
今、デザイナーはAIとどう向き合うべき? 横断型デザイナーのAI仕事術【前編】

AIで業務を効率化したいけれど、どこから手を付けるべきかわからない。少人数で調査もデザインも実装も回したい。そんな現場の悩みに、企画から開発までを幅広くカバーする「横断型」デザイナー・林貴洋さんの実践から、日々の仕事に効く実践的なAI活用を学びます。(『Web Designing 2025年12月号』より抜粋)
目次
プロフィール

林 貴洋
株式会社LayerX Fintech事業部
三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社(出向)
ソフトウェアプロダクト部 デザイン室 室長
大規模サービスのUX/UIデザインや新規事業の立ち上げを経て現職。採用、チーム運営などデザイン以外の領域にも関与し、幅広いスキルを磨く。現在は金融系サービスのUIを中心に、企画から実装まで横断的に担うマルチロールデザイナーとして活躍している。
企画・分析編:顧客理解に役立つAI活用のヒント
調査から示唆を導き出す:ユーザーの声と行動をAIで読み解く
ユーザーアンケートやアクセス解析といった調査・分析業務は、膨大なデータを扱うため負担が大きくなりがちです。林さんはこうした業務にAIを取り入れ、短時間でユーザー理解を深められる仕組みを整備しています。効率化に加え分析精度の向上も期待でき、サービスの改善につなげています。
❶ユーザーアンケートの作成:ChatGPTで設問をブラッシュアップしユーザーアンケートの精度を向上
私は現在、三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社で、デジタル証券投資サービス「オルタナ」の開発に携わっています。オルタナでは、用意したページやコンテンツが実際にどの程度読まれているのかを把握するため、定期的にユーザーアンケートを実施しています。このアンケートの設計にChatGPTを活用しています。
といっても、いきなりChatGPTに設問を考えてもらうわけではありません。まずは「検証項目」(どんなことを調査したいか)や質問文、選択肢など、質問の原案を自分でスプレッドシートにまとめ、それをChatGPTに読み込ませて過不足や妥当性をチェックしてもらっています。
AIをゼロからのアイデア出しに使うのではなく、自分が用意した8割方の案をよりよく磨いてもらう感覚です。ChatGPTは、まるで「30秒でレビューしてくれる同僚」が1人増えたようで、短時間で設問文をブラッシュアップできます。

スプレッドシートで設問案をまとめ、ChatGPTにレビューを依頼。スプレッドシートをChatGPTに読み込ませる方法はいろいろありますが、操作が手軽なコピー&ペーストを使うことが多いです。
❷ユーザーアンケートの分析:アンケート回答をAIで整理。セグメントごとの傾向を可視化する
ユーザーアンケートは、回収した後が本番です。20問を超える設問、1000件を超える回答を人間が一つひとつ精査するのは大変です。そこで私は、回収結果をCSVに書き出し、ChatGPTに読み込ませて分析しています。あらかじめ「どの切り口で分析したいか」を設計段階で定義しておくことで、セグメントごとの傾向を効率的に抽出できます。例えば「年齢層別の投資スタンスの違い」や「購入申し込み理由の違い」を分析するように依頼すると、サービス改善につながる示唆が得られます。
従来、ユーザー属性別の傾向を調べるには、スプレッドシートで関数やピボットテーブルを駆使していました。しかし、AIを使えば自然言語で処理でき、作業は格段に楽になりました。
また、数字の集計だけでなく「なぜ購入したのか」といった自由回答の要約もAIに任せています。もちろん、レポートにまとめる際はAIが出した要約をそのまま使うのではなく、伝えたい形に編集する作業は必ず人間が行います。
分析結果は、最終的にGoogleスライドにまとめ、社内で共有しています。単なる表や数値だけでは理解しにくいため、セグメントごとの特徴や回答傾向を図やコメント付きで可視化しています。さらに、アンケートの元データやChatGPTのプロンプトもあわせて公開し、「必要なら自由に確認してください」というスタンスを取っています。人によって見たい観点は異なるため、出力元を共有しておくことが重要だと考えています。

