
AI時代に問う。業界の外にも伝わるBtoBサイトのつくり方──エイトブランディングデザイン・西澤明洋が語る「ユポ」のWebリニューアル
Webサイトとブランディングの深い関係について解説していく本連載。第5回は、合成紙メーカーとして知られる株式会社ユポの事例を紹介します。投票用紙や選挙ポスター、食品のラベル、屋外広告など、身の回りで幅広く使われている合成紙「ユポ」は、2026年のリブランディングにあわせてWebサイトを全面刷新しました。
AI時代のBtoBサイトをどのように設計したのでしょうか? ユポのブランディングを手がけたエイトブランディングデザイン・西澤明洋さんに話をうかがいました。
目次
BtoB企業らしくない「明るい」Webサイトに
ユポの合成紙と言えば、「投票用紙に使われている、独特な書き心地の紙」として知る人ぞ知る存在です。印刷物を扱うデザイナーにとっては、水に濡れても丈夫な紙として利用したことがあるかもしれません。2026年7月、株式会社ユポ(旧社名:株式会社ユポ・コーポレーション)がリブランディングを実施し、Webサイトをリニューアルしました。
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リニューアル後のWebサイトのトップページには、企業のコンセプト「Value Co-Creator」というメッセージが大きく表示されています。ブランドロゴにも使われているオレンジ色を基調とし、温かみのあるデザインが印象的です。

文字が太字のサンセリフ体で収まり、オレンジ色の有機的な輪っかが取り囲む形をしています。この輪っかは、自由に拡がりさまざまな相手とつながっていく様子を表したものです。印刷物では静止した形で使われますが、Webサイト上ではクリックすると弾けるように動いたり、カーソルを乗せるとわずかに揺らいでいたりと、動的な演出が加えられています。


「BtoBの会社は、どうしてもカチッとした硬い印象になりがちです。“Value Co-Creator”というコンセプトを掲げる以上、単なるモノづくりの会社ではなく、いろいろな人と積極的にコラボレーションしていく、生き生きした会社に見えてほしかったのです」(西澤明洋さん・以下同)
サイト全体のアイコンにも、丸みを帯びた立体的なフォルムを採用。これは、製品や製法の解説は専門的な情報になりやすいため、ビジュアル面で親しみやすさを持たせる狙いからです。
また見出しの意匠も、ロゴと同じ長方形の枠に白抜きの文字を収める形で統一。「SOLUTION」「CASE STUDIES」といった英語の見出しが、どのページでも同じトーンで繰り返されています。

あえてターゲットは定めず、業界外の協業の可能性を探る
前回の連載では、医療器材の再生処理ブランド「SALWAY」の事例を紹介しました。SALWAYは、医療機関で再生処理に携わる人たちという極めて限定的な層を第一のターゲットとし、Webサイトを専門メディアとして機能させる設計でした。
一方、今回のユポは、意図的にターゲットを明確には設定していません。もともと、合成紙というニッチな分野でのグローバルトップという立ち位置を獲得していたにも関わらず、今回のリブランディングを通じて、あらゆる産業において協業の可能性を探していく方向に舵を切ったからです。
「ユポの製品は、呼称としては“紙”ですが、実質的には“フィルム”です。合成紙という枠にとどまらなくても、使い道はもっとあります。フィルム市場という視点で見れば、これまで接点のなかった企業とも、新たな関係を築いていける余地があるはずなんです」
だからこそユポのWebサイトは、あらゆる経路から見つけてもらえることを意識して、設計されています。特に紙だけではなく、フィルム素材を必要としている人たちに、ユポという選択肢に気づいてもらうことを目指したのです。
どの経路からでも製品にたどり着く設計
本連載では、企業やブランドのWebサイトには「パンフレット」「専門雑誌」「意思決定支援ツール」の3つの役割があることを、たびたび触れてきました。多様なスペックの合成紙を扱うユポの場合、Webサイトで特に重視されるのは「パンフレット」としての機能ではないでしょうか。
ユポの製品ページを見ていくと、4つの探し方(「製品」カテゴリーから探す、用途から探す、機能・特徴から探す、タグや製品名・品番から探す)が用意されています。どの経路をたどっても、最終的には個別製品の詳細ページに着地します。

