「#大沢たかお祭り」から考える、ネット世界における著作物利用の是非

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SNSで拡散する“著作物遊び”は法的にどう扱われるのか?

以前、「#大沢たかお祭り」というハッシュタグ付きの投稿がSNS上で大きな話題となりました。これは、映画『キングダム』で人気キャラクター・王騎将軍を演じた俳優・大沢たかお氏の画像に、作品とは無関係な一言を添えて投稿するというもので、大沢氏の迫力あるビジュアルと日常の些細な出来事とのギャップが笑いを誘い、ユーモラスな遊びとして一気に広まりました。

しかし、使用されていた画像は映画のワンシーンであり、映画製作委員会が著作権を持つ「映画の複製物」に該当します。いずれもどこかからダウンロードされたものと見られ、ダウンロードした時点で複製権の侵害、さらにSNS上に投稿することは公衆送信権の侵害にあたります。

それでも、著作権者から公式なクレームが出されることはなく、「#大沢たかお祭り」は一時的なブームとして広がり続けました。

ところが、ある参加者が王騎将軍に関連するグッズ化を試み、正式に許諾を申請したところ「不許可」との返答があったことから、ブームは急速に終息を迎えることになります。

ネットだけでなく、同人誌の世界などでも、明らかな著作権侵害と思われるコンテンツが拡散しても、権利者からクレームが出ないことは珍しくありません。これは、権利者側が「不当な利益を得ていない」「作品の価値を損ねていない」「個人のファンが楽しんでいるだけ」と判断し、あえて黙認するケースがあるためです。

「本音は違うかも」という視点

とはいえ、注意すべきなのは、クレームを出さずにいる権利者の“本音”です。もちろん、なかには「ファンが楽しんでいるなら、大いに使ってもらって構わない」と思っている人もいるでしょうが、「本当はそのような使い方をしてもらいたくないが、クレームを出すこと自体が面倒だった」「ファンの反発を招くのは避けたい」などと思っていたりする可能性は十分あります。

そのため、たとえクレームが出されていなくても、「クレームが来ない=容認されている」と勝手に決めつけず、「権利者は不快に思っているかもしれない」という視点を持つことが重要です。

クレームが出ていないからといって、権利者が納得しているとは限りません。「本音は不快に思っているかもしれない」という視点を持つようにしましょう

なお、商業作品の場合は、利用許諾の条件を公表していたり、利用許諾の窓口を設けていたりするような著作物でない限り、一般的には個別に申請しても許可が下りることは少ないのが実情です。一定の範囲の利用については黙認したり、放置したりしている権利者も、正式に申請されると「不許可」とせざるを得ないことが少なくないわけです。

きちんと許諾を得ようと行動した「大沢たかお祭り」の参加者の考えは、法的には正しい一方で、権利者の本音に対する理解が足りなかった側面もあったと言えるかもしれません。

プロフィール

桑野 雄一郎

1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2024年鶴巻町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など。 http://kuwanolaw.com/

文:桑野 雄一郎 
※本記事は「Web Designing 2025年8月号」からの抜粋です。

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