
まずは“傾向”をつかもう「動画広告」の基礎知識
[1]動画広告の変遷や潮流をつかんでおく
主要プラットフォームに広告メニューが揃い出した
最初に、これまでの動画広告の潮流をざっと確認しておきましょう。動画広告は、2020年には3,000億円近くの規模になるとも予想される、年々右肩上がりの市場です(サイバーエージェントオンラインビデオ総研ならびにデジタルインファクト調べ)。2016年や2017年ごろからデジタル界隈で言われはじめた「動画元年」当時と今を比較して、もっとも大きく異なるのは、今はYouTubeのほかFacebook、Instagram、Twitter、LINEなど主要の各プラットフォームで動画広告に関するメニューが確立されてきている点です。いまや視聴環境、制作環境がともに整備されてきて、動画広告を通じて企業が施策を本格的に拡げることが一般的になっています。
動画=若年層が強いという印象を持つ人たちもいますが、実態は年齢層を問わず幅広く見られています。昨今、ユーザーとの接点に動画広告を念頭に置いたプランニングは、今後のデジタル戦略では必須です。テレビ以外の動画に触れる機会が根本的に増えて、「テレビは見ないが、ネット動画は見ている」といったことも、ごくごく日常化しつつあるからです。かつては動画広告への取り組み自体に先進性があって、広告主と制作側が一緒に新たな事例をつくろう、という時代だったのが、動画という手段が一般化し、フェーズがさらに進み、数字や結果が当然のようにシビアに求められています。
長らく、動画広告といえばYouTubeの動画再生前後か再生中に流れる「TrueView」動画広告が主流でしたが、現在では数多くの広告メニューが生まれ、普及しはじめています。また、縦型や360度、1つの枠に複数の動画を並べられるカルーセルといった新たな仕様の動画広告メニューも出てくるようになりました。
ここ数年だけでも、AbemaTVが開局したり、Instagramストーリーズによる広告メニューが提供されたり、動画共有アプリのTikTokが広告メニューを始めるなど、新たな局面を迎えています。
メリットとデメリットを踏まえて目的達成のための1手段と捉えよ
動画広告のメリットは何でしょうか? それは動画そのもののメリットとも通じるところがあります。1つは豊かな情報量です。時間軸(尺)を持ち、動きや音声を伴って訴求できるため、テキストや静止画よりも情報伝達力が格段に高く、感情が動くことによってシェアされたり記憶にも残りやすくなります。動きによってユーザーの目を引きやすいという強みも挙げられます。動画がどこまで視聴されているか、といったデータに基づいてPDCAを回すことも可能です。
もちろんデメリットもあります。テキストや静止画に比べると、制作費が上乗せされてきますし、運用コストも動画の方が高くなる傾向があります。目が引きやすいからこそ、ユーザーに過度な接触へとつながり、嫌悪感を持たれてしまう危険性も考慮する必要があります。
私たちのもとにも、「動画が流行っているので、動画広告をやっておきたい」といった“とりあえず”というご相談が定期的に寄せられます。動画広告への関心の高さを裏づける反応ですが、一方で動画広告だけでなく他の手段にも共通して言えるのは、決して万能策ではないということです。動画広告を狙いどおりに機能させたいのであれば、必ず目的を定めること。目的の達成のためには動画広告が最適な手段であるかどうかを、マーケティングの観点で判断する必要があります。
できることなら、オウンドメディアやアーンドメディアも含めた全体的な戦略設計を立てて、他のデジタル広告(バナー広告やリスティング広告など)とともに動画広告を最適に使い分け、成果を導くことが求められます。
[2]動画広告フォーマットの種類を把握しておこう
インストリーム広告は視聴者にダイレクトに訴求できる
動画広告を活用するには、種類別の理解をしておく必要があります。各種フォーマットの特徴を把握しておけば、目的に応じてフォーマットを的確に選択し、各フォーマットの強みを活かしたクリエイティブを企画しやすくなります。
動画広告のフォーマットは、次の2種類に大別できます。「インストリーム広告」と「アウトストリーム広告」です。まずインストリーム広告について説明すると、動画コンテンツの中に挿入される動画広告のことをインストリーム広告と呼びます。代表格がYouTubeの「TrueViewインストリーム広告」で、YouTubeユーザーにはお馴染みの存在です。
インストリーム広告は、ユーザーがもともと意思を持って視聴しようとしている動画の中に流れるという特徴から、視認性が高く、音声も基本的にオンの状態で再生されます。スキップ機能が付いている場合もありますが、一定の訴求力は担保されると言えるでしょう。スキップ機能がある場合は、スキップ可能になる5秒(YouTubeの場合)までに視聴者の興味をいかに引き、視聴を継続してもらえるかが勝負です。
