意図せず編集や削除をしてしまった場合も元に戻せるため、万が一の際にも安心です。
従来のようにローカルでファイルを管理していた頃は、「他人の作業を壊してしまうのでは」という不安もありましたが、この機能があることで「壊しても大丈夫だから自由に触ってみて」と声をかけられるようになりました。そうした安心感が、結果的にメンバー全体の積極的な活用にもつながっています。

学びやすさと共有文化がチームを強くする
川延 社内でFigmaの活用を進める際、教育やトレーニングはどのように行いましたか?

井上 まず、Figma自体の学習コストが低く、直感的に操作できるのが大きな特長です。初めて触れるメンバーでも短期間で基本操作を習得できました。実際、私自身も同僚に勧めてもらった書籍を1冊読むだけで、業務で必要な機能や使い方を理解することができたほどです。
導入当初は初めて触るメンバーも多かったため、先行して習熟していたメンバーが既存のデザインを組み直しながら、「こう作れば制作効率が上がる」「この構成にするとメンテナンス性が高まる」といったレクチャーを行いました。
私も当時は初心者でしたが、書籍やリファレンスで基礎を学びつつ、上級者の同僚が作成したワイヤーフレームを見て内容を把握することは、とても勉強になりましたね。完成度の高いFigmaファイルは、それ自体が優れた教材。そうした試行錯誤を重ねるうちに、操作や作業フローを業務に支障のないレベルまで身につけることができました。
また、Figmaは直感的なUIとシンプルな操作体系を持っているため、新しいツールに抵抗を感じる世代のメンバーでもスムーズに使いこなせる点が魅力です。さらに、操作方法や作業フローを動画で解説したWikiを整備したことで、新しく参加するメンバーも効率的にキャッチアップできるようになりました。これによって、チーム全体の作業標準化やナレッジ共有が促進され、誰もが自信を持ってデザイン業務に取り組める環境が整いつつあると感じています。
ユーザー体験の質を高め、未来へ広がる活用の可能性
川延 Figmaの導入は、顧客体験やサービス品質にも影響があったのでしょうか。
井上 はい。Figmaを活用することで、ユーザーがWebサイトを閲覧する際の体験の質を高めることができたと感じています。たとえば、variableでトークンを定義することで、色やサイズ、余白といった要素のばらつきを防ぎ、全体のデザインをより統一的に整えられるようになりました。ユーザー自身は細部まで意識していないかもしれませんが、ページ全体が秩序立って見えることで、「なんとなく見やすい」「印象がいい」と感じてもらえるようになっていると思います。細部の精度が上がることで、結果的にブランド全体の体験価値も高まっている実感がありますね。
今後は、ユーザーインタビューやヒューリスティック評価などの手法を取り入れ、定量・定性データをもとにサイト改善のサイクルを回すことで、よりよいユーザー体験につなげていきたいと考えています。
川延 今後はどのようにFigmaを使っていきたいですか?
井上 これからは、コードコネクトや業務に特化した内製プラグイン、ウィジェット開発などを通じて、デザインとコードのつながりをさらに強化していきたいです。これらを活用することで、デザインから実装までの流れがよりスムーズになり、日常の作業効率も一段と高まると考えています。
また、「Figma Make」をはじめとするFigma AIの活用にも大きな期待を寄せています。AIがアイデア出しや文言のリライト、デザイン案の生成をサポートしてくれることで、これまで時間のかかっていた工程を効率化できるはずです。特に、部門をまたぐテキスト表現の統一やナレッジ共有の促進といった部分では、Figma AIが大きな力になると感じています。

川延 最後に、Figmaの導入を検討している方へメッセージをお願いします。
井上 Figmaを試験導入したのが昨年3月で、まだ使用歴は1年半ほどですが、いまではFigma以外でサイトを制作することはほとんどありません。長年別ツールを使ってきた身としても、Figmaの操作はすぐに馴染めましたし、学ぶ過程そのものを楽しめました。
なので新しいツールに苦手意識がある方にも、まずは気軽に触ってみてほしいと思います。使ってみれば、学ぶことが「負担」ではなく「楽しみ」に変わる。それがFigmaの最大の魅力だと感じています。
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プロフィール

井上 貞高
株式会社カプコン CS制作統括 プロダクション部 WEBプロダクション室 WEB制作チーム
東京出身。情報処理を専門に学んだ後、2007年に株式会社カプコンへ入社。Webデザイナーとしてキャリアをスタートし、マネジメントポジションを経て、現在はCS制作統括 プロダクション部 WEBプロダクション室 WEB制作チームに所属。Webサイトの制作・運営や画像制作を担当。2024年4月の組織改編を機に現職に着任。イラストレーションとエレキギターを愛し、休日はドライブを楽しみながら創作活動に励む。

川延 浩彰
Figma Japan株式会社 日本カントリー・マネージャー
下関市立大学経済学部を卒業後、兼松エレクトロニクスに入社。その後、カナダのビクトリア大学でMBA(Entrepreneurship専攻)を取得し、ブライトコーブにて日本のメディア事業統括並びに営業責任者を歴任、韓国事業GMを経て本社SVP兼代表取締役社長に就任。2022年1月にFigmaの日本カントリー・マネージャーに就任。愛知県出身で、フットサルと旅行を愛する2児の父親。
取材・文/中村直香、写真/秋山枝穂
