「他を捨てる」ことでブランドは伝わる──エイトブランディングデザイン・西澤明洋に学ぶ、安産祈願にフォーカスしたWeb情報設計

AIが検索を代替し、SNSや動画サイトが存在感を増す今、「Webサイトをつくる意味」をあらためて問い直す人も多いのではないでしょうか。クラフトビールCOEDOや、抹茶カフェnana’s green teaなど、数々のブランディングデザインを手がけるエイトブランディングデザイン代表の西澤明洋さんは、「Webサイトは、企業コミュニケーションのプラットフォームとして、これからも重要であり続ける」と語ります。

Webサイトとブランディングの深い関係を追う本連載。第2回は、群馬県にある「産泰(さんたい)神社」の事例を紹介します。エイトブランディングデザインが手がけたWebサイトリニューアルの後、月間PVは約6倍、参拝者数は141.5%に増加。立地に恵まれない地方の神社がなぜ成長を続けているのでしょうか。神社文化を次世代に伝えていくための戦略と設計思想を紐解きます。

目次

安産祈願の神社のWebサイトが、なぜ13倍ものPVを獲得したのか

群馬県前橋市の「産泰神社」という神社をご存知でしょうか。近隣に住んでいる方には馴染みがあるかもしれませんが、初めて聞く人も多いのではないでしょうか。JR前橋駅から車で20分ほどの田園地帯にあり、「泰らかに産み、育てる」を社訓とする神社です。エイトブランディングデザインが2022年にリブランディングを手掛けました。

産泰神社のWebサイトにアクセスすると、鮮やかでありつつ落ち着いた印象の朱色が画面いっぱいに広がります。ロゴやブランドコンセプトとともにキービジュアルが大きく表示され、洗練された印象を受けます。

落ち着いた朱色と余白で世界観を印象づける、「産泰神社」のWebサイトローディング画面
産泰神社」のWebサイトトップ

サイトリニューアル以前は月間平均1.4万PVだったアクセス数は、2026年には約6倍の8.1万PVまで伸びています。アクセスの集まりやすい1月度のみのPV数では、2022年の3.1万PVに対して2026年は40.5万PVと約13倍に達しました。

実際に神社を訪れる参拝者数も着実に増加しています。2025年度は2022年度と比較して141.5%を達成し、2026年度は同148%を目指しています。

JRの駅から車で20分という立地条件に恵まれない地方の神社が、Webでもリアルでも集客に成功している理由はどこにあるのでしょうか?

「神社離れ」の時代に、100年先を見据えたリブランディング

産泰神社からリブランディングを打診された当時のことを、エイトブランディングデザインの西澤さんは振り返ります。

「産泰神社は、以前から安産祈願で知られている神社で、江戸時代に関東各地から参拝者が訪れていた記録も残っています。ブランディングの視点から見れば、ポジショニングの柱は既にはっきりしている状態でした」(西澤さん、以下同)

神社運営は地域の人々に支えられるケースが多いのですが、産泰神社の場合は各地からの参拝客によって支えられてきた歴史があるといいます。しかし、若い世代の「神社離れ」ともいえる状況を考えれば、長期的な衰退は避けられません。リブランディングの背景には、長い歴史をもつ神社が、時代の変化を越えて、100年先にまで残り続けていく基盤を作りたいという思いがありました。

「僕らの親世代までは神社にお参りするのは当たり前のことでしたが、いまは世の中全体として『神社離れ』が起こっている。それは、神社にまつわる知識や気持ちが継承されていないからだと思うんです。ですから、産泰神社のブランディングというだけではなく、神社そのものをよく知ってもらうことを目指す必要がありました」

産泰神社の境内。境内地全体が文化財指定を受けている

フォーカスするとは「他は捨てる」ということ。安産祈願に特化した経営戦略

西澤さんがはじめに取り組んだのは、「戦略」を決めることでした。神社について「経営戦略」という言い方は不謹慎かもしれないけれどと前置きをしたうえで、こう語ります。

「神社にとって一番の強みとなるのは、お祀りされている『神様』です。産泰神社には「木花佐久夜毘売命(このはなさくやひめのみこと)」という女性神が祀られていて、安産や子育てにとても縁が深い。出産は大きなライフイベントですから、ここにフォーカスすることは自然な流れでした」

さらに、「祈祷を大切にする」ということも目標に設定されました。お参りをして御守りを買って帰るだけではなく、神社の本義である「祈祷」を受ける人が増えていくことを通して、神社の文化や歴史に向き合う人たちも増やしていきたい。これが産泰神社のブランディングの「経営戦略」になったのです。

企業活動を「マネジメント(M)」「コンテンツ(C)」「コミュニケーション(C)」の3層に分けて捉える『ブランディングデザインの3階層®』のフレームワークでいえば、この戦略は「マネジメント」の部分に当たります。

