《文章力を上げる新・鉄板ルール #2》うまい話にゃウラがある!? 騙されたくない時代の「両面提示」とは?

現代は、すべての文章作成を効率重視でAI任せにもできる時代。だからこそ、読み手との関係性を踏まえた“ならでは”の文章を書ける人の価値は増す一方です。本連載では、株式会社ワン・パブリッシングの取締役社長・松井謙介氏が、「売上につながる文章術」を徹底解説。今回は、「両面提示の法則」「極端の回避性」を活用したテキストマーケティングを考えます。
いやー実はこの部屋、出るんですよ……
文章で人を動かす––––––前回から本連載はついにその領域に踏み込みました。これは、いわゆるひとつの行動心理学的なステージ。これまでは「理解されやすく、読みやすい文章の書き方」を中心に説明してきましたが、もう違います。
ゴールは、読む人の心理に作用し、行動を起こしてもらう文章を書くこと。文章の書き方ひとつで、相手の心は確実に変化します。こう書くと、「口八丁」「口車に乗せる」「巧言令色」なんて言葉が頭に浮かび、情報商材でも売りつけられるのかしら?と身構えるかもしれませんが、そうではありません。皆さんの企業の商品やサービス、さらにはWeb制作スキルを、より輝かせるためのテキストワークについて説明していきます。
今回は「両面提示の法則」。「法則」なんていうと大げさに感じますが、簡単に言うと「飾らず、正直でいようぜ」ということです。具体的には、セールスなどの情報伝達において、よい面(メリット)と悪い面(デメリット)の両方を提示しようね、という話。「あそこのラーメン屋さん、“すげー汚いけど”超うまいんですよ!」。これです。メールなどでこう伝えることで、読んだ方が「なるほど、汚いけどうまいのか、それなら間違いなさそうだ、行ってみよう」と逆に信頼してしまう法則を指します。
要は、誰もが「うまい話にゃウラがある」と思っている、ということです。例えば、賃貸住宅を探す客に、「駅近で広さも十分、角部屋かつ築浅、スーパー併設で、家賃も安くて敷金礼金なし!」と伝えると、相手はこう思うでしょう。
「で、その部屋には何が出るんですか?」
そりゃそう。こんな好条件は嘘だって一発でバレますから。「ラップ音がして、窓が自動で開閉して、天井に手の痕がたくさんあるんですけど、この価格です!」。このくらいデメリット提示があったほうが、消費者は安心する……しないか。デメリットが大きすぎる場合は慎重にいきましょう。
でも、そういうことです。「リスクゼロの投資話」をもう誰も信用しないのと同じで、どんな商材でも「悪い側面」はあります。それをしっかり文章化して伝えるほうが、長期的にいい信頼関係を築くことができる、というわけです。
今後のマーケティング文章に必要なのは「ほどほど感」
この「両面提示」は、インターネット時代には欠かせない考え方。言うまでもなく、今日の消費者は、過去のどの時代よりも賢く、情報を持っています。
自分が欲しい/契約したい製品やサービスに対し、一定の情報を持っているのは当たり前。また購入や契約を即決するのではなく、ネットでクチコミを調べてから判断する習慣が身についています。
都合のよいことしか口にしない「片面提示」は成立しません。よほど相手と深い信頼関係がある場合を除き、「両面提示」を徹底しましょう。
物事の決断に関して、似たような法則がもう一つ。それは「極端の回避性」です。「片面提示」も「いい話ばっかりされると敬遠してしまう」という、ある意味で「極端なものを避ける」という考え方です。
それをうまく利用するのが「松竹梅の法則」になります。例えばゴルフのレッスンサービスがあったとしましょう。
松……トッププロが週に2回1on1で教えてくれるプレミアコース/30万円
竹……レッスンプロが週3回、1on1で教えてくれるスペシャルコース/5万円
梅……ビデオレッスン見放題のエントリーコース/1万円
これならきっと、多くの人が「竹プラン」を選ぶでしょう。ここで出る言葉は「せっかくなら」。成長しなさそうなビデオに1万円払うくらいなら、プロに教えてもらったほうがきっとうまくなるだろう、といった心理が働くはずなのです。なかには「せっかくなら」で30万円コースを選ぶ人もいるかもしれませんが、これだけ価格差があればレアケースでしょう。
「両面提示の法則」「極端の回避性」、ともに大事なのは「ほどほど感」です。「いい話にウラがあるのはわかっているけど、安物を買って損はしたくない」。この消費者心理を突く文章こそ、今後、価値が上がるはず。
「うちの商品を売り伸ばすために、Amazonレビューで大絶賛投稿を集めましょう」と言っているあなた、そんなテキストマーケティングは終焉を迎えつつありますよ!

