拡大するEC市場。その焦点はどこに?●特集「EC再強化」

大きな成長が見込まれる背景

「ピーヒョロロロー」という音とともに、インターネットのダイヤルアップ接続の商用サービスが日本で開始されたのが1993年。一般電話回線を使ったインターネットに接続することができるようになったのがこの年です。その後、Windows 95のリリース、時間限定ながらネット使い放題を実現した「テレホーダイ」、そして本格的な常時接続回線であるADSL、光ファイバーの普及と、徐々に社会的インフラが整備され、そして現在、内閣府調査によれば、スマートフォンの保有台数は100世帯あたり116.4台に達し(平成26年度)、1家に1台以上の時代を迎えています。もはや、インターネット利用はモバイル中心になりつつあるのです(01)。

このように日常的な道具になったスマートフォンで、ユーザーはさまざまなコンテンツやサービスを利用するようになっていますが、ネット利用の主な目的はというと「コミュニケーション」、「情報収集・コンテンツ利用」、「オンラインゲーム」、そして「買い物」です。2014年のネット通販流通総額は13兆円、通販化した比率は4.3%で、このまま推移していくと2018年には20兆円、通販化率6.5%にまで達すると期待されています(02)。

 

01 インターネット利用端末別使用割合

出典:総務省「通信利用動向調査」をもとに制作

 

02 ネット通販の流通総額と通販化の割合

出典:平成26年度 経済産業省「我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」より

 

成長を牽引しはじめた食品・酒・飲料

このように発展を続けているEC市場における商品ごとの「EC市場規模」は03のとおりです。市場規模の大きな「衣類・服装雑貨等」「生活家電・AV 機器・PC・周辺機器等」「食品・飲料・酒類」、「雑貨・家具・インテリア」の4つのカテゴリーは、すべて市場規模が 1兆円以上。4カテゴリー合計で物販系分野の7割以上を占めています。

ただし、このベスト4の中で、「ネット通販比率(EC化した割合)」が高いと言えるのは、「生活家電・AV 機器・PC・周辺機器等」「雑貨・家具・インテリア」で、なかでも「食品・飲料・酒類」については、まだまだ低いというのが現状です。しかし、だからこそ伸び率が高く、いま最も注目が集まっている分野でもあるのです。

加工食品など長期間買い置きが可能な商品はECでの購入に向いていますし、高齢者人口の増加や内食指向、さらには個食化、共働きによる家事の簡素化・時間短縮、オーガニック、お取り寄せブーム‥‥といった社会背景やライフスタイル、さらには食に対する意識の変化にともなって、食品や飲料をECサイトで購入しようというニーズが広がっています。

なお、「食品・飲料・酒類」の市場は、国内の物販でもっとも大きなもので、60兆円以上と言われています。今後EC市場の中でより存在感を増すのは間違いのないところでしょう。

 

03 物販系分野 各カテゴリーでの構成比率

出典:平成26年度 経済産業省「我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」より

 

消費者の変化とECの拡大

江戸、明治、大正、昭和、そして平成と時代が変化しても、「商い」の根底には普遍の法則がありますが、現代のEC事業者はそういった法則以外の部分、たとえばインターフェイスや決済方法、物流の進化といった側面と向きあい、ひたむきに努力しているからこそ、右肩上がりで市場が拡大しているわけです。

近年、スマートフォンならびにタブレットでのEC利用率は、PCの利用率を超えようとしていますが、今後はこれらのモバイル端末が、EC市場の拡大に寄与していくと考えれらます。それにともなう、EC事業者の環境変化への対応にはおおいに注目したいところです。

たとえば衣類業界では、2013年頃より「WEAR」「コーデスナップ」「iQON」などの「ファッションコーディネートアプリ」がスマートフォン用に登場し、女性を中心に利用者が拡大しています。利用者が自身の服装のコーディネート写真を投稿する機能や、投稿された写真の中から自分の好みにあったコーディネートを探し出すことができる機能が好評を得ているというわけです。こういった部分から、消費行動パターンの変化が見て取れると言えるのではないでしょうか。

 

見逃せない購買層の変化

EC市場の拡大に寄与する要因に、「インターネット利用者世代の変化」があげられます。もともと多かった20~30代に加えて、40代や50代の利用率が増加しているのです。Eコマース黎明期と言われた1999年から16年。当時30歳だった利用者もすでに46歳、40歳だった人はすでに56歳になっています。所得が多いこの世代がEC市場の平均購入単価を引き上げていくことは間違いのないところですが、彼らが何を求めているのか、その点にはおおいに注目すべきでしょう。当然、購入されるアイテムも今後大きく変化していくと考えるべきです。

 

