
結局、AI がデザイン領域で広がりにくい理由はなぜ? デザイナーはAIとどう付き合うかべきか【後編】

もはやAI活用は多くの人にとって避けて通れないものとなっています。デザイナーはAIとどのように付き合っていけばよいのでしょうか。生成AIに早くから取り組んできたプロダクトデザイナーの小木曽槙一さんとエクスペリエンスデザイナーの川村将太さんに、デザイナーのAI活用についてお話をうかがいました。(『Web Designing 2025年12月号』より抜粋)
目次
プロフィール

小木曽 槙一(こぎそ)さん
プロダクトデザイナー
受託制作や事業会社での経験を経て、2020年よりSmartHRでプロダクトデザイナーとして開発・デザインシステム設計を担当。その後生成AIベンチャ
ーを経て、現在はスタートアップの1人目デザイナーとしてプロダクト開発に従事。個人法人株式会社Lumilinksではデザイン組織向けアドバイザリーや教育・AI活用支援、PRやコミュニティ事業を展開する。
https://x.com/kgsi

川村将太(しょーてぃー)さん
エクスペリエンスデザイナー
大学でサービスデザインの産学共同研究に携わり、イノベーション手法を開発・実践。新卒でIT事業会社で7年間UXデザイナーを務めた後、現在は大手自動車IT関連会社で全社AI戦略の策定・推進をリード。並行してデザイナー向けAI研修、教育機関でのAI講義や新規事業アドバイザリーを行い、人とAIの共創による新しい体験設計に取り組む。
https://x.com/shoty_k2
AI がデザイン領域で広がりにくい理由
─デザイン領域では、あまりAI活用が進んでいない印象があります。
川村 生成AIとデザインに関する研修を行う中で、なぜデザイン領域であまりAI活用が加速しないのかヒアリングをしたことがあります。エンジニアなどと比べてデザイナー特有だなと感じるのは、本来は建設的な議論のためであるにもかかわらず、修正が入ると自分自身が否定されたように感じてしまうなど、制作物に自身のアイデンティティを強く投影しがちな点です。
つまり、デザイン領域の作業をAIが代替することに、アイデンティティの喪失やプライドを傷つけられたといった感覚を持ってしまうことが、AI活用が進みにくい一因となっているのではないかと考えています。デザイン組織のリーダーの方から、メンバーにハレーションを起こさずにAI推進をしたいという相談を受け、“カンフル剤”的な役割で講演・研修を提案させていただくこともあります。

─どのように伝えるのですか。
川村 「世の中はAIでこう変わっている」「デザインプロセスにここまで入り込める」といった客観的な事実や可能性を実演を含めて伝えることで、まずは組織内に共通のイメージや言語をつくるんです。そうした土台ができた上でマネジメント層から現場に働きかけると、変化につながりやすくなります。
加えて、知識と実務の間を埋めるため、AIを「遊んで試す」ワークショップも効果的です。AIの体験づくりを通じて楽しさを実感してもらうとともに、AIへの過度な期待や自身の凝り固まった考え方に気づき、ズレを修正することで、自分たちなりの活用法を見つける一歩にしてほしいと考えています。
─リサーチやモックアップ作成などにAIを活用する話は聞くようになってきましたが、そうした作業を効率化できると、デザイナーの方はより質を高めることにリソースを注げるメリットがありそうですよね。
小木曽 それはありますね。人間の創造性を活かすうえで最もわかりやすいAIの使い方かもしれません。
─AI活用が進む中で、デザイナーはどのような役割を担えばよいでしょうか。
小木曽 たとえば、フォーム入力に応じてAIが完全に新しいUIを生成することも技術的には可能です。しかし実際には採用されにくい。なぜなら想定外のUIが出てくるリスクがあり、得られるデータの比較検証も難しくなるからです。現実的には、あらかじめ用意した複数のUIパターンの中からAIが最適なものを選ぶといった形が主流になります。つまり、AIは選択肢や自由度を広げる役割を果たしますが、それをどのように使うのが妥当かを判断するのは人間で、それこそがデザイナーの専門性や価値を生む部分だと思います。
川村 デザイナーは「ユーザー視点の嗅覚」や「美意識」をきちんと持っておかないといけないと思います。
人生を楽しくするためにも効果的にAIを活用する
─AIをうまく活用するコツはありますか。
川村 AIをあまり活用できていない人はAIに指示しか出していなくて、上手に活用している人はAIから自分に指示を出してもらっている違いがあると思います。たとえば「AIがよりパフォーマンスを発揮するために僕にどんな情報を言ってほしいか教えて」と伝えると、AIが必要な情報を能動的に聞いてくれます。特に、知らない分野を探索して学習していくときなどに、有効な方法です。
小木曽 実装寄りの話で言うと、仕様駆動開発が注目されています。最近GitHubがリリースしたSpec Kit1のように、仕様を設計し、それに沿って段階的に開発を進める仕組みを支援するツールのことです。こうした仕組みを使えば、ユーザーが単純な命令を出しただけで、AIが仕様を踏まえて作業を進めるので精度が上がります。

─AIが得意なことは委ねる一方で、人間ならではの価値を発揮するために意識すべき点はありますか。
川村 AIにできない仕事を探そうとする“守りの姿勢”から入るのではなく、まずはAIにどこまで任せられるのかを徹底的に試してみることが大切だと思います。多くの人は「人間にしかできないことは何か」と考えてしまいがちですが、それではAIの可能性を引き出す前に線引きをしてしまい、新しい発想を閉ざしてしまいます。
むしろ「どうすればAIにすべてやらせられるか」を思考実験することで、初めてAIの限界や得意不得意が見えてきます。その上で、自分の思考のロックが外れたり、発想力が鍛えられたりして、AI活用ならではの新しい価値を見つけられるのではないでしょうか。個人的には、生成AIをまず趣味に活かしてみることをオススメします。
小木曽 本当にそう思います。業務だと求める水準が高いがゆえに、AIにやらせた結果にガッカリして使わなくなることが起きやすくなりますよね。
川村 それはありますね。興味を持てることに取り組んでみると、そこで得たノウハウを業務に適応できる場面が出てくるようになります。そうやって使い慣れておくことで、AIで躓きやすい点を自然にクリアしていくほか、勘所を養っていくこともできますし。
小木曽 使うことでAIを活用する筋力がついて、新たな活用方法が浮かびやすくなるのではないかと思います。だから今すぐ業務に直結しなかったとしても、まずは興味の赴くままに触ってみるのが大事ではないかと。そのほうが、きっと人生も楽しくなります。
川村 人生の中で、これだけ仕事の進め方やキャリアが一気に変わるかもしれない状況はなかなかないと思います。せっかくなら、AIでさまざまなトライをしながら、その変革の時代を楽しんでいきたいですね。
取材・文:平田順子
- AIを活用した仕様駆動開発を実現するためのオープンソースツールキット ↩︎