働く人を応援するために、Webサイトができること──エイトブランディングデザイン・西澤明洋が語る「SALWAY」のブランディング

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Webサイトとブランディングの深い関係を追う本連載。第4回は、医療器材の再生処理プロダクトブランド「SALWAY(サルウェイ)」の事例を紹介します。2023年に医療機器を輸入・販売する株式会社名優がブランドを立ち上げてから、開始前と比べて3年で売上が139%、主力商品の新規顧客受注数は283%と大幅に増加。また、2024年度グッドデザイン賞「金賞」や日経クロストレンドの「BtoBマーケティング大賞2024」を受賞するなど、大きな成果を上げています。SALWAYのWebサイトについて、ブランディングに携わったエイトブランディングデザイン・西澤明洋さんに話を聞きました。

目次

ブランドコンセプトは、
「日本の再生処理を『再生』する」

「SALWAY」というブランドを知っている読者は、ほとんどいないでしょう。医療機関の診療や手術などで使用された医療器材を滅菌し、安全に再使用できるようにする「再生処理」に関する製品のブランドがSALWAYです。

SALWAYをブランドとして立ち上げた株式会社名優では、BtoB事業として医療機関向けに洗浄用ブラシや滅菌用器材など、再生処理に関する幅広い製品を以前から扱っていました。それまでは個別の製品ごとに販売していましたが、これらをSALWAYという新ブランドに集約したのです。

Webサイトを開くと、落ち着いた深い青色が広がり、黒いボールド書体による力強いロゴや、スタイリッシュなキービジュアルに「日本の再生処理を『再生』する」というブランドコンセプトが印象的に目に止まります。

SALWAYサイトのトップページ画像
SALWAYサイトのトップページ

製品ラインナップを言語化することで、自社の強みを可視化した

連載第1回では、Webサイトには「パンフレット」として企業や商品の情報を宣伝する役割と、「専門雑誌」としてユーザーに役立つ知識を提供する役割、「意思決定支援ツール」としてユーザーに判断材料を提供する役割の3つがあるとお伝えしました。

現代のWebサイトは、意思決定支援ツールでありながら、専門雑誌としてのナレッジを内包し、パンフレットとしての情報もあわせもつ必要があります。この観点から、SALWAYのWebサイトの構成を見ていきましょう。

キービジュアルの直下には、「SALWAYとは(About)」を説明するテキストと、ブランドムービーが置かれています。

SALWAYサイトの「About」

「BtoB事業のWebサイトでは、『この会社が何を提供できるのか』を最初に見せることが大切です。SALWAYの場合は、再生処理の製品を扱っているだけではなく、『欧州基準に応える』レベルの高い製品だと示しています」(西澤明洋さん、以下同)

SALWAYサイト内で公開するブランドムービーの一場面

さらに画面をスクロールすると現れるのは、「再生処理について」「製品ラインアップ(PRODUCT LINEUP)」というブロックです。ここでは再生処理に必須の4工程「洗浄・組み立て・包装・滅菌」が解説されています。

「これら4つの工程は、以前は言語化されていませんでした。現場で働く方たちも名優の営業の方たちも、再生処理にどのような作業や製品が必要なのかは知っていたけれど、わかりやすく分類されていなかったんです」

SALWAYサイトの「製品ラインアップ」

これら4工程を整理したことで見えてきたのが、名優自身の強みです。名優では以前から「洗浄」工程で使用される洗浄ブラシで、大きなシェアを獲得していました。さらに、最終工程の「滅菌」でも、他社で取り扱いのない高品質な独自商品を扱っていました。

「もともと洗浄ブラシが強く、取引先の病院からは『ブラシの名優さん』と認知されていたようです。しかし実際には、滅菌工程の独自商品もあり、4工程すべてをカバーできる商品を揃えていたわけです。再生処理の入口と出口の両方を軸にしてラインナップを整理し直したことで、『再生処理のすべてを扱うブランド』というSALWAYの立ち位置が明確になりました」

この整理にたどりつくまで、西澤さんもかなりの苦労を要したと言います。

「プロジェクトの最初の時期は、製品説明を聞いてもほとんど理解できませんでした。ただ、素人の視点で見つめ直すからこそ、顧客に伝わりやすいコミュニケーションが実現できます。『自分なら、この説明でも理解できる』と思えるレベルまで専門知識を噛み砕いて表現することが大切なのです