ネットスーパーの登場が表すもの

かつて、EC市場では、実店舗では手に入れることができない「こだわりの商品」が売上に貢献するとして注目され、各店舗はその専門性を強め、ほかにはない商品をアピールすることで業績を拡大してきました。一方で、どこにでも売っているような商品は、「ECではまず売れない」と考えられ、実際に売れる商品になるようなことはありませんでした。

ところが最近では、「当日発送」や「送料無料」といったサービスを採り入れるECショップや、注文したその日に配送するネットスーパーのように、物流を強化したサービスが登場しており、これまでまったく売れなかったペットボトル飲料や、お米、缶詰のような「食料品」、さらにはトイレットペーパーやおむつなどの「かさばる商品」も、ECショップで購入する人が増えてきました。この現象は物流だけでなく、決済方法の進化など、安全性が定着すれば、さらに拡大していくものと考えられます。

 

小売そのものの変化と進化

一方、これらEC市場及び利用の拡大に伴い、「O2O」と呼ばれる取り組みが盛んになってきていることも見逃せません。O2Oとは、ネットショップである「Online(オンライン)」側と、実店舗「Offline(オフライン)」側の購買活動が相互に連携しあう仕組みのことを指します。

たとえば、ネットスーパーが、実店舗で使えるクーポンを配信することで実店舗への誘導を促したり、雨の日には実店舗からネットスーパーでの消費を誘導するといった相互の利点を活かした取り組みのことです。「オンラインクーポンを利用して、実店舗で商品やサービスを購入したことがあるか」と質問をしてみると、スマートフォン保有者でおよそ6割、未保有者でも約4割が「ある」と回答しています。この結果は、この数年で大きく伸びてきています。スマートフォンの普及にあわせ、これらのサービス利用もよりいっそう浸透していくでしょう。

 

日本市場の特殊性?

実店舗では商品を「見るだけ」で、「ネットで買う」という、いわゆる「ショールーミング」と呼ばれる消費行動が目立ってきていますが、そこには日本ならではの消費行動があるようです。04の結果の通り、日本では他国よりも、「実店舗で商品を調べてからインターネットショップで購入する」という人が多いのです。日本人の文化的特性なのか、ECと実店舗の間に他国とはやや異なる、独特の関係性がありそうです(参照:05)。

ある意味でECの活用が進んでいるとも言えるのかもしれませんが、まだまだ日本のEC市場が遅れをとっていると考えられる点もあります。たとえば、「スマートフォンの購入とネットショッピング・オークションの関係」を尋ねたアンケート調査の結果を見ると(06)、日本では「増えた」と回答している人が3割に止まっているのに対し、韓国、シンガポールにおいては4割以上が「増えた」と回答しています。こういった独特の感覚をどうECサイトに活かすか。サイト運営者の腕の見せ所かもしれません。

 

04 実店舗で商品を調べてからインターネットショップで購入する人の割合

出典:平成26年 総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」より

 

05 実店舗を利用する目的(日本)

出典:平成26年 総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」より

 

06 スマートフォン購入後のサービスの利用度変化(ネットショッピング・オークション)

出典:平成26年 総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」

 

驚くべき成長を見せる新市場とは

最後に、今後の市場に大きな影響を与えそうなテーマを一つ紹介します。経済産業省のデータによると、中国の消費者による日本への「越境EC」による購入額が4,000億円に迫ろうかという、たいへん大きな規模となっていることです(07)。また日本、中国、アメリカ間それぞれの越境ECの規模も、日本から中国への購入額がまだ小さいのを除けば、非常に大きな額になっています。2020年時点での日本・米国・中国の越境EC規模は約4.1兆円と2.5倍にまで膨れあがるとの予想もあるなかで、注目はやはり中国です。消費者の越境EC利用率(35.4%)が、日本(10.2%)及び米国(24.1%)より高いこともあり、今後のさらなる拡大が予想されます。日本のEC市場は、国内の消費はもとより、海外からの注文において、大きな伸びしろを持っていると考えられるというわけです。

 

07 2013年 日本・アメリカ・中国相互間の消費者向け越境EC市場規模(推計値)※矢印はお金の流れ

出典:平成25年度 経済産業省「我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」より

 

Text:中谷昌弘(通称:トントン先生)
ネットショップ経営戦略支援コンサルタント トンゼミCEO、一般社団法人ジャパンEコマースコンサルタント協会理事。現場を知り尽くした机上の空論でない解析に基づくPDCAプログラムに基づき理路整然とした指導にコンサル依頼が後を絶たず、現在迄に215社ものネットショップ運営に携わり、数々の繁盛ショップを輩出する第一人者。
  • URLをコピーしました!
目次