「Webデザイナーはググるな!」エイトブランディングデザイン・西澤明洋が語る、「他とは違うWebサイト」のために必要なこと

AIが検索を代替し、SNSや動画サイトが存在感を増す今、「Webサイトをつくる意味」をあらためて問い直す人も多いのではないでしょうか。クラフトビールCOEDOや、抹茶カフェnana’s green teaなど、数々のブランディングデザインを手がけるエイトブランディングデザイン代表の西澤明洋さんは、「Webサイトは、企業コミュニケーションのプラットフォームとして、これからも重要であり続ける」と語ります。

Webサイトとブランディングの深い関係を追う本連載。初回は、AI時代にWebサイトはどうあるべきかについて、西澤さんに聞きました。

目次

それは「リブランディング」か、それとも「リニューアル」か

Webサイトの制作やリニューアルについて相談を受けたとき、西澤さんがまず確認するのは、その依頼が本当の意味での「ブランディング」を求めているのか、という点です。

ブランディングを端的に定義すると、「差異化」であると西澤さんは言います。それは単に見た目が違っているということではなく、そのブランドの商品やサービスが「他とはどう違うのか」を正しく伝えることが大切です。

「周年事業でロゴやWebサイトをリニューアルしたい、という相談を受けることもありますが、そうした依頼はエイトブランディングデザインとしてはお断りしています」(西澤さん、以下同)

ロゴやパッケージ、Webサイトなどの見た目を刷新することは、VI(ビジュアル・アイデンティティ)の更新であり、それはブランディングを構成する一要素にすぎない、と西澤さんは強調します。西澤さんが本当に取り組みたいのは、その企業の商品やサービスを「差異化」し、それが「他とはどう違うのか」を正しく伝えることです。

「ブランディングデザインとは、企業や商品の価値を高めるために、経営戦略や商品企画などのブランドの根幹から設計し、それが正しく伝わるようロゴやパッケージ、Web、店舗、広告など、顧客接点となるさまざまなデザインを一貫してつくり上げることです。僕たちはこれを『ブランディングデザインの3階層®』で整理しています」

エイトブランディングデザインの公式Webサイトより抜粋

企業活動を「マネジメント(M)」「コンテンツ(C)」「コミュニケーション(C)」の3層に分けて捉え、各階層に縦串を通して一貫性をもたせることが、ブランディングデザインです。

ロゴやWebサイトは、あくまでも「コミュニケーション」層の一部の話です。その上位にある経営戦略(マネジメント)や商品やサービス(コンテンツ)と切り離し、デザインだけを考えても、本質的なブランディングはできない–––––それが、ブランディングデザイナーである西澤さんの立場です。

Webサイトの役割は「パンフレット」から「意思決定支援ツール」へ

Webサイトの役割は、時代と共に大きく変化してきました。従来のWebサイトはパンフレットのような存在でしたが、検索エンジンの精度向上に伴い、専門雑誌のような性質が求められるようになったと西澤さんは指摘します。

  • パンフレット(〜2010年代前半):企業情報や商品情報をオンラインで閲覧できるようにする宣伝媒体。Flashなどを使った豊かな表現が多用された時代。
  • 専門雑誌(2010年代半ば〜):検索エンジンの精度向上と共に、自社の宣伝だけでなく、オウンドメディアとしてユーザーに役立つ知識を提供することが求められるようになった時代。
  • 意思決定支援ツール(現在):AIの普及により、ユーザーが「これだ」と選ぶための判断基準を提供することが求められる時代。

ただし、新しいフェーズへ移行したからといって、以前の機能が不要になるわけではありません。現代のWebサイトは、意思決定支援ツールでありながら、専門雑誌としてのナレッジを内包し、パンフレットとしての情報も併せ持つ必要があります。

「例えばブランディングデザイン会社のWebサイトであれば、自社の実績紹介や宣伝だけを掲載するのではなく、ブランディングデザインについての知識を得られるコンテンツを揃えていく必要があります。このトレンドが続いていましたが、AIの普及によって次のフェーズが始まっています」

AI時代に求められる情報とは?

AIを使って調べたり、考えを整理したりするとき、人は何らかの意思決定をしようとしている––––––西澤さんはそう指摘します。「意思決定ツールとしてのAIに参照されることが、今後のWebサイトにとって求められる」というのが、西澤さんの仮説です。

では、AIに参照されるWebサイトには何が必要なのでしょうか。その答えも、やはり「差異化」です。

デザインにおける差異化というと、「カッコよく目立つ」「刺激的な表現でバズる」といった意味で捉えられがちですが、大切なのは中身(コンテンツ)だと西澤さんは言います。ブランディングデザインにおける差異化とは、「他とはどう違うのか」というブランドの本質的価値を正しく伝えることにあります。

「似たような情報が他にも見つかるようなWebサイトは、情報としての価値は高くないでしょう。他にはないオリジナルな情報があるからこそ、検索エンジンにもAIにも選ばれるはずです。そしてそれは、そもそも人間(ユーザー)が欲している情報なのです」

差異化された情報は、人から人へと伝わりやすくなります。見た人が誰かに話したくなり、SNSでシェアしたくなる。西澤さんはこれを「伝言ゲーム」と呼びます。

「他とは違うから、誰かに教えてあげたくなる。他とは違うから、検索エンジンが上位に表示する。他とは違うから、AIが情報ソースとして採用する。ブランディングの差異化とSEO対策やAI対策は、実は同じことなんだと思います」

ブランディングの基本である「差異化」と「伝言ゲーム」の考え方は、AI時代のWebサイトにとっても本質的な戦略になるのです。

「Webデザイナーはググるな!」

商品やサービスの本質的な価値を見つけるためには、まずヒアリングが不可欠です。

「Web制作時にはクライアントへヒアリングを実施すると思いますが、広報や経営企画などのWeb担当者だけでなく、営業や製造部門など現場の人たちに話を聞くと、ヒントが見つかるはずです。ヒアリングする相手を広げることで、商品やサービスの価値に気づきやすくなります」

