
ブランドサイトはなぜ変わり続けるのか──エイトブランディングデザイン・西澤明洋が語る、Webサイトの「耐用年数」と「変わらないもの」

Webサイトとブランディングの深い関係を追う本連載。第3回は、東京・合羽橋にある料理道具店「釜浅商店」の事例を紹介します。
この事例を手がけたのが、数々のブランディングデザインの実績を誇るエイトブランディングデザイン。同社代表の西澤明洋さんは、「Webサイトは、企業コミュニケーションのプラットフォームとして、これからも重要であり続ける」と語ります。AIが検索を代替し、SNSや動画サイトが存在感を増す今、本連載では「Webサイトをつくる意味」をあらためて問い直し、追求していきます。
「釜浅商店」は、2011年のリブランディング以降、売上規模が約4倍にまで成長。その間、釜浅商店のWebサイトは3度のリニューアルを遂げ、現サイトは「DFA Design for Asia Awards 2024」で銀賞を受賞しました。なぜブランドサイトは、更新し続けなければならないのでしょうか? 釜浅商店の変遷からそのヒントを探ります。
目次
老舗の料理道具店が「世界に広がるブランド」になるまで
「釜浅商店」は、東京・合羽橋道具街に店舗を構える、明治時代から続く老舗の料理道具店です。全国の職人たちとの独自ネットワークを持ち、本物の料理道具を目利きして販売するセレクトショップのような業態をとっています。
以前の釜浅商店は、プロの料理人を主な顧客とする小さな道具店でした。それが今では、パリやニューヨークにも店舗を構えるブランドへと成長。2011年に大規模なリブランディングを実施して以降の約15年間で、売上規模は約4倍になっています。
こうした事業成長の歩みに合わせて、釜浅商店のWebサイトは3度にわたってリニューアルしています。なぜ、釜浅商店サイトは何度も生まれ変わる必要があったのでしょうか?
なぜ、15年間で3度もリニューアルしたのか?
エイトブランディングデザインが釜浅商店のリブランディングに関わるのは、2011年のことです。その以前からWebサイトはありましたが、リブランディングに合わせてWebサイトのリニューアルが行われました。その後も、2016年、2024年と合計3度のリニューアルを重ねていきます。ここからは、リニューアル後の3つのWebサイトを参照しながら、事業やブランド戦略の変化を追っていきましょう。

最初にリニューアルされた、2011年当時のWebサイトは、黒をベースとした落ち着いたデザインでした。ブランドコンセプトを示すページや主力商品である包丁を紹介するページ、ギフトに対応していることを示すページなどで構成されていました。2011年、こうしたデザインや構成にしたのは、リブランディング当時の店舗の状況と関係があります。


リブランディング以前の釜浅商店の店内は、たくさんの商品が所狭しと並んでいて、雑然とした印象がありました。プロの料理人にとっては品揃えのよい店であった一方で、一般客にとって入りにくく、商品が選びづらい店でした。
そこで西澤さんたちは、「どのような店でありたいのか」を議論していきます。そこからブランドのコンセプトや戦略を固めていき、さらにブランドロゴや店舗レイアウトなども変更していきました。こうして生まれたブランドコンセプトが「良理(りょうり)道具」です。
「『良理道具』とは、『良い理(ことわり)の道具』という意味の造語です。釡浅商店の一番の強みは、本物の料理道具を作り出す全国各地の職人さんとのつながりと、その目利き力にあります。本当に意味のあるしっかりしたものづくりの料理道具を世の中に伝えていきたい、後世に残していきたいという思いを込めて「良理道具」という言葉が生まれました」(西澤さん、以下同)
職人がつくった料理道具を目利きして届けていくというコンセプトが明確になったことで、店舗やロゴなどのデザインとともに、Webサイトのあるべき姿がはっきりしていったのです。
店舗のイメージに合わせて、より明るいWebサイトへとリニューアル
リブランディングを通じて、料理人向けに絞った「BtoB」から、一般ユーザーも対象とする「BtoB+C」へとシフトした釜浅商店。店舗への来客数は増えて、以前より活気のある接客へと変化していったそうです。こうした状況の変化に対応するため、リブランディングの5年後にあたる2016年、2度目のWebリニューアルに至ります。