相手が詳しくないから「片面提示」?
「片面提示」は、ここもよい、あそこもよい、これを選ぶしかない、という直球型の内容になります。企画書などで「片面提示」を行うケースがありますが、個人的にはおすすめしません。世の中には「相手が対象物に詳しくない場合」=「片面提示」と説明する場合もありますが、それは非常に下品な方法。相手が詳しくないときこそ「両面提示」で信頼を築くべき。「詳しくない人に片面提示」なんて、老人向け詐欺の手法です。
| 提示方法 | 例文 | おすすめの相手 |
|---|---|---|
| 片面提示 | このマンション、築浅で駅も近い。広さも一人暮らしには十分で、この賃料はお得ですよ! | ◯相手と信頼関係がある場合 ◯相手が直感的な思考の場合 |
| 両面提示 | このマンション、日当たりだけがちょっと悪いんですが、そこさえ我慢できれば築浅で駅も近い。広さも一人暮らしには十分で、この賃料はお得ですよ! | ◯相手との信頼関係がない場合 ◯相手が対象物に詳しい場合 ◯相手が論理的な思考の場合 |
著者

松井 謙介
株式会社ワン・パブリッシング取締役社長
雑誌『GetNavi』編集部や絵本編集部での現場編集を経て、2010年GetNavi編集長に就任。最大部数記録、電子書籍ユーザー数月刊誌ナンバーワンなどを達成。現在はメディア運営のマネジメントをしながら、コンテンツの多角的な活用を実践中。自社のメディアのみならず、企業のメディア運営や広告のコピーライティングなども手掛ける。
書誌情報

書籍:1,980円
電子版:1,980円
B6変:208ページ
ISBN:978-4-8399-90275
発売日:2025年09月19日
■概要
生成AIの進化により、議事録やレポート、マニュアルといった事務的な文章は効率的に自動化できるようになりました。しかしビジネスの現場では、それだけでは不十分。企画書や提案書、人材募集文、オウンドメディアの記事など──人の感情を動かし、行動へとつなげる文章には、書き手自身の思考や意見、そして「相手にどう動いてほしいか」という意図が不可欠です。
最新のAIは流麗な文章を生み出し、表現力も増しています。しかし、「誰に向けて、何を伝えるのか」という視点は、人間にしか持ち得ません。読み手を意識し、関係性を踏まえて言葉を選ぶことこそが、成果を生む文章の鍵なのです。
本書では、生成AI時代にあっても欠かすことのできない「自分で書く力」を、実践的かつ最新のテクニックとともに解説。あなたの仕事に直結する「伝わる文章術」をお届けします。
■目次
はじめに
第1章 文章を書き始める前にやるべきこと
1-1 文章の「価値」を見直しておく
1-2 準備段階で、文章の90%は完成させよ
1-3 「マクロからミクロの視点」を意識する
1-4 「結論から書けぃ!」は絶対的ルール?
1-5 書く前に「統一表記」を作ろう
1-6 「だ・である」「です・ます」を統一せよ
コラム 「普通に」って一体どの程度?
第2章 文章執筆の基本ルール
2-1 文章は「短く」、「能動態」で書こう
2-2 読み手の時間を奪う「冗長表現」を排除せよ!
2-3 カタカナ語はバランスを模索しよう
2-4 漢字と平仮名は「3:7」を目指せ!
2-5 「話し言葉」と「書き言葉」を使い分けよう
2-6 「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の秘密
コラム 「言葉の繰り返し」の新潮流とは?
第3章 文章が美しくなる7つのポイント
3-1 「読点」は感覚で打つべからず
3-2 「修飾」の正しい扱いを守る
3-3 デリケートな「並列」の扱いに注意しよう
3-4 げに恐ろしきは「主語と述語の呼応」
3-5 「は」と「が」の使い分けを知る
3-6 生成AI時代は「接続詞」の活用をマスターせよ
3-7 時代とともに変化する「副詞の呼応」
コラム 疑問文はこの上ない「断定」になる
第4章 文章の神は細部に宿る
4-1 類似表現は「ニュアンスの僅差」を把握すべし
4-2 誤解しやすい日本語表現を把握せよ
4-3 「比喩」はいまどきの若者言葉に学べ
4-4 日本語は「オノマトペ」を攻略せよ
4-5 雑誌編集者流の文章校正を学ぼう
コラム 意外と身近にある「リスクのある言葉」
おわりに
