デザイナー専用の評価制度はどう作る?「期待値」から考える制度設計のポイント

デザイナーの評価制度は、成果を測るための仕組みであると同時に、組織として何を期待しているのかを示す指標でもあります。しかし実際には、他職種と同じ基準で評価していたり、過去の制度を踏襲したままだったりと、デザイナーの専門性を十分に反映できていないケースも少なくありません。本記事では、デザイナー専用の評価制度を設計する際の考え方と実務のポイントを、グッドパッチReDesignerチームの書籍『デザイナー採用の教科書』(宣伝会議)より内容を抜粋して紹介します。
【評価制度の構築】
デザイナー専用の評価制度はどのように作ればいいか
デザイナー専用の評価制度とはどのようなものか、そのような評価表はどう作ればよいのか、気になっている方も多いかと思います。
実際、ReDesignerに登録している企業の中で、デザイナー独自の評価制度を設けている企業の割合は、2023年度と2024年度を比較すると23%から45%へと増加しており、デザイン組織が50名以上の規模になると、その割合は70%を超えるとのデータがあります。

一方で、これからデザイナーを本格的に採用していこうと考えている企業では、デザイナーに特化した評価制度を設けているような企業は少なく、エンジニアと一緒、もしくは所属している事業部の評価に準じたものになっている場合が多いのが現状です。その結果、評価制度に不満を感じ、デザイナーが退職してしまう。このようなケースもよく聞きます。
ポイントはデザイナーへの「期待値」の明確化
当然ながら、どの会社でも使える評価表というものはありません。会社によって、デザイナーに何を求めるか、デザインを経営戦略上どう位置付けるかなどによって、その内容は異なります。
評価制度の構築において、ポイントになるのは「期待値」です。デザイナーと関わる周辺職種の人たちや部門長が、デザイナーに何を期待しているのか、どういうものを作ってほしいのか。その期待値を組織全体で合わせておき、それを評価表に反映することが重要だということです。
組織全体で期待値を合わせると一言で言っても、実施は簡単ではありません。事業部にデザイナーが点在しているような組織では、デザイン業務も含めてサイロ化していることもあります。プロジェクトごとにアサインされるようなケースでは、その時々のチームメンバーによって求める動きや成果は異なるかもしれません。
デザイナーの評価表をどう作成するかを議論する前に、会社全体でのデザインの使い方や考え方までさかのぼり、必要に応じて変えていかなければならない場合もあると思います。
歴史あるデザイン組織ならではの課題もある
一方、既に評価表がある会社でも、その見直しは必要です。特にデザイン組織を従来から社内に置いていたメーカーなどでは、評価表をいかにアップデートしていくかという課題があります。それまでのプロダクトデザイナーに加えて、新たにUI/UX領域のデザイナーを採用する際などに表面化しやすい問題です。異なる職種のデザイナーは、異なる「理想のデザイン」像を持っていることが多いからです。
こうした企業に以前から在籍していたシニアデザイナーの中には、自身の領域の「理想のデザイン」を押し付けてしまい、それ以外の領域のデザインは付随する一部でしかない……という感覚を強く持っている人も少なくありません。しかし、他の領域を強みとしているデザイナーからすれば、そのような評価は間違っていると感じるでしょう。
このような状況下でベテランデザイナーが他の領域のデザイナーを採用したり、評価する立場にあれば、互いの認識に齟齬が生じ、デザイン組織の運営はうまくいきませんし、最悪、離職にもつながりかねません。実際、私たちが関わったあるメーカーでは、UX領域の必要性を感じてUXデザイナーを採用していたものの、一人ひとりのスキルセットにはバラつきがあることに採用側が気付いておらず、適切な業務にもアサインできていなかった、というケースがありました。
このときグッドパッチがまず行ったのは、同社に必要なデザイナーのスキルセットを棚卸しすることでした。続いて、新しい職種のデザイナーが評価も含めて正しく活躍でき、輝けるような環境へと整備することも提案しました。具体的には、それぞれの業務のジョブディスクリプション(職務記述書)を作成すると共に、デザイン組織に所属するデザイナーのスキルセットをまとめたタレントマネジメントシステム(人材情報の一元管理ツール)のようなものを作成しました。その上で、新しい職種のデザイナーにもフィットする評価制度の構築を進めています。
評価制度の変更は、在籍デザイナーの意識変革とセットで行う
こうした評価制度の変更を行う際に注意してほしいことがあります。それは、これまでの経験をスクラップアンドビルドするのではなく、これまでの経験の上に新しい考え方を積み重ねていくような姿勢で臨むことです。たとえば長年デザイナーとしてキャリアを積んできたベテランに対して、突然「UX重視」といった新しい評価基準を押し付ければ、これまで正しいと思って取り組んできたことを否定されたように感じてしまうかもしれません。評価制度の目的は、古い価値観を切り捨てることではなく、これまで培ってきた強みを次の時代につなげることにあります。
いくら顧客体験が重視される時代になったとしても、意匠が生み出すリアルプロダクトの魅力は、変わらず企業やブランドの価値を支える重要な要素です。
そのうえで、これからのデザインには、意匠に加えて、顧客体験やサービスの設計までを含めてデザインする力が求められています。そのような「or」ではなく、「and」のデザインがより重要になり、そこまで視野を広げられるデザイナーこそが正当に評価されるべきなのです。
書誌情報

著者:株式会社グッドパッチ ReDesignerチーム
価格:2,310円(税込)
発行:宣伝会議
ISBN:978-4883356294
発売日:2025年12月22日
デザイナーの「採用」から「育成」「マネジメント」までを成功に導く実践ガイド。日本最大級のデザイナーキャリア支援サービス「ReDesigner」の知見を体系化し公開。失敗しない採用フローを詳細解説するほか、採用市場の最新動向の解説、デザイナー採用・育成の成功事例も。人事担当者だけでなく、デザインの力を事業や経営に生かしたい経営者の方にも役立つ一冊。
章立て:
第1章|企業の成長を支えるデザイナーの力
第2章|企業のデザインシフト70年史
第3章|デザイナー採用市場の変化
第4章|だからこの人を採用する ― 失敗しないデザイナー採用フロー
デザイナー向けコラム:選ばれるデザイナーになるために
第5章|入社してからが本番 ― 活躍支援と育成スキーム
第6章|実践から学ぶ ― 事例で読み解くデザインの貢献
NTTドコモビジネス【KOEL】/マネーフォワード/丸井グループ×グッドパッチ【Muture】
第7章|ReDesignerが考える、これからのデザイナー像
土屋尚史(グッドパッチ 代表取締役 兼 CEO)
佐宗純(グッドパッチ ReDesigner設立者)
宮本美咲(グッドパッチ ReDesigner事業責任者)
※本記事は、書籍『デザイナー採用の教科書』(宣伝会議)の内容を一部抜粋して公開しています。