製品カテゴリーには、多用途に使える基本の「スタンダード」、表面の仕上げに特徴を持たせた「テクスチャー」、糊面適性や貼って剥がせる機能を備えた「ラベル」といったラインナップが並んでいます。これらは、今回のリブランディングで再設計された分類です。商品そのものは変わったわけではなく、並べ方と分類を変えて、素材としての特徴が見えるように改めたのです。
製品カテゴリーの下には、用途別の分類が示されています。「広告・プロモーション」や「出版物・文房具」といった大分類に続いて「屋外広告・ポスター」「地図」など、実際の用途が示される設計です。

さらには、機能別の製品分類ページも用意されています。「デジタル印刷対応」「改ざん防止」「吸着」のように、用途ではなく具体的な機能をキーとした分類です。

「検索の入口が1つにならないように設計しました。たとえば、合成紙やフィルムに詳しくない人には『広告で使いたい』『屋外で利用したい』などの用途が入口になるでしょうし、印刷素材を使い慣れた人には『改ざん防止』や『吸水』など特殊な機能をもった素材という観点で検索する可能性があります。さらに、ユポをよく知っている人なら製品番号から直接検索することもあるでしょう。つまり、利用者ごとに異なる検索行動を想定し、それぞれに対応した導線を用意しています」
秘密にしていた技術を公開する
続いて、製品の個別ページを見てみましょう。
品名や品番、特徴やスペックなど、商品カタログとして基本的な内容が並んでいます。そのなかで注目したいのが「素材構成」です。

ユポは、多層構造のフィルム素材です。特許にも関わることから、これまで素材構成は基本的に秘密でした。それを今回、「基層」「ラミネート層」「独自処理面」といった単位に分解した図解をWebサイト上に初めて公開し、3~7層の多層構造であることをはっきりと示したのです。
「他社とのコラボレーションを推進していきたいなら、製品情報を積極的に開示する方針へと転換すべきとなったわけです。技術者同士で話すと、『この製品のこの部分を、自社用途向けにカスタマイズできないか』といった具体的な検討から始まるはずです。そうするためには、情報が漏れるのを怖がらず、むしろ公開して新しい顧客やパートナーとの接点を生み出していく。リブランディングによって、その方向へと舵が切られたのです」
ユポの英断を伴う技術開示は「社内でも議論の分かれた論点だった」と言います。その結果、思わぬ波及効果を得ます。
「対外的な開示が、かえって製造現場で働く方たちのモチベーションを上げたそうです。以前は、手間のかかる工程を経て生産している事実自体を話せなかったけれど、いまは胸を張って言えるようになった。自信をもって製品づくりに携わるみなさんにとって、とりわけ嬉しい変化に受け止めてもらいました」
散らばっていたコンテンツを再設計
ユポでは、以前からデジタルマーケティングにも取り組んでおり、各社の採用事例や、用語解説を行う「ユポラボ」などの記事コンテンツを蓄積してきました。ただし、これらのコンテンツは複数のサイトにまたがり、散らばってもいました。
「以前のWebサイトは、コーポレートサイト、サービスサイト、グローバルサイトの3つに分かれていました。商品そのものの情報や企業の歴史などがコーポレートサイトにあり、事例やお役立ちコンテンツはサービスサイトにあるといったように、バラバラで運営されていました。これではブランドとしての情報プラットフォームとして不便だし、SEO・GEOの観点でも不利でした。そこで、散らばったコンテンツを統合し、同じドメイン上に整理していきました」


もちろん、蓄積してきた記事を統合すればリニューアル完了ではありません。時間経過によって古くなったり、ファクトが変わった情報もあわせて更新。人間にもAIにも、有益な状態へと変えていきました。特に、Web上の情報を整理し直す過程では「AIによる検索も強く意識した」と、西澤さんは補足します。
「検索する人の事情や状況に応じて、どういった製品が各場面にフィットするのかをAIは提示します。製品スペックを記載するだけでは、AI検索にはヒットしないのです。用途説明やQ&Aを個別ページ内に設置し、さらに実際の利用事例ページからリンクしていく。情報を構造化することで、その製品がどのような場面で役に立つのかが伝わりやすくなります。単純に情報を集約するだけではなく、製品と用途、利用者側の課題や利用事例を関連づけて伝えることが大切です」

