
時代の変化のときに、保守的にならないでほしい―藤川真一
ひたすらゲームをしていました
坂本:もともと理数系に強い学生だったんですか。パソコンはいつごろはじめましたか。
藤川:もともとそっち側の志向が強くて国語が苦手でした。パソコンは最初に触ったのは小学生でした。ファミリーベーシック(任天堂ファミリーコンピューターの周辺機器)で、キーボードを触り始めて、そのあとパソコン買ってもらう機会があり、ずっとゲームをしていましたね。
当時『パソコンサンデー』というテレビ番組があり、シャープのパソコンがよく取り上げられていたので、心の中でずっとほしかった記憶があります。その憧れのシャープのパソコン(X68000)を高校入学時に買ってもらって、はじめてDosを触りました。コマンドを入力するとゲームやアプリが動くので、ひたすらコマンドを打っていました。
高校では最初帰宅部だったんですが、途中から物理部(パソコン部)に入りました。部の人たちは優秀だったので、文化祭に向けてゲームをアセンブラで作ってたりしていましたが、自分はそのスキルがなかったので、クロックアップしてゲームしていましたね。
パソコン通信にハマりました
坂本:ゲームをめっちゃしていますが、ゲーム以外には何をされていましたか。
藤川:高1でパソコン通信にハマりました。「こんな世界があるのか」と感動しましたね。10万円くらい電話代がかかって親に怒られたりもしました。電子掲示板で人とコミュニケーションすることが楽しくて、それが今につながっていると思います。
大学を卒業するまでずっとパソコン通信していたんですが、当時出てきたインターネット(Web)をきちんと見ていなかったというのがあります。パソコン通信の中の価値観だと、現状維持を求める傾向にあり、自分もそういう価値観の中にずっといたことが、あとで反省点として見えてきます。
技術変革とかパラダイムシフトのときには、必ず退化するので、退化することにこだわりすぎてはいけない、退化することを嫌がる人のことを信じてはいけないと思います。
機械工学からFlash、Web制作プロセスで情報設計を知る
坂本:就職はどういう考えがあったんですか。
藤川:大学は機械工学でロボット研究するところにいたんですが、情報処理よりも社会変革のほうに興味がありましたので就職するときには「制御」を選びました。いわゆるファクトリー・オートメーション(工場の自動化)の分野の会社に入って自社開発していました。
当時、ソフトウェア開発でUI系をWindowsにするプロジェクトがあり、自分でVisual Basicを勉強して開発していたんですが、UI(ユーザーインターフェース)やHTMLの技術が全然わからなくて、デジタルハリウッドに勉強しに行くことになります。
Webプロデューサーコースに行って、当時の講義を聞きながら「これだったら俺でもできる」と思い、デジハリ出身の先生にスカウトされたのがキッカケでWeb制作会社に転職しました。
坂本:機械工学で学んだことが、その後にもつながっていそうですね。
藤川:ソフトウェアが産業用装置と違うところは、ミッションクリティカルではないということです。産業装置で怪我とか事故が起こるのに対して、ソフトウェアの世界だとバグが出るだけというふうに。中で書いているコード(の概念)は全く変わらないと思います。
転職した会社では、リッチコンテンツを開発していて、当時あったGeneratorというエンジンを使ってFlashを生成したりしていましたね。
また当時、開発担当だったこともあり前工程の問題や影響がよくありました。改善しようとすると前工程を改善しないといけなくなるので「情報設計」という概念を知り勉強していたこともあります。それでIA勉強会とかに参加したりして会社に持ち帰り、情報設計チームを作ったり管理業務に活用していましたね。
モバツイの開発、そしてBASEへ
藤川:大学院に行くことを模索していた時期がありましたが、いいところが見つからず、事業会社に転職することになります。
坂本:モバツイを作る背景にはどういうことがありましたか。
藤川: 当時のTwitterは使うとよく落ちてて、うまくローカライズができていなかったんです。そこで、自宅にあるサーバーに入力フォームを作ってTwitterに投稿するシステムを作りました。当時ガラケーだったこともあり、帰宅時にモバイルでやることが楽しくなってきたので「モバツイ(当時はモバツイッター)」にしました。その後、セミナーやイベント等で使う「セミッター」というのもありましたね。
坂本:順風満帆に見えますが、一番辛かったことはありますか。
藤川:スマホシフトに失敗したことだと思います。パソコン通信からインターネットに変わるときと同じようなことをしたと思います。