またインストリーム広告は、挿入場所によって3種類に分けられます。動画の再生前に配信される「プレロール広告」、再生途中に挿入される「ミッドロール広告」、動画終了後に流れる「ポストロール広告」です。TrueViewインストリーム広告は、動画の前に(だけ)配信されると思う人が多いかもしれませんが、途中や最後にも配信されています。
インストリーム広告はTrueView広告以外にも、ここ数年でFacebookやTwitterといったSNSでも動画コンテンツの前や途中に配信されるインストリーム広告が少しずつ増えています。
1つ注意したい点があります。本来は動画コンテンツと動画広告に関連はありませんが、悪質な動画コンテンツに広告が配信された場合、ブランドイメージを損なう可能性があります。そのような事態を防ぐ方法もあるので、運用会社などに相談してみるとよいでしょう。
さまざまな場所で配信するアウトストリーム広告
もう1つのアウトストリーム広告は、インストリーム以外の動画広告という覚え方で問題ありません。かつて動画広告の配信場所は、YouTubeのような動画視聴を目的とする場しかありませんでした。その後、技術の進化に伴い、オンラインメディアのさまざまな広告枠が動画に対応するようになり、アウトストリーム広告が急激に増えました。つまり、動画視聴ユーザー以外へも動画広告によるアプローチが可能になったのです。
アウトストリーム広告も複数の種類があり、中でも最低限押さえておきたい3種類をご紹介します。SNSやニュースアプリなどのフィード上に配信される「インフィード広告」、従来の静止画バナー広告枠に動画を配信できる「インバナー広告」、記事コンテンツの途中に挿入される「インリード広告」の3つです。
インフィード広告は、ユーザーがスクロールしている最中の数秒で興味が引けるか、です。冒頭で、ミュート(無音)の状態でも伝わるコンテンツ(わかりやすい動き、字幕あり)が求められます。FacebookだけでなくInstagramやTwitter、LINEで展開されているので、クリエイティブを各SNSのカルチャーにあわせる工夫も必要です。
インバナー広告も基本的には無音で自動再生されます。最近はインタラクティブ機能を持つインバナー広告も登場しています。
インリード広告は、まだ一部のメディアでしか採用されておらず、目にする機会は少ないですが、例えば、車に関する記事の中に自動車メーカーの動画広告を配信する、といった形でターゲティングできる点がユニークです。
[3]主要メディアごとの広告フォーマットを知っておく
主要メディアでも年々増えている動画広告メニュー
動画広告のおおまかな分類はP052~P053の通りですが、YouTubeや各種SNSはそれぞれに特徴的な動画広告メニューを用意しています。実際にメディアプランニングを行う際は、各種の動画広告メニューについても正しく理解しておく必要があります。上の2つの表には、主要なものをまとめています。
この中から最近のトレンドも踏まえていくつか特徴的なメニューを説明します。まずYouTubeの「バンパー広告」は、2016年から提供されているスキップ不可の6秒動画広告です。人々のアテンションスパン(集中力が持続する時間)がどんどん短くなっている現代にマッチしたフォーマットとして、短尺の動画広告に注目が集まっています。
これまでテレビCMに代表される15秒が動画広告の尺の1つの目安でしたが、6秒という短尺でのクリエイティブのあり方について、業界全体で試行錯誤が続いています。バンパー広告はCPM(Cost Per Mille)課金のため、広く認知を獲得したい場合に有効ですが、6秒以内で、例えば新規商品への興味喚起までは難しいため、通常のTrueViewインストリーム広告を視聴したユーザーにリマインド目的でバンパー広告を活用、といった工夫が必要です。
もう一つ、Instagramの「ストーリーズ広告」も最近人気が高まっています。24時間で消える気軽さから、ストーリーズ利用者が年々増加して、かつフルスクリーンで訴求できるため、広告効果を期待して活用する企業が増えています。縦型フルスクリーンのため、専用のクリエイティブを用意する必要があるのは難点ですが、Instagramユーザーと親和性の高い商品を扱っている場合は、出稿を検討してもいいでしょう。
その他、LINEが動画広告メニューを充実させたり、若年層を中心にブームになっているTikTokでも広告メニューが増えたりと、新しい動画広告が毎年のように登場しています。最新の動向には、常にアンテナを張っておくことも大切です。
マーケティング目的達成のための動画広告の選び方
これだけ多くのメディアや動画広告メニューがあると、どれを使うべきなのか判断が難しいと思うかもしれませんが、一番重要な判断軸は、動画広告を配信する「目的」です。例えば、できるだけ広く認知を獲得したい場合は、ユーザー規模が大きいYouTubeやLINEがまず候補になりますし、特定の分野に関心を持つターゲットだけにリーチしたければ、ターゲティング精度が高いFacebookやTwitterがいいでしょう。コスメや美容などの女性向け商材であれば、Instagramが相性がいいと考えられます。広くバズを起こしたいという場合には、ユーザー数の多いYouTubeと、拡散性の高いFacebookやTwitterを組み合わせる考え方もできます。
