
Wixのフォント表現はどこまで広がったのか? Monotype提携による可能性と、人気書体の実践例

Webデザインの印象は、フォントでどのように変わるのでしょうか。ノーコードのWeb制作プラットフォーム「Wix」は、モリサワフォントと提携するなど、フォントの拡充にも力を入れてきました。さらに2025年9月には、世界最大級のファウンダリであるMonotypeと戦略的提携を発表。これによってHelveticaやAvenirなどの人気書体を含む多彩なフォントが使用可能になり、デザインの幅をさらに広げています。
今回は「フォントおたく」を自認するデザイナー兼ライターの伊達千代さんに、Monotypeの特徴や代表的な書体について解説していただきました。Wixでの作例とあわせて、フォントが生み出す印象の違いを探っていきます。
目次
Monotypeフォントとは?
Monotypeは、HelveticaやBaskervilleといった歴史的名書体を数多く擁する、世界最大級のファウンダリです。デザイン性が高いのはもちろんのこと、可読性や用途に応じた緻密な設計による品質の高さを誇っています。また、数多くのブランドに適切なロゴや書体の設計もサポートしてきました。


通常こうした高品質なフォントは、厳密なライセンス管理がされています。Monotypeのサービスを利用し、25万以上のフォントを有する膨大なライブラリを活用するには高額な費用がかかるため、デザイナーが個人で契約する場合の負担は軽くありません。
しかしながら、プロフェッショナルなWebサイトのデザインにおいてフォントは重要な要素です。MonotypeフォントがWixに追加されたのは、誰もが手軽に高品質なフォントを利用できる数少ないルートの一つであり、Web業界・デザイン業界にとって大きな出来事と言えるでしょう。
欧文フォントの基本とイメージの違い
フォントの選択肢が増えたことによって、Webデザインはどのように変わるのでしょうか。実際にMonotypeフォントを使用し、フォントが与える印象の違いを紹介します(Wixにおけるフォントの設定方法についてはこちらの記事をご参照ください)。
Monotypeには和文書体も少しありますが、その多くが欧文書体です。欧文書体には、線の先に装飾のついた「セリフ書体」とセリフを持たない「サンセリフ書体」があります。和文における明朝体やゴシック体と同じような存在で、どちらも古くから印刷書体として使用されてきました。


ほかにも、手書き文字を書体化した「スクリプト書体」、見出しなどに使用するために装飾性を高めた「ディスプレイ書体」といった分類もあります。


その中でもWebデザインでよく用いられるのは、サンセリフ書体です。ひと口にサンセリフといっても、線の強弱や重心の高さ、カーブの描き方で印象は大きく変わります。
世界的に最も有名なサンセリフ書体といえば、Helveticaが挙げられます。サンセリフの中でもグロテスク、またはネオ・グロテスクと呼ばれるデザインで、簡潔さと読みやすさから数多くの企業でコーポレートフォントとして使用されてきました。また、類似フォントや派生フォントも多数つくられていて、Monotypeにも複数の種類のHelveticaがあります。
Helveticaには長い歴史があり、生真面目さや王道感を感じさせます。誰もが見慣れたデザインで、本文からキャッチコピーまで「これを使っておけば安心」という汎用性の高いフォントです。

一方Avenirは、同じサンセリフでもジオメトリックと呼ばれる分類で、幾何学性を取り入れたデザインになっています。Helveticaと比べると現代的で明るい印象を与え、文字の中にある余白が大きいため“抜け感”があります。同じジオメトリックサンセリフのFuturaとともに、デザイナーに人気の書体です。
HelveticaとAvenirのデザイン例を見比べていただくと、同じサンセリフの書体でもイメージが異なることがわかると思います。

ペンで丁寧に描いたようなスクリプト書体Snell Roundhandを使用すると、ガラリと印象が変わります。このデザイン例では大きな文字のキャッチコピー部分に使用していますが、特に大文字の装飾がエレガントです。スクリプト書体の中でもくっきりと読みやすいので、見出しやキャッチコピーで使用するのに適しています。
ただ、Snell Roundhandは目を惹く書体のため、本文などではもう少し主張の少ないものを用いるとよいでしょう。このデザイン例では、黄色い地の部分の文字には、歴史のあるセリフ書体のMonotype Baskervilleを組み合わせました。

「和文×欧文」で、印象はここまで変わる!
日本企業のWebサイトを制作する場合、和文と欧文を組み合わせて使うことが多いのではないでしょうか。ここからは和文と欧文を組み合わせたデザイン例をご紹介していきます。
特にフォントを指定せずにWebブラウザのシステム標準フォントを使用した場合、和文はメイリオやヒラギノ角ゴ、欧文はHelveticaやMontserratが適用されます。見慣れたフォントなので違和感がなく、読みやすいデザインになるでしょう。
しかし見慣れたフォントは、デザイン的に注目させるポイントがなく、見た人にこれといった印象を与えられないものでもあります。

例えば、モダンで柔らかく洗練された印象を出したい場合、和文を筑紫A丸ゴシック、欧文をFuturaにするとよいでしょう。同じゴシック体+サンセリフ書体の組み合わせでも、システム標準フォントとは印象を大きく変えることができます。

洗練された高級感のある印象を出すには、和文の見出しに明朝体を取り入れ、欧文もそれに合わせてセリフ書体に変更します。下の作例では、和文に明朝体の中でもよりクラシックな印象のある筑紫Aオールド明朝、欧文にAdobe Caslonを使用しました。

フォントライセンスの問題もクリアに
フォントの選択肢が多ければ多いほど、そのフォントの品質が高ければ高いほど、デザインの表現力は広がり質も上がります。しかし、品質のよいフォントを使用するには、しかるべき手続きと相応の対価が必要です。
もし仮にフォントの使用許諾などのライセンスに違反して使用し、それが発覚すれば、責任や罰則は制作者だけでなくクライアントサイドにも及びます。また、正規の手続きを経て利用する場合にも、その分の追加予算が必要になることにクライアントの同意が必要となります。
Wixにモリサワや、Monotypeといった大手ファウンダリが提供する品質の高いフォントが多数追加されたことの真価は、ここにあります。
Wixのユーザーは個々のフォントライセンスや追加費用を気にすることなく、プロフェッショナルな書体環境を前提にしてデザインに集中できます。これは単なる利便性ではなく、デザインの質そのものを底上げする基盤と言えるでしょう。
Wixで使用できるMonotypeのフォントには、以下のようなものがあります。
左の列からセリフ書体、サンセリフ書体、スクリプト&ディスプレイ書体の代表的なものをピックアップしました。一番右の列は、以前から提供されていた旧フォントワークスの和文フォントの例です。フォントワークスは2023年にMonotypeに買収され、フォントライセンスの管理も統合されており、これらもWixで使用できます。
他にもここでは紹介しきれないほど、Wixで使用できるMonotypeフォントは多数あるので、ぜひ実際に試してみてください。

プロフィール

伊達 千代 さん
株式会社TART DESIGN OFFICE代表/グラフィックデザイナー。メーカーのデザイン室、広告制作会社勤務を経て独立。編集・執筆・大学や企業でのトレーニングも行う。2017年よりフォントかるた制作チームに参加。主な著書は『デザイン・ルールズ[新版]』(エムディエヌコーポレーション刊)『文字のきほん』(グラフィック社刊)など。
文:伊達千代