動画とオウンドメディアで営業活動を補完する

あらためて、Webサイトの構成に視点を戻しましょう。

SALWAYとは何なのか、再生処理とはどういうものか、どんな製品が必要なのか。そうした基本的な情報の下に「動画ギャラリー」があり、製品の使い方などを解説した短い動画が掲載されています。

SALWAYサイトの「動画ギャラリー」に用意されている「製品解説動画」

「名優は小さな会社で、数名の営業担当者で日本全国をカバーしています。そこで、オンライン上でも営業活動ができるように、文章や写真だけでは使い方のわかりにくい製品の解説動画を制作しました。BtoCのプロダクトなどではよく見かける類の動画ですが、この業界では誰もつくっていなかったのです」

動画ギャラリーの下には、2種類のオウンドメディアからのピックアップ記事(「INTERVIEW」「JOURNAL」)が掲載されています。

ひとつは、医療現場で働く人たちや専門家へのインタビュー記事。なぜ再生処理の分野で働くようになったのかなど、働く人の思いに焦点を当てた内容です。

SALWAYサイトの「JOURNAL」内のメニュー「再生処理の現場」
「JOURNAL」内のメニュー「再生処理の現場」を、「INTERVIEW」として独立化しています

もうひとつは、再生処理にまつわる知見を解説する記事。こちらはSEOとAI検索の両方を意識しながら、業界最先端の情報を数多く掲載しています。

「JOURNAL」のカテゴリ一覧画面(再生処理の知識、再生処理の現場、コラム)
「JOURNAL」には、「再生処理の知識」「再生処理の現場」「コラム」といったカテゴリと、それぞれのコンテンツが用意されています

「インタビュー記事は、プロのライターとカメラマンが入って制作しています。雑誌で言えば特集記事のようなものですね。ジャーナル記事は、名優の社員の方たちが書いています。僕らは書き方のノウハウは教えていますが、実際に書くのは製品知識の豊富な、社員のみなさんです。だからこそ、高いクオリティの記事を量産できています」

本サイト内のコンテンツいずれにも言えるのが、医療に関する情報であるため、通常以上の正確さが求められます。SALWAYのオウンドメディアでは、学術的な情報の裏づけなども含めて、徹底的なリサーチを経て記事を公開しているそう。公開すれば終わりではなく、定期的に記事の内容を見直して更新することも心がけています

どこでブランドと出会っても、期待を裏切らない

BtoBのビジネスでは、展示会などへの出展も顧客との接点として重要になります。再生処理の分野では、医療シンポジウムなどに合わせて年間数十回も展示会が開催されます。

SALWAYの展示会の様子
SALWAYの展示会時の様子より

「出展ブースのデザインも、しっかりとつくり込んでいます。再生処理の4工程とそれに紐づく製品を展示するなど、Webサイトと同じ内容を伝えられるように設計する。こうした顧客接点を丁寧にデザインしていくことでSALWAYの全体像がきちんと伝わり、売上に直結していくのです」

この連載で紹介してきた産泰神社(第2回)釜浅商店(第3回)の事例では、「Webサイトを見たときの期待感と、実際に訪れたときの体験を一致させることが大切」だと確認しました。BtoB企業の場合には、ブランドと出会うタイミングは「展示会で興味をもち、その後でWebサイトにアクセスする」という順番になることもあります。

どの接点からそのブランドに接触しても、期待を裏切らないことが大切です。展示会などを通してSALWAYを知った人が、Webサイトにアクセスしてさらに詳しいコンテンツに触れて、しっかりとファンになってもらうことを目指しています」

印刷物のクオリティや統一感もおろそかにはできません。

SALWAYの紙カタログ
紙のカタログも、Webサイト同様にきちんとつくり込まれています

「紙には紙の良さがあります。複数の情報を比較するときなどは、紙をペラペラめくりながら見たほうがWebよりもわかりやすいですよね。また、よく必要になるものは、Webをわざわざみなくても常に手元にカタログがあったほうが便利です。印刷された紙のカタログの効果は、依然として高いです」

現場で働く人の「応援団」としてのブランドサイト

ここまでSALWAYのブランドサイトを見てきましたが、読者のみなさんの中には、このような疑問をもった方もいるのではないでしょうか。

「このブランドを利用する可能性があるのは、医療機関などで再生処理に携わる人たちで、非常に限定的なはずですよね? ターゲット層の狭い専門領域についてのBtoBブランドにもかかわらず、これほどスタイリッシュでカッコいいWebサイトをつくる理由があったのでしょうか?」

