【コラム】ユーザーとデザイナーの立場から

今月号のテーマは「ネット広告」。最近、私自身の実体験としてWeb上の広告、特にInstagram広告を見て商品を購入することが増えてきました。広告といえば、以前は見たい情報の中に突然流れてくる雑音のような印象が強かったですが、最近ではうまくターゲティングされているな、と感じます。実際に購入した商品のカテゴリも、食品系やファッション系など、さまざまなジャンルに渡ります。

実際に購入を決めたもので個人的に満足度が高いのはファッション系に寄っているのですが、実店舗での購入体験と広告での購入体験は意外と似ているなと感じています。例えば「通勤用のトートバッグが欲しい」と思っていて、わざわざ時間をつくって駅ナカのファッションビルなどに出向いたとします。自分の中でなんとなく「こういう形・色のものが欲しいな」という理想はあるのですが、ブランドにこだわりが無かったり、ざっくりとした粒度で「トートバッグを買いたい」と思っている時には、どんなにお店を回ってもいいものが見つからないことが多いです。逆に、外出した帰り道などにふらっと立ち寄ったお店で理想に近いトートバッグを見つけて、サクっと購入してしまったりすることも。トートバッグに限らず、いろいろな商品で同じような体験をしている方も多いのではないでしょうか。広告をきっかけにした購入は後者のような体験をいかに自然なかたちで演出できるか、というところにヒントが隠れていると思っています。「なんとなく欲しい」「使ってみたい」と思っている気持ちの隙間に広告が入り込んでくるので、より心を掴まれやすいのかもしれません。

ちなみに、食品(お菓子やお酒など)も広告経由で購入したことがあるのですが、形に残らないものだからなのか、一度購入して満足することばかりでした。食品はすでに食べたいものが決まっているというよりも、広告を見た感覚で「美味しそう」「興味がある」という入りだったので、先述の購入体験とは心の動き方が違ったのかもしれません。

一方で、デザイナーとしてInstagramやTwitterに配信するネット広告のクリエイティブを制作することもよくあるのですが、いざ人の心を動かすクリエイティブをつくろうと思うと非常に難しさを感じます。ただでさえスルーされてしまう広告クリエイティブに、その商品やサービスの世界観を崩しすぎずに目立たせる工夫を施しつつ、いかに購入導線の手助けができるかについては、日々苦戦している部分でもあります。同じクリエイティブでも文言が一つ変わるだけでコンバージョンが上がったり下がったり、先ほどの私の購入体験でもジャンルによって心の掴まれ方が違うように、どの広告でも“絶対にこの手法をやれば勝つ”というルールが存在しないからこそ、面白さを感じています。

私自身がデザイナーという職業柄であることから、広告を見ることもつくることもある、比較的特殊な立場にいると思います。今月号のコラムで自分の体験を言語化したことで、逆に制作時のヒントに繋がった気がしています。ユーザーのひとりとして広告での商品やサービスとの出会いを楽しみにしながら、一方でデザイナーとして、売上をつくったり知名度を上げたり、デザインの力でもっと成果を出せるように一層技術を磨いたり、もっと売れるクリエイティブへの知見をためていきたいです。

2020年にTwitterで広告を見かけて購入したシャンパンいちご大福。ちょうど最初の緊急事態宣言中で、少しリッチなおうち時間を楽しむのにぴったりだと思い、まんまと購入してしまいました
ナビゲーター:小島香澄
株式会社KOS デザイナー。ハウスメーカーに新卒入社、資料のデザインが褒められたのをきっかけに、デザイナーとしてWeb制作会社に転職。日々の学習記録をSNSで発信していると、“モテクリエイター”として活動するゆうこす(菅本裕子)の目に留まり、2019年より現職。ゆうこすの手がけるサービスやプロダクトのデザイン全般を担当。 Twitter:@_mi_su_ka_
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