顧客接点をつなぐブランド戦略。SmartHRとStudioが語るWeb運用の現在地

企業が向き合うデジタル領域の課題は、複雑さを増すばかりです。AI活用やCMSの選定をはじめ、制作の内製化、運用体制の見直し、継続的な価値創出、企業にはさまざまな判断が求められています。

本連載では、ノーコードでWebサイトを制作・運用できるプラットフォーム「Studio」を開発・提供するStudio株式会社でCOO(最高執行責任者)を務める吉岡泰之さんが、国内の先進的な企業を訪問。Web運用やWeb戦略における現場の課題や最新動向を探ります。

第2回は、人事・労務領域で多彩なサービスを展開する株式会社SmartHRを訪問。AI時代において、ブランドの信頼性と一貫性をどのように守り、育てていくのか。 ブランディング統括本部でダイレクターを務める森岡つきかさんとの対談を通じて、Webサイトの体験設計と組織づくりの実践に迫ります。

目次

SmartHRとStudioの関係性。一貫したメッセージを届けるという課題意識

──SmartHRとStudioのお互いのサービスの活用状況や印象についてお聞かせください。

森岡つきか(以下、森岡) はい。Studioの印象としては、情報発信のスピードを保ちながら、企業サイトとして不可欠な信頼性をきちんと維持できる、まさにWebサイトを事業の資産へと育てていくための頼もしい存在として捉えています。

吉岡泰之(以下、吉岡)  そうおっしゃっていただけると、とても嬉しいですね。Studioとしても、まだ社員が2名だった創業時の頃から、SmartHRを社内のインフラとして活用させていただいています。SmartHRは、正確性が極めて重要な人事・労務という情報を扱いながら、誰もが直感的に使えるインターフェイスと、人間味のある温かさを宿した、多くのスタートアップにとって参考になるプロダクトだと思っています。

インタビュー中の森岡つきかさん(SmartHR)
インタビュー中の森岡つきかさん(SmartHR)

──プロダクトづくりからコーポレートブランディングまで、SmartHRでのデザイン体制について教えてください。

森岡 実はSmartHRでは、2026年7月にデザイン機能を担う組織のあり方をさらに変更したばかりなんです。私が今、所属しているブランディング統括本部は、それまでマーケティング領域とブランディング領域に分かれていたデザイン組織を統合し、ブランドクリエイティブ本部を設立しました。

もともとブランディング統括本部は、企画から制作までを一気通貫に行うことで成果を高めることを目的に、マーケティング部門とクリエイティブ部門を統合する形で誕生しましたが、それぞれの領域に対するクリエイティブ担当は分かれていました。

顧客に対して「SmartHRというひとつの人格」として一貫したメッセージを届ける必要があるという課題意識をもとに、デザイン組織を統合し部門化した、今回の体制に移行しています。

吉岡 その課題意識には深く共感します。従来の組織構成だと、それぞれが追っている指標や見ている時間軸が異なることで、チーム間に見えない壁や分断が生じやすいですからね。同じひとつのブランドを発信しているはずなのに、顧客へのアプローチが個別施策に分断されているため、ブランド体験がばらばらになりやすい。

ブランディング統括本部として、それらを同じ組織に合流させて「ひとつの体験」として提供されたのは、理想的な決断だったと思います。

──ブランディング統括本部の構成についても教えてください。

森岡 リード獲得を担うサービスタッチポイントマネジメント本部、マス広告や中長期施策を実行するブランドコミュニケーション本部、デザインを専業とするブランドクリエイティブ本部、そしてマーケティング活動に必要なインフラを担うブランドデベロップメント本部の4つからなる組織です。さらにブランドデベロップメント本部には、戦略策定のストラテジー部、データマネジメント高度化のデータソリューション部、自社Webサイトの制作・運用インフラを整備するウェブサイトマネジメント部の3組織を置いており、お客様との最初の接点から導入後まで、一貫したブランド体験を提供しています。

SmartHRブランディング統括本部の組織図
SmartHR ブランディング統括本部 組織図
第2回の対談で同席した、吉岡泰之さん(Studio)と森岡つきかさん(SmartHR)

信頼されるブランドを支える、Webサイト運営と体験設計

──ブランドデベロップメント本部にウェブサイトマネジメント部が設置されている、というお話でした。そうした専門部署を構えている会社が、Webサイトにどのような役割を求めているのでしょうか。

森岡 Webサイトは、訪れたお客様の認識や態度変容を促す重要な顧客接点です。導入を検討するお客様にとって、Webサイトは企業やサービスを知り、信頼できるかを判断する重要な接点のひとつだからです。

吉岡 成果を出している企業ほど、Webサイトを「事業のエンジン」として仮説検証を繰り返してアップデートしていますよね。一方で、多くの現場では「つくること」自体に追われてしまい、本来最も大切にすべき「顧客体験の改善」に時間を使えていません。ちょっとした変更でもデザイナーやコーダーに都度依頼し、調整に時間が吸い取られてしまっています。

森岡 はい。その「開発待ち」や「外部との調整コスト」による時間的な損失は、マーケティング活動において大きな機会損失になります。

吉岡 おっしゃる通りです。Studioの本質的な価値は、制作にかかる工数やサーバ管理といった周辺業務を引き受けることで、企業の担当者を時間の拘束から解放することにあります。浮いた時間でコンテンツの磨き込みに集中していただき、改善のサイクルを継続的に速めていただく。これこそがプラットフォームの真の役割です。

──生活者(ユーザー)と情報のタッチポイントとして「生成AIエージェントへの問いかけ」が台頭しつつある変化をどう見ていますか。

吉岡 たしかに、これからは入口としてAIが占める割合は増えていきます。たとえば、人事評価や人材育成を支える“タレントマネジメントシステム”について調べたい、となると、検索よりも「AIに直接聞いてみよう」となるユーザーが増えている。つまり、最初の経路が変わってきています。