エイトブランディングデザインの公式Webサイトより抜粋

戦略を立て、フォーカスするポイントを決めるということは、逆に言えば「他のことは捨てる」ということだと西澤さんは言います。

「神様はどんなお願いも聞いてくれますが、あえて安産祈願や子育てに絞って伝える。そうやってフォーカスすることで、『誰に何を知ってほしいのか』がはっきりしてきます」

安産祈願にフォーカスするのですから、届けるべきターゲットは20代〜40代の女性になります。妊婦さんに祈祷に来てほしいのですから、駐車場や参道を歩きやすく整備したり、真夏や真冬などでも快適に過ごせる祈祷殿を新築したりといった環境整備も行われていました。

次に行われたのが「コンテンツ」のデザインです。この「コンテンツ」とは、商品やサービスのこと。神社であれば、参拝や祈祷といった体験や、御守りなどの授与品がコンテンツにあたります。

オリジナルデザインに刷新された御守り。「安産」「金運」といった直接的な言葉は表に出さず、図柄のモチーフや色に意味を込めたデザインになっている
授与品は、カラフルでかわいらしいデザインとなっている

「ロゴマークや御守りのデザインも、訪れていただきたい方に相応しいように考えています。神社の歴史の厳かさを表現しながら、女性神や安産・子育てのようなやわらかく優しいイメージを意識しました。神社全体のトンマナを整えて、『ここは何のための神社なのか』が視覚的に伝わるように設計しています」

サイトの情報設計には、ブランディングデザインがそのまま反映される

戦略とコンテンツが整って初めて、Webサイトの設計に入ります。ここまでの段階で「誰に届けたいのか」「何を伝えたいのか」が明確になっているため、それをブーストさせるような適切なレイアウトを考えていくことになります。

産泰神社のトップページをスクロールしていくと、情報の並び方が、ブランディングの戦略を反映していることに気づきます。

安産祈願から七五三まで、人生の節目を軸に並ぶ祈祷メニューが神社の役割を明確に示している

「産泰神社について」などの基本情報に続いて大きく表示されるのは、「安産祈願」のバナーです。続いて「お宮参り」、そして「七五三」が並びます。出産前にご祈祷を受け、無事に生まれたらお宮参り、子どもの成長の節目には七五三参り。ここがどんな神社であるのか、Webサイトの祈祷メニューからはっきりと伝わります。

ブランディングを象徴的に示しているのが、「厄除け・方位除け その他のご祈祷」というバナーです。

安産祈願を主軸に、その他の祈願を「その他」としてバナーで集約した導線設計

「この神社のメインはあくまでも安産祈願です。だから、交通安全や商売繁盛といった祈願は『その他のご祈祷』とまとめてしまいました。3階層のマネジメントやコンテンツで絞り込んだことを、コミュニケーションの層でもしっかりとフォーカスすることが大切です」

本連載第1回で、ブランディングにおいて重要なことは「他とはどう違うのか」を正しく伝えることだと学びました。産泰神社のWebサイトには神社としての「差異化」の姿勢がはっきりと現れているのです。

情報設計でもうひとつ注目したいのが、「アクセス」と「受付時間」の配置です。トップページをスクロールした直後の位置に置かれているだけでなく、フッター部分にも大きく表示されています。これは、参拝を検討している人に対して「来やすさ」を最大限に伝えるための判断です。

トップページ上で、スクロールした直後にアクセスと受付時間を見ることができる
フッター部分にも参拝客にとって必要な情報が記載されている

「この神社を訪れようと検討している人がサイトを見るとき、もっとも知りたいことは『アクセス』以外にないと思うんです。だから、超重要情報としてトップ画面の最初の方にあるし、フッター部分にも置いています」

サイトを閲覧したユーザーに来てもらうことを目指すという文脈では、料金を明快に書いていることもポイントです。

産泰神社では、ご祈祷の料金も気軽にチェックできる

「ご祈祷の料金もわかりやすく記載しています。遠方から祈祷を受けに来たのに『なんだか想像していたのと違ったね』と残念な気持ちにさせてはダメなんです。Webサイトを見たときの期待感と実際に訪れたときの感動を、なるべく一致させるように心がけています」

神社のWebサイトというと特殊な性質があるように思いがちですが、「施設に来てもらうことを促すサイト」と考えれば、店舗や公共施設などでも同じ発想が活かせそうです。

神職が書くオウンドメディアで、信頼とSEOを同時に獲得する

産泰神社のサイトには、ふたつの目的があったと西澤さんは説明します。ひとつは集客で、もうひとつは神社や神道についての理解を広げることです。産泰神社のオウンドメディアにあたる「このはな手帖」は、その核となるコンテンツです。