もちろん、こうした情報設計はAIや検索だけを意図したものではありません。ユポの多層構造を説明する図解イラストは色分けされて読みやすく、用途を紹介する写真も丁寧に整えられています。


「当たり前ですが、まずは人がわかるように設計しています。人が見て、わかりやすい状況をつくるのが第1段階で、そのうえでAIにも正しく伝わるようにする。順番が逆になることはありません。
Webサイトを構成する要素は、整理された情報だけではありません。曲線的なロゴマークや、オレンジ色を基調とした『何だか楽しそう』と感じさせるサイトデザインは、閲覧する人の気持ちに訴えかけます。AIや検索エンジンのことだけを考えると、こうした要素は不要でも、人に選ばれるためにはこうしたデザインも欠かせません」
業界の外に伝えることが、採用力を高める
BtoB企業のWebサイトのほとんどは、「業界の人がわかればいい」という前提で設計されがちだと、西澤さんは言います。
「だからこそ、メッセージを業界だけに閉じずに発信してほしい。知識のない一般人がWebサイトを見たとき、もし何をしている会社かがわからないなら、そのWebサイトは機能していないのと同じです」
また、BtoB企業の大きな課題のひとつに西澤さんは「人材採用」を挙げます。すでに認知されているBtoC企業と比べると、BtoB企業は採用面での競争力に差が出やすいからです。
「採用サイトでは、社員の働き方を紹介することはもちろん大切です。しかし、それ以上に意識してほしいのが、本業をわかりやすく伝えること。よくわからない会社で“働きたい”とは思いませんよね?」
「業界の外」に届くBtoBサイトづくりを考える
ユポサイトは、現状はリニューアルから日が浅いものの(2026年9月現在)、WebサイトのPVは緩やかに増加し、ページの回遊性も上がっているそうです。
「本来のリニューアルの成果とは、Webサイト経由での問い合わせが増えて、実際に他社とのコラボレーションが成立することです。そこはまだこれから、という段階になります」
ここまでの話を通して西澤さんは、BtoB企業のWebサイトこそ、業界とは関係ない人にもわかりやすい構成が大事だと伝えてきました。最後に総括をうかがうと、「『誰にでもわかる』を目指さないと、成果を導くBtoBサイトは制作できない」ことを強調します。
「今まで通りの視野でリニューアルを進めると、結局は既存の状態をきれいに整えただけのデザインになりかねません。まずは、業界外の素人目線を意識して見つめ直し、考える必要がある。『従来の製品ラインナップの整理では、一部の人にしか伝わらないのではないか?』『もっとわかりやすく製造工程を解説できないか?』と、根本的に問い直す制作が重要なのです。僕は『ブランディングは伝言ゲーム』とよく言っているのですが、『わかる人にはわかるサイト』のままでは、企業の魅力が対外的に『伝言ゲーム』していくことはないのです」
業界の外にも伝わるようなWebサイトを生み出すには、Web制作者が相手のビジネスをどこまでも深く理解すること、にかかっています。
「特に、成果を導くBtoB企業サイトをつくりたいなら、見た目を整えた表面的なデザインでは通用しないのです。つくり手の一歩目は、まず自分自身が心底納得するところまで相手のビジネスを理解すること。そして、それを誰にでもわかりやすく表現すること。これに尽きます」
プロフィール

西澤 明洋(にしざわ・あきひろ)
ブランディングデザイナー
株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行う。リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、スキンケア「ユースキン」など。著書に『ブランディングデザインの教科書』(パイ インターナショナル)ほか。特集書籍に『西澤明洋の成功するブランディングデザイン』(誠文堂新光社)がある。日経スペシャル「カンブリア宮殿」出演。https://www.8brandingdesign.com/
取材・文:藤井亮一