
【デザイナー3年目の教科書】自分のスタイルを確立するためには、「軸」が必要不可欠。田渕将吾さんに聞いた 「キャリアデザイン」の描き方
新たな役割や課題に直面し、次のステップを意識し始める“3年目”。第一線で活躍するデザイナーたちは、3年目に必要なスキルや視点をどのように身につけ、乗り越えてきたのでしょうか。制作会社からフリーランス、そして事業会社と、デザイナーとして転身を遂げてきた田渕将吾さんに、「キャリアデザイン」についてアドバイスをいただきました。
答えてくれた人

田渕 将吾さん(Visional/S5 Studios)
アートディレクター・インタラクションデザイナー。制作会社と事業会社、組織と個人の間で、多様な役割を担ってきたデザイナー。Webサイト制作をはじめ、数千人規模のイベントやデジタルインスタレーション、企業のブランド構築や組織デザインに貢献。豊富な経験を生かし、クリエイティブの最前線で新たな挑戦を続けている。
「誰かに届くデザイン」と「自分なりの価値」が、キャリア設計の軸に
デザイナーとしての「軸」を考えることは、スタイルを確立する大切な一歩だと思います。私のキャリア設計の軸は、「誰かに届くデザインをつくること」と「自分なりの価値を生み出す意思」の両立です。
かつては、クライアントワークを通じて課題解決に集中していましたが、次第に「自分自身の手で価値のある何かを生み出したい」という思いが強くなりました。それが後に自分の作品が評価される経験につながり、この軸が私の成長を支える基盤となりました。
プラスアルファの提案に、とにかく全力で取り組む
3年目の私は、「信頼されるデザイナーになりたい」という思いでがむしゃらに働いていました。当初は、明確なキャリア像やロールモデルがあったわけでもなく、目の前の仕事を全力でこなすことで精いっぱいでしたが、次第に「依頼に応えるだけでなく、自分なりのプラスアルファを提案する」という使命感を抱くようになりました。
その思いから、クライアントワークでのデザイン提案に小さな工夫を積み重ねていきました。たとえば、ビジュアルにストーリー性を持たせたり、ひと手間かけて画像を合成したり。こうした日々の試行錯誤が、私のスタイルを確立する原点になったと感じています。
デザイナーとしての指針を決定づけた、6年目での受賞
6年目に迎えた転機は、私のキャリアに大きな影響を与えました。それは、自主制作したサイトが「awwwards」でSOTD(Site of the Day)を受賞したことです。クライアントワークではなく、自分なりの価値を形にしようと試行錯誤してつくった作品が評価された瞬間は、今でも忘れられません。
この経験から、「デザインは価値を生み出し、誰かの行動や感情を動かす力を持つ」という実感を得ました。それ以来、この経験が私のデザインの指針となり、3年目から続けてきた試行錯誤の先に新しい価値を見いだすことの重要性を再確認しました。
田渕将吾さんが3年目の自分へメッセージを送るなら…
自分の手で何かを生み出すことを恐れないでください。3年目のころ、私は未熟さに悩み、目の前の課題をこなすことで精一杯でした。それでも忙しい日々の中、自分らしい表現を追い求めながら創作に向き合っていました。その姿勢が新しい出会いや仕事を生み、今の私を支えています。
そしてもう一つ、ものづくりは決して独りではできません。多くの人の助けや刺激があったからこそ、今の私があります。年齢や性別、職業に関係なく、周りの人たちを大切にしてください。そのつながりが、未来のあなたをきっと豊かにしてくれるはずです。
Text:掛谷泉、横塚瑞貴、室井美優(Playce)
※本記事は『Web Designing 2025年2月号』の掲載記事を一部引用・再編集しています。