当時、ガラケーのユーザーはいっぱいいたので安心していたのですが、広告が変わっていくんです。期待値と同じように、新しいものに流れていきます。iPhoneなどスマホが出てくると、広告が勝手にそっちにシフトしていくんです。そのため、モバツイは広告収入だったので単純に売上が下がっていき、自分たちで維持することが難しくなってきたため会社を統合したという背景があります。
その後、カラーミーショップというサービスを立ち上げたり、「ツイキャス」に参加したりもしました。その中で、BASEの外部顧問をするようになり現在に至ります。
フロントエンドのUIスキルは絶対必要、動画は今やるべき
郷:もし今20代だとしたら、何をしていますか。
藤川:2つあって、1つはフロントエンドのアーキテクチャをしっかり勉強すべきかなと思いますね。
Web2.0のときに、Google MapsでAjaxが出てきて、その後にWebSocketとかReactが出てきたりと、歴史的な変容があると思うんですが、今は普通に使っています。つまり、Webが、昔のFlashとかiOSネイティブアプリとかを置き換えていくと思うんですね。なので、フロントエンドのUIスキルは今後絶対重要だと思うので、それをやるべきだと思います。
もう1つは動画です。いつまでテキスト主体なのかと思いますね。テキストのWebはすごく便利なんだけど、コミュニケーションの手段が動画に移ってきているのは明白だと思います。いま動画編集はすごいです。動画で表現する技術は今やるべきかなと思いますね。パワポくらいの感覚で動画ができるようになりたいです。
時代の変化のときに、保守的にならないでほしい
坂本:Webやインターネット業界に対してメッセージをいただけますか。
藤川:(僕自身)パラダイムシフトに何個か乗り遅れたことがあります。現状最適に突っ走るというか甘んじる部分があって、何も考えないで面白いほうに行くほうがイノベートだったりするわけで、そういう時代の変化のときに保守的にならないでほしいです。
もちろん目の前にある仕事は、それまでのビジネスプロセスに最適化されていると思うので、それを全然違うことにはできないと思うのですが、であればプライベートでチャレンジしていかないと、自分の仕事が時代遅れになったときに移行コストがものすごく高くなってしまいます。
当然、Webをやってきている人は最先端にいる自負があるとは思うんですが、もはやわからなくなってきていると思うんです。紙とデジタルのように、それまで最先端だったかも知れないものが、まるっと古くなってしまうことがあるので、そのへんを見極めていかないといけないと思います。
この記事は、オンラインインタビューを抜粋して書き起こしています。インタビュー全編をご覧になりたい方、ぜひYouTubeチャンネル「Era Web Architects」をご覧ください。
Era Web Architects オンライン #14(ゲスト: 藤川真一)
https://www.youtube.com/watch?v=e5yvqPAY1e4
Era Web Architects プロジェクトとは
『Era Web Architects』プロジェクトは、発起人の坂本 貴史を中心に、インターネット黎明期からWebに携わり活躍した「ウェブアーキテクツ」たちにフォーカスし、次世代に残すアーカイブとしてポートレート写真展を企画しています。
公式YouTubeチャンネルでは、毎週ひとりずつ「ウェブアーキテクツ」へのインタビューをライブ配信しています。本記事はそれをまとめたものです。
・公式ウェブサイト (https://erawebarchitects.com/)
・公式Youtubeチャンネル (https://www.youtube.com/channel/UClJ4OvlhOzkWwFhK-7NJ0CA)
・Facebookページ (https://www.facebook.com/Era-Web-Architects-100739284870438)
インタビュアー プロフィール
坂本 貴史(『Era Web Architects 』プロジェクト 発起人)
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。著書に『IAシンキング』『IA/UXプラクティス』『UX x Biz Book』などがある。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaas事業を推進。
郷 康宏(『Era Web Architects』プロジェクト オンライン配信担当)
2010年以降、ビジネス・アーキテクツ(現BA)を経て本格的にWebの世界へ。2015年までネットイヤーグループ株式会社において、コンテンツの作成からリアルイベント実施、SNSやWebサイトの運用まで幅広く手掛ける。2016年よりKaizen Platformにてクライアント企業の事業成長を支援。肩書は総じてディレクター。