森岡 私たちも、社内やパートナーのみなさんから「AI向けと人間向けで対策を分けるべきか」と議論を投げかけられることがありますが、掲載する情報の中身をそれだけで変えることは考えていません。

吉岡 HTMLを正しく構造化して機械に対してやさしくつくることと、CSSで美しく整えて人間に対してやさしくつくることは表裏一体です。元のHTMLさえ誠実につくられていれば、機械(AI)も人間も同じように正しく情報をインプットできるため、信頼性の高い一次情報をWebサイトに載せて運営していくという本質は変わりません。

森岡 SmartHRは、システムの裏側でMA(マーケティングオートメーション)を用いたデータマネジメントやシナリオ分岐を動かしていますが、Webサイトやその後のすべての顧客接点においては、常に「信頼できるパートナーとの対話」を感じていただけるような、一貫した体験設計を重んじています。流入経路やテクノロジーが変わろうと、届ける価値そのものが揺らぐことはありません。

インタビュー中の吉岡泰之さん(Studio)
インタビュー中の吉岡泰之さん(Studio)

──SmartHRというブランドを守るためのガバナンスについては、どのように工夫されていますか。

森岡 人事・労務管理領域は、正確性への要求が特に高く、小さなミスひとつからブランド全体の信頼を損なう可能性があります。センシティブなデータを扱うからこそ、圧倒的な信用と誠実さが欠かせません。安全性はもちろん、お客様の使いやすさ、ひいては信頼につながるアクセシビリティへの対応には、常にきめ細やかな配慮をしながら取り組んでいます。

──自社のWebサイトでも、同様のアクセシビリティを求めているのでしょうか?

森岡 はい。たとえば、自社サービスサイトのトップページにおける共通ヘッダーのグローバルナビゲーションは、キーボード操作だけでも不自由なく動かせるように配慮を施しています。「SmartHR ACCESSIBILITY」特設ページに掲げている理念を元に、どのような方でも迷わずに必要な情報にアクセスできるような世界を目指しています

吉岡 キーボード操作でのアクセスのしやすさは、Webアクセシビリティの基本であり、最も大切なポイントのひとつですよね。Studioでもアクセシビリティの解説ページやチェックシートの提供を行い、やさしいデザインを実現できる環境づくりに力を注いでいます

「相談相手としての“AIバディ”」は組織をどう変えるか

──では、丁寧な「コミュニケーション設計」とスピーディな「施策実行」とを両立させる仕組みづくりについては、いかがでしょうか。

森岡 さまざまな成果物に対して、これまではすべてを人間がレビューしていましたが、属人化やキャパシティの限界が来るため、2026年7月の組織改変からはよりシームレスで、判定にブレが生じない仕組みづくりを進めています。

吉岡 とても興味深い動きです。人が担ってきたレビューを、デジタル技術でどこまで支援、標準化できるか。 多くの大企業が直面している転換期である、と感じています。

森岡 外部パートナーが増えるにつれて、ブランドの価値観や判断基準をチームに共有し、理解してもらうことがコストボトルネックになってきます。「SmartHRならどんな言葉遣いでお客様に情報を届けるべきか」「こういうデザイン表現は誠実さに欠けるのではないか」といったブランドの判断基準をAIが参照できる形で整理し、作業の代行だけでなく相談相手としての「バディ」となってリアルタイムに判断を支援してくれれば、一人ひとりがその場で高い基準で判断し行動するカルチャーが実現できるはず、と期待しています。

──そうしたAIや標準化された判定がどれだけ進化しても、最終的にはそれを扱う人間のスキルや視点が重要になります。これからのWeb担当者やマーケティング担当者には、どういったことが求められるとお考えですか。

森岡 ひとつは、見た目を整えて迅速につくれるだけでなく、事業や顧客を深く理解したうえで自ら提案できる力だと思います。もうひとつは、最新情報を冷静に見極め、「基本を守っていれば、対策を大きく変える必要はない」といった安心感のある見解を社内に示せる専門家であることです。

吉岡 本連載第1回のLINEヤフー・小林謙太郎さんとの対談では、再現性のある作業をシステムやAIに任せ、人間はブランドならではの価値を生み出す領域に集中する、という役割分担について話しました。森岡さんのおっしゃる「相談相手としてのAIバディ」や専門家としての軸は、まさにこれからの理想形を示しています。

インタビュー中の吉岡泰之さん(Studio)と森岡つきかさん(SmartHR)
吉岡泰之さん(Studio)と森岡つきかさん(SmartHR)

──専門的な課題や制約を、もしプラットフォームが引き受けてくれるなら、企業にとっては心強いことですよね。

吉岡 フォントライセンスひとつとっても、企業が自社で正しく運用しようとすると複雑な手続きやコストが発生します。ですが、それらにまつわる国際規格やアクセシビリティの基準をStudioが裏側で押さえていれば、お客様は余計なノイズにリソースを割かれずに済みます

森岡 今のご指摘は、まさにSmartHRが目指す「働くすべての人が使いやすい」世界と重なります。お互いに頼るべき専門領域を信頼して任せ合い、それぞれの得意なドメインに集中できる関係性こそが、誠実で豊かな社会につながっていくのだと思います。

吉岡 おっしゃる通りです。そうした有機的な役割分担を築いていくことこそが、僕たちの目指す姿であり、企業のWeb戦略、さらには創造性を活かせる社会を切り拓く一歩になると確信しています。

取材・文/長谷川智祥、写真/黒田 彰、企画協力/Studio株式会社
※本記事はStudio株式会社とのタイアップ企画です。

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