CSVで抽出したアンケート結果をChatGPTで分析し、Googleスライドにまとめて共有。
元データやプロンプトも公開し、多様な視点で活用できるようにしています。
❸データをUI 改善に反映:GA4の経路データをAIで解析・反映
Google Analytics 4の「経路データ探索」機能は非常に役立ちますが、樹形図のような表示内容から意味を読み取るのは容易ではありません。そこで私は、経路データをPDFにエクスポートし、それをChatGPTに読み込ませて解析を依頼しています。例えば「ナビゲーション候補を検討中。添付データから配置すべきページを5つ挙げてください」と指示すると、表示すべき候補を整理して提示してくれます。
「PV数の多いページを並べれば十分では?」と思う人もいるかもしれません。しかし、ナビゲーションを考えるときには、実際のユーザー行動を「線」で捉えることが重要だと考えています。例えば「マイページ」画面から「保有資産」→「運用状況」と移動する流れが抽出できれば、「全体を把握したうえで詳細に進みたい」という意図が見えてきます。そういった示唆を得るには、経路データ検索が大変有用だと感じています。
とはいえ、GA4の画面を眺めるだけでは、重要な情報を見逃しやすいのも事実です。ユーザー行動の第1階層にマイページが出てきたときと、2階層目、3階層目に出てきたときをまとめて検討するのは、人の目では難しいと感じています。
デザイナーは、ユーザー体験を重視して設計を行いたいと考えます。ただし、実際に落とし込む作業は容易ではありません。AIを活用することでユーザー行動を可視化しやすくなるのは、とても有意義だと思います。

Google Analytics の経路データをPDFで出力し、ChatGPTに解析を依頼。
得られた示唆をもとにナビゲーション設計を検討しています。
AI時代に問われるデザイナーの進路。林さんの考える「AIとの付き合い方」
AIの活用でデザイナーの仕事の幅が広がる一方、プロダクトマネージャやエンジニアなどもデザインに関わりやすくなりました。林さんは「だからこそ、デザイナーは自分の進む方向を見極める必要がある」と話します。どんなスキルを磨き、どんな役割を担うのか。その選択が問われています。
AIとの付き合い方で意識しているのは、AIにゼロから何かを考えてもらうよりも、自分が用意したものをレビューしてもらったり、壁打ちの相手になってもらったりするほうが最初はうまくいくということです。自分が用意した8割の案をChatGPTに見てもらい、9割、10割へと磨き上げてもらう。まずは、そうした使い方が現実的だと感じています。
AIを使いこなすうえで、最初から高度な活用を目指す必要はありません。インターネット上では先進的なAI活用事例が目立ちますが、実際には「メールの表現を柔らかく言い換える」といった、ごく身近な活用から広げていくのでもいいと思います。
日常的な活用に慣れた先には、より専門的な応用も可能です。例えば、デザイナーもAIを活用することでWebアプリの開発ができます。要件を指示するだけで動くコードが生成され、エラーも修正してくれます。基本的なエンジニアリング知識まで習得できれば、創造の幅は大きく広がります。
そのうえで、デザイナーはスタンスの選択を迫られています。エンジニアリングを深めて、実装まで担えるようにスキルの幅を広げるのか。それとも企画やマネジメントに寄り、チームを動かす方向で力を発揮するのか。AIで可能性が広がった今だからこそ、自分の立ち位置を見定めることが重要だと考えています。

AIの活用によって効率化や新しい挑戦が可能になった今、デザイナーは進む方向を選ぶ必要があります。エンジニアリングに踏み込んで実装まで担うのか、企画やマネジメントに軸足を置いてチームを動かすのか。社内でもしばしば議題にあがっています。
Interview & Text:小平淳一
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