「2011年から2016年にかけての店舗の変化に合わせて、サイトの雰囲気を明るくしたり、多様な商品があることをもっとしっかり伝えたいという要望をいただきました。そこで、職人の手仕事にフォーカスしたブランドムービーを充実させたほか、商品ラインアップの見せ方もわかりやすくリニューアルしました。頻繁に入れ替わっていく商品情報に対応できるような、更新性を備えたプラットフォームへとつくり変えたのです」
ブランドサイトとECサイトを統合。開かれたブランドイメージへ
2020年以降のコロナ禍では、釜浅商店はオンラインショップをスタートさせます。国内EC・越境ECの目処がたったことを受けて、ブランドサイトとECサイトを統合した3度目のWebリニューアルを2024年に実施しました。

現在のWebサイトでは、明るくやわらかい色合いを基調とし、線画風のアイコンや角丸のタイルデザインが採用されています。専門店らしい格調高さを残しながらも、親しみやすく開かれた印象へと刷新されました。

「リブランディングから10年以上が経過して、ブランド認知はBtoCにも十分に広がってきました。そこで、料理道具店という専門性はもちろんありますが、一般層にも寄り添うようなサイトへと舵を切ることにしました。本物の料理道具が生活を豊かにしていくイメージを伝えていけるように意識しています。
初期のサイトと比べると、ずいぶん明るく開かれた印象を受けると思います。
以前のモノクロの世界観のサイトは、『伝統』や『格調』のような重々しさがあって、男性的な雰囲気の強いものでした。ただ現在の釜浅商店のユーザーを考えれば、もっと女性や若い世代にも広く知っていただきたい。そうした温度感を意識して、あらためてデザインをチューニングしました」
このように釜浅商店のWebサイトは、その事業成長や顧客の広がりとともに変わり続けてきたのです。
ブランドサイトには「耐用年数」がある
「ブランドサイトは一度つくって“それで終わり”にはなりません。Webサイトには耐用年数があり、理想としては、5〜6年ごとに見直すくらいがちょうどいい。長くても7〜8年では見直した方がいいでしょう」と、西澤さんは言います。Webサイトを見直すべき理由のひとつは「事業の変化」です。
「ブランディングをして5年ほど経過すると、当初の戦略がだんだんと軌道に乗ってきて、次のフェーズに入る時期が訪れます。企業の中期経営計画も5年ごとに見直されることが多いですよね。事業が転換していくタイミングには、Webサイトも必要に応じて変わっていくことが求められます」
釜浅商店の3度のWebリニューアルは、いずれも事業の変化に対応したものです。まさに、事業の現在地をWebサイトが映し出してきた、と言えます。
もうひとつの理由が「環境の変化」です。この「環境の変化」には、さらに2つの側面(「競合他社の動き」と「Webプラットフォームの変化」)が挙げられます。
「事業が成功すると、周囲(競合他社)からのキャッチアップが起こります。同業者に模倣されたり、違う市場からの新規参入もあります。キャッチアップを受けると、もともとのブランドが持っていた『他との違い』が弱くなってしまうので、あらためて『違い』を磨き込む必要が出てくるわけです。そこで、競合他社と自分たちはどこが違うのかを改めて整理し、伝え直していきます」
また、プラットフォームの変化については、Web Designingユーザーの多くの方々も、日々感じていることではないでしょうか。
「これだけスマートフォンが普及しているのにスマホ閲覧に対応していないサイトがあれば、“ブランドサイトとしての価値がない”と言わざるをえません。近年であれば、AI検索に最適化したWebサイトでなければ、どれほど中身がしっかりしているWebサイトでも価値は低くなっていくでしょう」