このように、まずは各メディアが抱えるユーザー層や規模、特性によっておおまかに選別した後で、用意されている動画広告のフォーマットやターゲティング機能、課金形態などが目的に合致しているか否かを確認し、総合的に判断していくとスムーズです。とはいえ、これだけ多種多様な動画広告が存在する現在の状況で、最適なものを選択するのは決して簡単ではありません。はじめのうちは、運用支援をしている会社に相談してみることも一案です。
また、各SNSが持つカルチャーや世界観にあわせた動画広告クリエイティブの企画制作も重要です。動画広告を配信してみたいメディアをよく観察し、日頃どのような動画広告が多く流れていて、ユーザーがどんなクリエイティブをよくシェアしているかをウォッチしておくと、おおまかな傾向やヒントが得られるかもしれません。
[4]配信結果を分析しながら運用の知見をためる
目的に応じて指標を立てPDCAサイクルで改善を続ける
他のデジタル施策と同じように、動画広告でも配信後の効果測定や検証が大切です。結果を正しく評価するためには、施策のそもそもの目的とそれに合致したKPIの設定が不可欠です。
目的別の主なKPIは、上の表の通りです。日本では、従来Web広告が主に獲得(ダイレクト)目的で活用されてきたため、CPA(1件あたりの広告費用)やクリック数などが重視されてきましたが、ブランドや商品を知ってもらったり、好きになってもらうブランディング目的の動画広告では、再生回数のほか、どれだけ長く(最後まで)視聴されたか、どれほどのリアクションを得られたかなども、広告を評価する上で重要な指標です。
なお、視聴維持率(視聴完了率)は動画広告の品質スコアにも影響し、スコアが低いと運用効果が下がってしまうため、KPIに設定していなくても注意しておきたい指標の一つです。視聴維持率が低い場合は、多くの人が離脱しているポイントを効果測定ツール上で確認し、クリエイティブへの修正の検討もしたほうがいいでしょう。
また、「ブランドリフト」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、これは「認知」「好意」など、直接計測が難しい指標において、動画広告接触者と非接触者にアンケートをとり、その差から広告効果を推し量るものです。最近はブランドリフト調査機能を備えたメディアやプラットフォームが増えていますので、気になる方はメディアの営業担当や代理店などに問い合わせてみてください。
私たちが日ごろお客様の動画広告運用を支援する中では、施策を進めるうちに、あれもこれも達成したくなったり、とりあえず再生回数が気になってしまったり、というケースをちらほら見かけます。そういう場合は、「KGIありきのKPIを立てましょう」というお話をしています。つまり、マーケティング全体の戦略の中で、動画広告が達成すべき目標(KGI)を明確にして、ブレることなくそこに集中することが、成果をあげる上でもっとも重要となります。
2020年以降の5G時代に備え動画の知見をためておく
動画広告のこれからについて、3点に絞ってお伝えします。現状はインストリーム広告といえばYouTubeですが、FacebookやTwitterでもインストリーム広告の開発が進んでいます。
Facebook、Instagram、Twitterはいずれも、動画コンテンツの流通量を増やし、ユーザーがもっと多くの動画をSNS上で日常的に視聴する世界を目指しています。一部のパブリッシャーによる動画コンテンツの中でのみインストリーム広告が配信されていますが、良質な動画コンテンツがSNS上で増えれば、インストリーム広告の増加も見込めます。YouTubeと異なりフィード上の比較的小さい動画フレームの中で、どのようなクリエイティブが有効か、そのうち重要なテーマになるかもしれません。
また近年ニーズが高まっているインフルエンサーについては、従来はスポットでのPR投稿が主流でしたが、中長期的に継続してインフルエンサーを起用し、プロモーションを行う事例も出てきました。私たちもインフルエンサーをアンバサダーとして起用するサービスを提供していますが、インフルエンサーによる投稿を動画広告のクリエイティブに活用したり、動画広告内に登場してもらうなど、インフルエンサーと動画広告との新しい形も今後出てくると見ています。
2020年には5G(第5世代移動通信システム)がスタート。高速かつ大容量での通信環境で、動画の流通量増加は容易に想像できます。新たな動画広告配信面や5G対応のデバイスも出てくるでしょう。最新情報への感度を高めながら、動画施策への知見を重ねて、今後に備えることが必須です。

- 教えてくれたのは…山下郷平さん
- サムライト(株) 執行役員 https://somewrite.com/