“クロミ著作権訴訟”の背景とは? アニメ制作会社との契約リスクを読み解く

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キャラクターデザインの著作権は誰に帰属するのか?

アニメ「おねがいマイメロディ」シリーズに登場する「クロミ」は、サンリオ作品としては珍しい“悪役”ながら、非常に高い人気を誇るキャラクターです。今年はクロミ誕生20周年という節目の年ですが、先日、このキャラクターをめぐり、アニメ制作会社・スタジオコメット(以下、A)が、原作を持つサンリオ(以下、B)に対して著作権をめぐる訴訟を提起していたことが報じられ、話題となりました。

Bは自社Webサイト上でコメントを発表していますが、Aは本稿執筆時点(2025年4月上旬)で正式な情報発信を行っていません。ここでは、公開されている記事をもとに、問題の背景を考察してみたいと思います。

騒動の中心は、クロミの「デザイン」に関する著作権です。報道によると、クロミのビジュアルをデザインしたのは、Aに所属するアニメーターだったとされています。

著作権法では、原則的に著作物を創作した者が著作権者となります。ただし、会社に所属する者が業務の一環として著作物を創作した際には、会社が著作権者になる場合があります。そのため、本件ではクロミはAが著作権者となっていたと考えられます。

しかし、クロミはもともと、Bが許諾したマイメロディのアニメ制作の過程で生まれたキャラクターです。この場合、アニメの著作権はもちろんのこと、そこから派生したキャラクターの著作権もすべてBに帰属するという契約を結ぶのが一般的です。だとすると、どうして今回のような裁判が起こってしまうのでしょう。

訴訟騒動の裏側

実は、Bがアニメ制作を直接Aに発注していたわけではなく、間にもう一社、企画会社Cを挟んでいたそうです。つまり、BはCに制作を委託し、CがさらにAに制作を依頼するという構造でした。

こうしたケースは珍しくありませんが、Bが著作権をすべて自社のものにするという契約をCと交わしていても、実際にキャラクターを創作したAとBの間にしっかりとした契約が結ばれていない場合、リスクが発生します。今回の場合も、AとCの間でどのような契約が結ばれていたのかは、報道からは明らかになっていません。

今回のケースでは、著作権者と考えられるAと、ライセンスを持つB、制作を委託されたCの間で交わされた契約が不十分だったことが原因と考えられます

特にキャラクターは、創作段階では将来的にどれだけ人気を集めるかわからないもの。しかし一度人気が出れば、二次使用等によって莫大な利益を生む可能性があります。クロミも、20年前の創作当時に現在の人気を予想できた人がどのくらいいたでしょうか。

報道によると、Bが出版物の中で「クロミはBに所属するアニメーターが生み出した」と記載したことも、Aが訴訟を起こしたきっかけの一つだったようです。

第三者が創作したキャラクターを利用するとき、特にそのキャラクターが大きな価値を持った場合に備え、契約書で著作権の譲渡をしっかり規定しておくことが重要です。それだけでなく、創作者がどのような条件で契約したのか、キャラクターに対する思いなどを含めて注意しておく必要がありそうです。

プロフィール

桑野 雄一郎

1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2024年鶴巻町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など。 http://kuwanolaw.com/

文:桑野 雄一郎 
※本記事は「Web Designing 2025年6月号」からの抜粋です。

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