産泰神社のオウンドメディア「このはな手帖」のトップページ

「このはな手帖」の記事コンテンツは、「安産祈願辞典」「産泰神社のこと」「神社豆知識」の3カテゴリに分かれ、お賽銭の金額の考え方や絵馬の書き方、「戌の日」の由来、七草粥や冬至といった年中行事の解説など、神社にまつわる知識を丁寧に解説しています。記事を書いているのは産泰神社の神職です。専門的な知識の深さがそのままコンテンツの質につながっています。

「神社のWebサイトでこうした知識をきちんと伝えているところは意外と少ないんです。『このはな手帖』は神職の方が執筆されているので、情報ソースとして信頼できる。SEO的にも非常に効果的ですし、ウェブメディアやテレビ番組に取材していただくきっかけにもなっています」

前回の記事で、Webサイトの役割は、企業や商品の情報を宣伝する「パンフレット」から、ユーザーに役立つ知識を提供する「専門雑誌」へと移行してきたという説明がありました。まさに「専門雑誌」としての役割を「このはな手帖」は担っているのです。

デザインの最優先事項は「見やすさ」。過剰を避け、シンプルに世界観を表現する

Webサイトの見た目のデザインについてはどうでしょうか。

「神社のサイトですから横書きではなく縦書きを基調としたフォーマットにしていますが、最優先にしたのは見やすさです。もっと装飾的なデザインにすることもできますが、やりすぎると神社らしくない。過剰になってしまわないことを意識しました」

ハンバーガーメニューを開くとヘッダー部分に縦書きのメニューが表示される

神社における日本語の書き方は、縦書きが基本。見出しやリンクバナーなどには縦書きを使用し、メリハリのある構成になっています。一方で、情報量の多い本文テキストやスマートフォン用のレイアウトなど、縦書きだと読みにくくなってしまう場面では横書きを採用。あくまでも「見やすいこと・読みやすいこと」が優先されています。

また、産泰神社のWebサイトには、動的な演出も控えめに施されています。見出しを強調したりテキストを読み進めたくなったりといった、補助的な動きをJavaScriptなどで実装していると西澤さんは説明します。

「僕はFlash全盛期を経験しているのでガンガン動くWebサイトの楽しさも知っていますが、今はそういう時代ではありません。僕たちが大切にしているのは、できるだけシンプルにすること。最小限の手数で世界観を表現して、ユーザーがテキストや画像を見るときにストレスがない状態をつくることが大切なんです

また、産泰神社のリブランディングについては、鯉登宮司らと一緒にプロジェクトを振り返った『神社文化とともに百年生きるデザインを。と、生放送学習コミュニティ「Schoo(スクー)」さんとの共同企画セミナー『安産祈願にフォーカス!女性に寄り添う神社「産泰神社」』という、いずれも弊社Webコンテンツもぜひご覧いただければ、よりブランディングの理解が深まると思います」

立地やターゲットが変われば、Webサイトの設計も変わる

冒頭でも触れたとおり、産泰神社のサイトリニューアルの成果は数字に表れています。月間PVの伸びに加え、参拝者数は2025年度が2022年度比141.5%へ増加、2026年度は148%を目標に、毎年着実に増加しています。

総合的なリブランディングが行われているため、どの施策が特に成果を上げているのか判断するのは簡単ではありませんが、「産泰神社に関してはWebサイトの貢献度はかなり高い」と西澤さんは言います。

「妊娠したことがわかってから『戌の日ってどうしたらいいんだろう』と調べる方は多いはずです。そうした情報を探している人が自然にたどり着く場所として機能しているのだと思います」

最後に、エイトブランディングデザインが手がけたもうひとつの神社のリブランディング事例を紹介します。福岡市にある「警固神社」です。

警固神社Webサイトトップページ

産泰神社が群馬の田園地帯に位置する一方、警固神社は福岡市中心部の繁華街に立地しています。警固三神のもと、「厄除強運」のご利益があり、外国人観光客が多い土地柄から、雅楽を用いた本格的な祈祷を強みとして打ち出しています。日本文化の体験としての参拝を意識した警固神社のブランディングの戦略は、産泰神社とは方向性が異なります。

警固神社のWebサイトは2025年末にリニューアルし、PVも大きく伸びているといいます。ぜひ、ふたつの神社のサイトを比べてみてください。立地や祀られる神様など神社の個性の違いが、Webサイトの情報設計にどのように反映されているのか。意識して読み解いてみることで、多くの発見を得られるはずです。

プロフィール

西澤 明洋(にしざわ・あきひろ)
ブランディングデザイナー

株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行う。リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、スキンケア「ユースキン」など。著書に『ブランディングデザインの教科書』(パイ インターナショナル)ほか。特集書籍に『西澤明洋の成功するブランディングデザイン』(誠文堂新光社)がある。日経スペシャル「カンブリア宮殿」出演。https://www.8brandingdesign.com/

取材・文:藤井亮一

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