その答えは「再生処理の現場で働く方をチアアップしたいから」だと、西澤さんは語ります。

「再生処理は、病院内での感染事故などを防ぐ重要な業務です。しかし残念ながら、医療関係者のあいだでさえ認知度が低い状況にある。SALWAYは、再生処理の現場で働く方々のモチベーションに貢献したいと考えています。つまり、自分たちの製品が売れるだけではなく、この業界全体の地位を向上させたいんです

再生処理の分野には「業界紙(業界誌)」にあたるメディアが存在しなかった、と言います。SALWAYのブランドサイトは、その専門メディアとしての役割を引き受けることで、業界全体を盛り上げることも目指しているのです。

「再生処理に対する正しい理解やリスペクトがなければ、たとえば、必要な備品も買ってもらえないかもしれません。再生処理の現場は、病院組織の中でもコスト削減の対象になりやすい部門。だからこそ、現場で働く人たちの姿や意志を魅力的に伝えていく応援団になろう! と考えたわけです」

西澤さんは、SALWAYのブランドとしての浸透を3段階で捉えています。

「まずは現場で働く人たちにSALWAYを届けること。次に、医療関係者に再生処理の重要性を知ってもらうこと。そして最終的には、一般の人にもその重要性を知ってもらうことです。今はまだ、第1段階から第2段階にようやく入り始めたところですね。最終的には、一般の人が病院を選ぶときに『SALWAYが導入されているか』を判断材料にするような状況をつくりたいんです」

Webサイトは「ブランドのプラットフォーム」

SALWAYがスタートしてから開始前と比べて3年で、製品全体の売上は139%も増加し、主力商品の「コンパクトPCD」の新規顧客の受注数は283%に増加という大きな成果を上げています。この成功を受けて、運営会社である名優もリブランディングを行いました。ブランドカラーやデザインのトーンがSALWAYに揃えられて、「SALWAYの名優」と関連づけが生まれる設計です。

名優コーポレートサイトのリニューアル前後比較
名優のコーポレートサイト。左はリニューアル前、右はリニューアル後。SALWAYサイトとデザイントーンが揃っています

また、SALWAYのブランドサイトのアクセス数は、月間約3.5万PV。日本国内で再生処理業務に携わる滅菌技士が、およそ1万人と言われる中、業界の規模を考えるとかなりの浸透率と言えます。

ただし西澤さんは、PVだけを目的にしてはいないと釘を刺します。

「Webサイトだけでは営業活動は完結しません。SEO対策や生成AI対策はもちろん頑張るけれど、このブランドを必要としている方に製品を確実に届けることが本質です。企業活動全体のコミュニケーションを活発化するためのハブとして、Webサイトを機能させていくイメージですね。こうしたSALWAYのブランディングに関しては、名優の山根貫志会長、山根優一社長と一緒にブランディングの過程を振り返った『SALWAYというブランドが生まれるまで』と生放送学習コミュニティ「Schoo(スクー)』さんとの共同企画セミナー『医療業界に問題提起!医療プロダクトのブランディング「SALWAY」』という、弊社Webコンテンツもあわせてみていただけると、よりブランディングの理解が深まると思います」

紙のカタログや展示会、商品解説動画や専門的な記事など、個別の施策ひとつひとつをつなげることで、複合的な効果を生み出していく。まさにWebサイトは「ブランドのプラットフォーム」です。

そして、ブランドサイトの役割は、そのブランドを紹介するだけでありません。働く人たちを誇らしくし、仕事の価値を社会へ伝えるメディアにもなりえます。それは、長期的には業界全体の価値を高め、自社の企業活動の成長にもつながるでしょう。SALWAYのWebサイトは、その可能性を力強く示しています。

プロフィール

西澤 明洋(にしざわ・あきひろ)
ブランディングデザイナー

株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行う。リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、スキンケア「ユースキン」など。著書に『ブランディングデザインの教科書』(パイ インターナショナル)ほか。特集書籍に『西澤明洋の成功するブランディングデザイン』(誠文堂新光社)がある。日経スペシャル「カンブリア宮殿」出演。https://www.8brandingdesign.com/

取材・文:藤井亮一

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