ヒアリングの延長として現場へ足を運ぶことは、差異化要因の発見だけでなく、Webデザインの着想源にもなります。

「たとえば、実際の店舗が木目のきれいな内装だったら、その雰囲気をWebサイトに再現してもいい。入り口に印象的なのれんが飾られていたら、のれんをくぐるグラフィックをキービジュアルにしてもいいですね。

いろいろなデザイナーがバラバラにつくったデザインを、Webデザイナーの視点から観察し、どこから要素を抽出すればWebサイトとしてブランドの独自の表現がつくれるのか考えてみるとよいと思います」

ブランディングデザイナーとして経営戦略や商品企画などの上流工程から携わっていなくても、オリジナリティのあるWebデザインは実現できるのです。

「『Webデザイナーはググるな!』と言いたいですね(笑)。本当に価値のある情報は、現場にあるんですから」

「違い」は簡単には見つからない

ヒアリングした内容を、そのまま鵜呑みにしないことも大切だと西澤さんは言います。長く事業を続けてきた会社ほど、「言語化されていない強み」を持っているものです。その企業にとって当たり前になっている価値観や違いは、単純なヒアリングだけでは引き出せないこともあります。

西澤さんがリブランディングに携わった北海道の老舗食品メーカー・サザエ食品のWebサイトでは、看板商品のおむすびやおはぎを手づくりしている様子が大きく打ち出されています。店舗で手づくりし、そのまま販売していることはサザエ食品の大きな特徴ですが、これも「言われなければわからない」ことであり、「他社との違い」として伝えるべき要素だといえます。

サザエ食品の公式Webサイト

「サザエ食品の商品はとても美味しいんですよ。じゃあ、どうして美味しいのか? どんなふうに美味しいのか? その“美味しさの理由”を消費者は知りたいのに、以前のWebサイトでは伝えきれていませんでした。そうした魅力を、きちんと言語化してWebサイトで伝えるべきなんです」

「他と同じ構造のWebサイト」では差異化できない

一方で、情報が多すぎるWebサイトは、見る人にとってノイズになってしまいます。こだわりを伝えることは大切ですが、情報量が過剰になると肝心な内容が埋もれてしまう。企業やブランドの本質的な価値を伝えるためには、どんな情報を、どんな順序で見せるのかも重要だと西澤さんは言います。

「アイテムの並べ方やカテゴリーの分類方法といった構造的な部分で、競合他社のWebサイトを踏襲しているケースはとても多い。業界標準のやり方よりも、自社の特徴が伝わりやすい見せ方があるのではないかと、掘り下げて考えていくことが必要なんです」

ヒアリングした情報を整理し、他との違いを伝えられる構造を考え抜いて提案したワイヤーフレームは、その段階でもWebサイトの成功を感じてもらえると西澤さんは語ります。

見た目のデザインの差異化からスタートしてはダメなんです。グラフィック表現の独自性だけでは、他との本質的な違いは表現できません。適切に情報を整理し、強みをハイライトさせる情報構造を見つけ出すこと。そうすれば、見た目の表現も、おのずと変わってくるはずです」

Webサイトは「ブランドのプラットフォーム」

XなどのSNS、YouTubeのような動画サービス、noteのようなブログサービスなど、外部プラットフォームでの発信は非常に増えています。それでも自社Webサイトは重要だと西澤さんは言います。

Webサイトはブランドのプラットフォームです。YouTube上の動画へ誘導することもあれば、紙のパンフレットからWebサイトに飛ぶこともあるし、SNSからWebサイトを訪れることもあります。さまざまな情報を取得するうえで、Webサイトは必ず経由する場所です。

だからこそ、マスターとなる情報はすべて自社のWebサイトに格納すべきだと僕は思います。SNSなどの外部サイトに自社の情報資産を預けていても、その価値は自分たちに蓄積されていかないからです」

さらに西澤さんは、Webサイトの目的を2つに絞って考えているといいます。

「企業Webサイトで最終的に求められるのは売上を上げることと、採用につなげること。Webリニューアル後にこれが改善されているかは、当然ながら気にします。Webサイトのおかげで営業担当が売りやすくなったとか、採用担当が仕事をしやすくなったといったフィードバックを、PVなどの数字以上に重視しています」

意思決定支援ツールとしてのWebサイトという観点に立ち返ると、「PVを増やすことだけが正解ではないかもしれない」と西澤さんは言います。ミスマッチな問い合わせが増えても、それは意思決定の役に立っていないのではないか。合わない人には「合わないな」と気づいてもらうことも、今後は必要になるのかもしれません。

ブランディングの目的は「伝えること」です。伝えるとは、口コミで広がることに限らず、検索エンジンやAIに選ばれることも含まれます。現場から掘り起こした「他にはない」差異化された情報を適切に伝えることで、AIにも選ばれ、自社の資産にもなっていく。そしてそれが最終的には、人から人への伝言ゲームに繋がります。

AI時代のWebサイトにとって、ブランディングデザインの考え方は、これからさらに重要になっていきそうです。

プロフィール

西澤 明洋(にしざわ・あきひろ)
ブランディングデザイナー

株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行う。リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、スキンケア「ユースキン」など。著書に『ブランディングデザインの教科書』(パイ インターナショナル)ほか。特集書籍に『西澤明洋の成功するブランディングデザイン』(誠文堂新光社)がある。日経スペシャル「カンブリア宮殿」出演。https://www.8brandingdesign.com/

取材・文:藤井亮一


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