ECサイト売上3倍増へ。きちんとコンセプトを伝える重要性
3度目のリニューアル後の釜浅商店サイトは、香港デザインセンターが設立したアジア有数の国際デザインアワード「DFA Design for Asia Awards 2024」で銀賞を受賞しています。
「釜浅商店のWebサイトは、『本物の料理道具の魅力を伝える』ことを意識して全体を設計していて、販売することも大事ですが、ブランドとしての差異が際立つデザインになっています。商品の掘り下げ方や記事コンテンツの充実など、中身がしっかりと伝わるデザインが評価されたのではないかと思っています」
Webサイト全体としての構造設計という観点は、SEOにおいても重要です。
「たとえば、ブランドにとって重要なキーワードである『料理道具』で検索上位になるような工夫もしています。Webサイト全体として『料理道具』を表現する構造とすることで、結果的にSEOでの上位リーチにもつながっています」
Webリニューアルの効果は数字にも表れています。2024年の月あたり平均訪問者数が約3.0万人、平均セッション数が約4.2万でしたが、2026年1月から5月の平均では訪問者数が約4.5万人、セッション数は約6.5万に達しています。ECサイトの売上は、リニューアル前と比較して約3.3倍にまで増えました(2026年6月時点)。
特に英語ページの伸びは顕著です。2026年1月から5月の5カ月間で、総ユーザー数は2024年通年の約2.0倍、セッション数は約2.3倍、ページ表示回数は約2.4倍となり、英語ページの利用規模が大きく拡大しています。

「現在のWebサイトはShopifyを基盤に構築しています。ECサイトでは日々の運用がとても大切ですから、コーディングの段階から、Shopifyマーチャントを専門とするStoreHeroさんにパートナーとして参加していただき、記事制作や広告運用などの展開を見据えたサイト設計を行いました」
変化する「生き様」に合わせて、Webサイトも変わっていく
西澤さんは「ブランドとは、約束と生き様だ」と強調します。「自分たちはどうしたいのか」「どのような価値を提供するのか」といったことを「約束」として宣言し、その上で実際に行動することによってブランドとしての信頼・信用を勝ち取っていく。専門用語では「ブランドプロミス」と呼ばれるそうです。
「釜浅商店のブランドにとっての約束は、『良理道具』を顧客へと届けていくこと。リブランディングから15年が経ちますが、釜浅商店の『約束』はまったくブレていません。一方で、『生き様』は変わっていくものです」
海外展開や自社ビルの建て替え、自社製品の企画販売など、釜浅商店は新しい事業に挑戦し続けています。これらの動きこそ、生き様の「変化」にあたります。
「ブランドの『生き様』の変化に合わせて、店舗やWebサイトはそのデザインを見直していく必要があります。ただし、Webサイトはあくまでもリアルと連動して変わるべきです。オシャレなWebサイトを見て店舗を訪れたのに、イメージと現実がまるで違っていれば顧客はガッカリするでしょう。リピートもクチコミも生まれません」
連載第1回でも西澤さんが指摘したように、Webサイトは「コミュニケーションのプラットフォーム」です。釜浅商店のWebサイトの3度のリニューアルは、ブランドの「約束」と「生き様」を誠実に伝えるための選択だったわけです。「いま」を正しく映し出すプラットフォームであってこそ、ブランドと顧客の信頼関係は育まれます。ブランドサイトが何度も生まれ変わる必要があるのは、そのためなのです。
プロフィール

西澤 明洋(にしざわ・あきひろ)
ブランディングデザイナー
株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行う。リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、スキンケア「ユースキン」など。著書に『ブランディングデザインの教科書』(パイ インターナショナル)ほか。特集書籍に『西澤明洋の成功するブランディングデザイン』(誠文堂新光社)がある。日経スペシャル「カンブリア宮殿」出演。https://www.8brandingdesign.com/
取材・文:藤井亮一
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